第12話「-273℃のエアコンが欲しいんだと」

文字数 2,634文字

うー、あっつぅ。

おっ魔王が珍しく仕事してる

おう竜王。なんだ、涼みに来たのか?

前みたいに冷房設定10℃とか訳わからんことすんなよ

しょうがねぇな。

環境に悪いと思うが、そこまで言うなら0℃に設定しておいてやるよ

暑いってゴネてる訳じゃねぇよ。寒いんだよ。

もうお前設定いじるな。そのままにしとけ。

なんだそっちか。

じゃあ仕方ないからこのままにしておいてやるよ、俺に感謝しろ

俺の部屋だって分かってる? ねぇ?
それにしても今日はしっかり仕事してんじゃねーか。

どういう風の吹き回しだ?

しょうがねぇだろ。

獣王と海王ちゃんからああまで言われたら多少は真面目にやらねーとな

ふーん。で、本音は?
獣王が明後日から視察でしばらく留守にするから、それまでの辛抱だ
本当反省しないよなお前
いいんだよ別に。

それに今はレコーディングで忙しいし

桃鬼とやってるやつか?

結局、魔王城が金出して作るらしいな

ああ。これがヒットするようなら副業でレコード会社を経営する。

桃ちゃんを最初のアーティストとして売りだすのさ。

そんで俺も協力中ってわけ

一緒に歌うの断られてなかったっけ?

あのフューチャリングってやつ

アーティストってモテるらしいから、どうしても入れてくれって頼んだら快く引き受けてくれたぜ
会社作って儲けるのは口実で、本音はモテたいだけかよ。

ホント平常運行だなお前

何とでも言え。

これが成功したらお前も獣王も俺に文句言えなくなるんだからよ

あっそ。ところで勇者のやつは今どうしてんだ?
んー? さぁな。魔王城の近くにはいないらしいが
おいおい、勇者の情報も掴めてな……
……
はーい黙ってやり過ごそうとしても無駄でぇぇ~~す

偵察は空戦勢の管轄でええええすぅ

無能なのはお前のトコなんでええええっっすぅ~~

あぁ!? うるせーよ!!

ブレスで今よりもっと暑くすんぞ!!

いやあもう、空戦勢が役に立った試しがねぇよホント。

もう責任取って竜王辞めちゃう? ねぇ辞めちゃう?

はいキレたー! 今俺キレたー!

おまえちょっと表出ろ!

あれー? 部下ごときが俺にそんな態度を取っていいのかな~?

魔王ぞ? 我、魔王ぞ?

んだとコラ! テメー……


ガチャッ


……
ん? 誰だ?

いつもの流れで獣王かと……

……あっ! 海王ちゃんのかーちゃんじゃねぇか!
海王の? あいつに親とかいたのかよ?
海王ちゃんをなんだと思ってんだ……。

ママさんは先代魔王がまだ魔王だった頃、

勇者パーティーとの戦いに負けて氷漬けで封印されちまってたんだよ

氷漬けで封印?

じゃあママさんが今ここにいるってことはその封印が解かれたのか

ああ、そういうことだ……。

ママさん、もしかして封印が解かれた原因は……。

まさか……ヤツか!
……あいつは……恐ろしかった……
……
直射日光……
勇者ちゃうんかい!!
直射日光で氷が溶けたのかよ!!

そりゃ今年の夏はとんでもないくらい暑いけども!!

てっきり、何か企んでる勇者が封印を解いたのかと思った
……
ま、まぁいい。

それでママさん、封印が解けた後どうしたんだ?

もう一度寝ようと思って……

-273℃に設定できるエアコンを探した……

いや、封印=寝るってのがまず違うし、

そんな電化製品という名の兵器はないと思うぞ

それを探して……そして……
そして?
ここに辿り着いた……
だからうちには置いてねーよ!! そんな兵器!!

なんでここにあると思ったんだよ!

今のは……冗談……
え? 冗談? 分かりにくいから勘弁してくれよ
ここに置いてあるとは……思ってない……
ああ、まあそれはな

おい今の言い方だと「-273℃の冷房は本当に探してる」って意味だぞ

マジかよ! だからそれはないんだって!
……
……ママさーん? 聞いてる?
ここに来た本当の理由は……娘に会うため……
ああ、そうなの……

起きてんのか寝てんのか分かんねーな

……
今いるか分かんねーけど呼んでみるか……。

海王ちゃーん?

はぁーい……あっ! お母さん!
……
……寝てる??
いや、起きてる。……多分
長い封印から解かれてまだ頭が回ってないんじゃね?
ああ、それもそうだな。前はこんな感じじゃなかったよな?
さぁ? 知らないですねー
た、他人事……

君の親だよな??

でも、お母さんに会えて嬉しいです!

これからはここにいるんですか?

いや……この目的を遂げた以上……

残すあと1つの目的を……遂げなければならない……

もう1つの目的?
-273℃のエアコンが欲しいんだと
わぁ! 涼しそうですね!
海王ちゃん、

「涼しそう」の形容が許されるのは「冷蔵庫の冷気」までだ

でもお母さん、お母さんは氷を操れるんですよね?

自分で凍ったほうが早いんじゃないですか?

あれ? 自分で凍るとか出来んの?
氷を操れるのになんで氷で封印されてんの?
いや、氷魔法を反射されて凍らされたと聞いてるんだけど……

自分で凍れるくらい自由自在なら、逆に自分で解除できたんじゃないのか?

……皆の者……よく聞きなさい……
お、おう
なんだなんだ
聞きますよー
……
……
氷の中は……涼しい……
望んで封印されたままだったのかよ
最初から封印されてねーじゃん
お母さんらしいですね!
しかし……自分で凍るというのは盲点……

娘にも会えた今……再び眠ることにしよう……

結局寝たいだけなのか
    ビキッ

 キキキッ

           バキキッ

!?
!?
!?
   ビキッ   ミシッ

 バシッ          バキッ

     バキバキッ  ビキキッ 

   バキキキキッ

ちょっちょっ! 待て待て!

俺たちも凍る! ここでやるな!

おい、俺の羽が凍ってきたぞ!(パキパキ)
こおるー(パキパキ)
パリパリパリパリビシシシバキバキガチガチガチガチパキパキパキビキキキパキキキミシミシバチバチバチバキキキゴキゴキメキメキ
勇者より……タチ悪いぞ……これ……(パキパキ)
-0℃の比じゃねぇ……(パキパキ)
こお……るー……(パキパキ)







ガチャッ


魔王様、失礼しま……
 
(パキーン)
(パキーン)
(パキーン)
……


ガチャッ


見てない……ただでさえ死ぬほど忙しいのに、明らかに僕の手に負えないような事が起こってる現場なんて見てない……絶対に……絶対に見てない……このまま部屋に戻って仕事を続けよう……そうだその方が良い……(カッカッカッカッ)
その後、「いや良いわけないでしょ!」と現実に戻った獣王が助けるまで、

4人はずっと凍っていたそうな。獣王の苦労人気質は加速していくばかり。

次回、これ以上何かが起こらない!

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登場人物紹介

魔王

魔界を束ねる、全ての魔族の頂点。

すぐに諦めちゃう性格。竜王から熱い個人情報の漏洩を受けている。

獣王

獣の王。獣の定義が広いので勢力が最も大きい。

真面目なので魔王の行動に振り回されがちだが、腹黒い一面も。

竜王

竜族の王。空も飛べる(はず)。

何事も面倒くさがり、他人に押し付ける性格。魔王とは古くからの親友である。Twitterではけっこうな数のフォロワーを持つ。

海王

海にいる魔族の王。女……メス。

半スライム的な肉体で、水に溶けたりできる。海で戦ったら勝てない。

素直な性格だが、しょうもない事や下ネタを言ったりすると冷たい目で見られる。一部魔物に好評なまなざし。

桃鬼

鬼。ピンク色の髪をしているので桃鬼と呼ばれている。
通称桃ちゃん。すごい力持ちだが、あんまり頭はよくない。
桃鬼なのにあんまり桃が好きじゃないことを気にしている。

勇者

人間の国が経済破綻したので、代替案として送られた勇者。

その割に、SNSを活用して魔王を追い詰めたりとデキる奴。

海王母

海王の母。氷王という名前を考えているが披露する機会がなさそうな上にこれ肩書き。封印が長かったためか、元々の性格なのか、意思疎通できない時がある。厳かな物言いだが、言ってる内容がズレているのはやはり海王の母といったところか。

翠魔

生真面目なサキュバスという、特徴を最大限相殺していく子。

真面目すぎてボケに回るタイプ。下ネタにも弱いが、海王みたく武力行使はしない。読み方は「すいま」だが睡魔とは一切関わりがない。

妖黄

エルフ。ようきと読み、本人はきーちゃんと呼んでほしいらしい。

笑顔が持ち味。頭が空っぽで、しばしばやってはいけないことを平然とやる。

お嬢様

人間。まだ名無しなのでとりあえずお嬢様という肩書に。

その肩書に恥じない名家の出身で、お上品な性格と言葉遣いの美人。

しかし、ある一点においてのみ他キャラをぶっちぎる狂気性を持つ。

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