(三・六)老化

文字数 725文字

 かなしみに沈んだ健一を置き去りに、画面はまた替わりました。
「あっ、おじいちゃんとおばあちゃんだ」
 かなしみを忘れ、健一が声を上げました。
 画面には、健一の祖父の富三郎と祖母の菊江の姿が映っていました。どうやら二人の家の中のようです。でも富三郎と菊江は浮かない顔で、何か深刻そうな話をしています。先ず富三郎から。
「あゝ、痛い、痛い。体のあちこちが痛くて、かなわんなあ。こんなに毎日苦しいんだったら、さっさと死んでしまいたい」
 これにはショックの健一。えーっ、死んでしまいたい、って。おじいちゃんが、こんな弱音を吐くなんて……。でも菊江の方だって、負けてはいません。
「わたしだって大変ですよ、おじいさん。最近は物忘れがひどくてねえ、さっき夕ご飯食べたことも忘れてるんだから。ほんと、やんなっちゃう」
 えーっ、おばあちゃんまで。健一はまたショックを受けました。
「ふたりとも、いつもにこにこ、元気そうにしてるのに」
 健一の呟きに、かなしみさまが答えます。
「そうだね、健一くん。でも健一くんが知らないだけで、本当はみんな、大変なのかも知れないよ」
「ええっ。ほんと、かなしみさま?」
 かなしみさまの言葉に、健一はまたまたショックのようです。画面の中ではまだ、富三郎と菊江の会話が続いています。
「あら、おじいさん。明日は健ちゃんたちが遊びに来る日じゃない?」
「あゝ、そうだったな。すっかり忘れていたよ」
「あらあら。しっかりしてよ、おじいさん。明日は絶対辛そうな顔しないで、にこにこしていて下さいよ」
「わかってる、わかってる。健ちゃんたちには、心配かけたくないからな」
 二人の会話に、健一は胸が詰まりそうになりました。
「おじいちゃん、おばあちゃん……。ありがとう」
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