(四・五)健一、誕生
文字数 1,464文字
華やかな結婚式の映像が、画面から消えてゆきました。
次に白いビルが映りました。ビルの看板には、こう書かれていました。
『鶴亀産婦人科病院』
「どこだろう、ここ?」
健一は疑問に思いました。するとよろこびさまがまたしても意地悪小僧のように、健一に尋ねました。
「ここは健一くんにとって、一番大切な場所なんだけど。覚えていないのかな、健一くん?」
「ええっ?ぼく、全然覚えてないよ、こんなとこ。ねえ、どこ、よろこびさま?」
健一は首を横に振りながら、よろこびさまに尋ね返しました。
「さて、どこだろうね。じゃ、一緒に見てみよう」
「うん」
健一は黙って、ノートパソコンの画面を見つめました。画面は病院の中へと入っていきます。病室が並ぶ廊下が映りました。おやおや、そこに健一の知っている人物がいますね。一体、誰でしょう?
「あれっ、お父さんだ!」
健一が叫ぶように言いました。
「結婚式の時みたいに若いけど、やっぱりぼくのお父さんだよ。ね、よろこびさま」
「そうだね、健一くん」
「お父さん、こんな所で一人で何してんだろ?そわそわしてるし」
「そうだね、どうしたんだろうね」
よろこびさまが白々しく相槌を打ちます。確かにお父さんの様子が変です。さっきから廊下の椅子に座ったり、立ち上がったりを繰り返して、何だか落ち着きがありません。それに何かぶつぶつ呟いてもいますね。腕を組んだり、祈るように手を合わせたり……。
「あっ、わかった。お母さんが病気なんだ」
健一の顔が俄かに曇りました。お母さんのことが心配になったからです。
でもお父さんが若いってことは、お母さんも若いはず。つまり過去の出来事。だったら大丈夫!だってお母さんは、今もちゃんと元気でいるんだから……。
大丈夫!健一は心の中で、自分に言い聞かせました。そしてそのまましばらく、ノートパソコンの画面をじっと見守りました。
しばらくすると病室のドアが開いて、中から若い看護師さんが飛び出してきました。病室の中から、何かが聴こえてきます。
「オギャー、オギャー、オギャー……」
どうやら赤ん坊の泣き声のようです。そして看護師さんは、待っていたお父さんにこう告げました。
「お父さん、無事産まれましたよ。元気な男の子ですよ」
それを聞いたお父さんは、思わずガッツポーズ。
「やったーーっ!」
大声を出して、大喜びです。そのくせ目にいっぱい涙を浮かべ、泣いていました。
健一はその場面をじっと黙って、見つめていました。
あれっ?
元気な男の子ってことは。もしかして……ぼ・く・の・こ・と?
ぼくが、産まれたってこと?
健一はよろこびさまに向かって、恐る恐る確かめました。
「よろこびさま。もしかして、これ……」
男の子ということは、勿論洋子ではありません。ではあとは確かに、健一しかいませんね。よろこびさまが、やさしく答えます。
「健一くん、勿論、きみだよ。きみが産まれた、瞬間だよ」
「やっぱり……」
健一は、胸が一杯になりました。
お父さん、あんなにはしゃいじゃって。ばかみたい、お父さん……。
画面の中のお父さんの姿を見つめる健一の目にも、じわーっと涙が込み上げてきました。
「良かったね、健一くん。お父さんもお母さんも、みんな大喜びだね」
よろこびさまも嬉しそうに言いました。
「うん。ありがとう、よろこびさま」
涙を拭いながら、健一は照れ臭そうに答えました。そして画面の中のお父さんとお母さんに向かって、再び手を合わせ、健一は感謝の言葉を述べました。
「お父さん、お母さん。ぼくを産んでくれて、本当にありがとう」
次に白いビルが映りました。ビルの看板には、こう書かれていました。
『鶴亀産婦人科病院』
「どこだろう、ここ?」
健一は疑問に思いました。するとよろこびさまがまたしても意地悪小僧のように、健一に尋ねました。
「ここは健一くんにとって、一番大切な場所なんだけど。覚えていないのかな、健一くん?」
「ええっ?ぼく、全然覚えてないよ、こんなとこ。ねえ、どこ、よろこびさま?」
健一は首を横に振りながら、よろこびさまに尋ね返しました。
「さて、どこだろうね。じゃ、一緒に見てみよう」
「うん」
健一は黙って、ノートパソコンの画面を見つめました。画面は病院の中へと入っていきます。病室が並ぶ廊下が映りました。おやおや、そこに健一の知っている人物がいますね。一体、誰でしょう?
「あれっ、お父さんだ!」
健一が叫ぶように言いました。
「結婚式の時みたいに若いけど、やっぱりぼくのお父さんだよ。ね、よろこびさま」
「そうだね、健一くん」
「お父さん、こんな所で一人で何してんだろ?そわそわしてるし」
「そうだね、どうしたんだろうね」
よろこびさまが白々しく相槌を打ちます。確かにお父さんの様子が変です。さっきから廊下の椅子に座ったり、立ち上がったりを繰り返して、何だか落ち着きがありません。それに何かぶつぶつ呟いてもいますね。腕を組んだり、祈るように手を合わせたり……。
「あっ、わかった。お母さんが病気なんだ」
健一の顔が俄かに曇りました。お母さんのことが心配になったからです。
でもお父さんが若いってことは、お母さんも若いはず。つまり過去の出来事。だったら大丈夫!だってお母さんは、今もちゃんと元気でいるんだから……。
大丈夫!健一は心の中で、自分に言い聞かせました。そしてそのまましばらく、ノートパソコンの画面をじっと見守りました。
しばらくすると病室のドアが開いて、中から若い看護師さんが飛び出してきました。病室の中から、何かが聴こえてきます。
「オギャー、オギャー、オギャー……」
どうやら赤ん坊の泣き声のようです。そして看護師さんは、待っていたお父さんにこう告げました。
「お父さん、無事産まれましたよ。元気な男の子ですよ」
それを聞いたお父さんは、思わずガッツポーズ。
「やったーーっ!」
大声を出して、大喜びです。そのくせ目にいっぱい涙を浮かべ、泣いていました。
健一はその場面をじっと黙って、見つめていました。
あれっ?
元気な男の子ってことは。もしかして……ぼ・く・の・こ・と?
ぼくが、産まれたってこと?
健一はよろこびさまに向かって、恐る恐る確かめました。
「よろこびさま。もしかして、これ……」
男の子ということは、勿論洋子ではありません。ではあとは確かに、健一しかいませんね。よろこびさまが、やさしく答えます。
「健一くん、勿論、きみだよ。きみが産まれた、瞬間だよ」
「やっぱり……」
健一は、胸が一杯になりました。
お父さん、あんなにはしゃいじゃって。ばかみたい、お父さん……。
画面の中のお父さんの姿を見つめる健一の目にも、じわーっと涙が込み上げてきました。
「良かったね、健一くん。お父さんもお母さんも、みんな大喜びだね」
よろこびさまも嬉しそうに言いました。
「うん。ありがとう、よろこびさま」
涙を拭いながら、健一は照れ臭そうに答えました。そして画面の中のお父さんとお母さんに向かって、再び手を合わせ、健一は感謝の言葉を述べました。
「お父さん、お母さん。ぼくを産んでくれて、本当にありがとう」
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