第13話「男子トイレにも入れねーサキュバス……」

文字数 2,999文字

ガチャッ
失礼します。魔王様……あれ?
おう。あいつならいねーぞ。

何の用事だ?

これは竜王様。私、悪魔の翠魔(すいま)と申します。

出張の獣王様に代わって、魔王様のお仕事を手伝いに参りました

あっそう。また面倒な役目を押し付けられたな。ご愁傷様
いえ、とんでもないです!

魔王様のお手伝いをさせていただけるなんて、この上ない名誉です!

ああ、うん……そういう捉え方も存在したんだな
獣王様より、魔王様から目を離さないよう仰せつかっているのですが……魔王様は今どちらに?
……ああ、なるほどな。全部合点がいったわ。

今さっき「なんか嫌な予感がする……竜王、俺ちょっと逃げるわ」つって走って行ったから頭おかしいんじゃねぇかこいつって思ったけど、奴一流の危機回避能力だったんだな

に、逃げた? いったい何から逃げたんですか?
奴が魔王として背負うべきカルマ、多くの社会的動物が忌み嫌うもの、逃れられない宿命……その重さに耐え切れず逃げ出したのさ
……?? えっと、つまりそれは、どういう……?
または、仕事(を促す存在)が面倒だから(直感で)逃げたとも言う
えーっ!? まだ何も言ってないのに逃げてしまわれたんですか!?
言われてから逃げるんじゃ遅いからな
そ、そんな~……今どこにいるかはお分かりになりませんか?
さあな。

奴のことだから、お前がいなくなった途端に戻ってくる可能性まである

い、いつ頃戻るかとかは?
知らん
ど、どうにかなりませんか……?
ならん
うう……このままだと獣王様が帰ってきた時になんて言えばいいか……
そこは安心しろ。怒られるのはあいつだ
いえ、だからこそ尚更ですよ。

魔王様が不名誉を被らないようにするのが私の役目です。

なんとしても魔王様に働いていただかないと

ああ、うん……そういう捉え方も存在したんだな
そうです。竜王様、本当にどうにかなりませんか?

魔王様とご友人であられる竜王様なら心当たりくらいはあるのでは

しょうがねぇな。どうせ暇だし、魔王探しを手伝ってやるよ
本当ですか!? ありがとうございます!
さて……あー、面倒くさくなってきた。やっぱやめよっかな~
えっ、そ、そうなんですか?

ではそうおっしゃるなら1人で探しに行きます

……
……あ、あの?
オラ、さっさと行くぞ
あれ? やっぱり行くんですか?

ちょ、ちょっと、置いて行かないでくださいよー!


~男子トイレ~


フッフッフーン♪ フッフッフーン♪ フッフッフッフッフーン♪

YO まずはあたしの声聞きな~♪

バイブス満タンで吠えてみな~♪

コンコン
あ、入ってまーす
(バキッ)(ガチャッ)チッ、いないか
いや、いるって言ってんじゃん!?

ちょちょ、竜王さん何ぶち開けて確認してんすか!

やっぱここにはいな……あれ? どこ行った?

おーい、何やってんだそんなとこで

無理無理!! 無理ですって!!

ここ男子トイレですよ!?

お前が探すって言い出したんだろうが……。

まぁいいや、ここにはいないし他を当たるか

まるでいないかのように扱うのやめてくださいよ!?

ちょ、どこ行くんですか! せめて! せめてドアだけ直してー!


~城下町~


くまなく探しましたけど、城内にはいませんでしたね。

城下町にもいなかったらもうどうしようもないですね……

そうだな。つーかお前悪魔なんだよな?

なんで男子トイレ入るのにも躊躇してんだよ

いやその、昔から生真面目さだけが取り柄でして
本当に悪魔かよ。悪魔こそサボってそうだろ。

仕事もその方が悪魔的だからって理由で5年くらい寝坊すりゃいいのに

そんなのクビにならない方がおかしいですよ……。

でも私、仲間内でも生真面目すぎて浮いてるんですよね……

そりゃ、羽が生えてるからな。

浮いていたところでおかしくはないだろ

え? いや、違いますよ。浮いてるっていうのは物理的な話ではなく、仲間とあまり馴染めないという意味です
……ああうん、分かってるし分かった。

なんか生真面目な悪魔ってのも珍しいな。そういう種類の悪魔なのか?

あ、その……。

……サ、サキュバスです……。

……
……
男子トイレにも入れねーサキュバス……
も、もうこの話はやめにしましょう!

それより竜王様、今私たちはどこに向かってるんです?

キャバクラ
キャ、キャバ……本当にそんな所にいるんですか……?
女好きだからな。普通の女に相手されないから、女が相手してくれるキャバクラに行く可能性は高い
か、かなしい……
まあ俺の予想だとキャバクラに出入りしまくってて出禁になってそうだけど、どちらにせよキャバ嬢に聞けばあいつがどこにいるかの情報くらいは……


あ、情報といえば、そういやあの手があったな






俺のターン! ドラゴンで勇者に攻撃!
まほうカード「身代わり」はつどう!

場の戦士をぎせいにして勇者をまもる!

なに!? まずいぞ、ここで倒せないと後が……
そして俺のターン! 「ドラゴンキラー」を勇者にそうび!

勇者でドラゴンにこうげきだー!

やべぇ! 俺のドラゴンが!
そして魔法使いの大まほうでこうげき!

俺の勝ちだー!

ギャー! 負けた―!
なにお前よりによってドラゴン使って負けてくれてんだよ
あ、竜王。なんでここが分かった?
お前の情報はSNSで拡散されている
総監視社会こっわ
恨むなら魔王の肩書きを恨め
……まぁいいや。

おい坊主ども、うるせーのが来たから今日は終わりだ。

約束通りそのドラゴンやるから大人しく帰れ

すげー! ドラゴンだー!
やったー! ありがとおっさん!
誰がおっさんだコラァ!!
おっさんが怒ったー!
にげろー!
わー!
ちっ、生意気な奴らめ
子供相手に怒るとか大人げなさすぎだろ
あぁん? 仕方ないだろ、あいつらすぐ調子に乗るんだよ。

まあ暇つぶしに遊んではやるがな、大人だから

その割にガッツリ本気でやってたろ
獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすって言うだろ。

本気で相手してやるのが礼儀なのさ

今回負けてたけどな、お前
うううるさいわい!! 次は俺が勝つ!
うーん、これだな。This is itって感じだ
はぁ? 何言ってん……お? そっちのは……
あ、あのう……
誰かと思ったら、翠魔ちゃんじゃねーか。どうしてここに?
えっ!? な、なぜ私の名前を?
会ったことはないけどな。

魔王軍にいるかわい子ちゃんは全員チェック済みだぜ

か、かわい子ちゃんだなんてそんな、滅相もありません!
で、2人で何しに来たんだ?

カードゲームがやりたきゃ教えてやるよ

獣王がこいつをお前の見張り役としてよこしたんだよ。

で、こいつがお前を連れ戻すって

あぁあ~~~なんか嫌な予感したんだよなぁぁ~~~!!
も、申し訳ありません。でも獣王様のお言葉なので……。

仕事しないと怒られるのは魔王様です。どうかお聞き入れください

あーうん分かった分かった。そういう約束だしなぁ~。

しょうがねー、今回は従うか

ありがとうございます!
よし、とっとと帰るぞ。早く部屋でくつろぎたい
はーめんどくせ……お、あんな所にかわいい女の子が。

お姉さーん! 俺とスライムジュースでも飲まなーい?(スタスタスタ)

俺の話聞いてねーなあいつ
――竜王様
あん? なんだよ
魔王様って、すごい人なんですね
そうか?
ええ!
お前がそう思うんなら、そうかもな。

さて、あのバカ回収しに行くぞ

はい!
うっとうしいー!
ギャー!!
あ~あ、殴られてら。あのバカ
なぜいい話っぽく終わったのか。とりあえず魔王は無事補導された。

ちなみにスライムジュースはいわゆるゲテモノ。気持ち悪いのが人気。

次回、これより何も起こらない!

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登場人物紹介

魔王

魔界を束ねる、全ての魔族の頂点。

すぐに諦めちゃう性格。竜王から熱い個人情報の漏洩を受けている。

獣王

獣の王。獣の定義が広いので勢力が最も大きい。

真面目なので魔王の行動に振り回されがちだが、腹黒い一面も。

竜王

竜族の王。空も飛べる(はず)。

何事も面倒くさがり、他人に押し付ける性格。魔王とは古くからの親友である。Twitterではけっこうな数のフォロワーを持つ。

海王

海にいる魔族の王。女……メス。

半スライム的な肉体で、水に溶けたりできる。海で戦ったら勝てない。

素直な性格だが、しょうもない事や下ネタを言ったりすると冷たい目で見られる。一部魔物に好評なまなざし。

桃鬼

鬼。ピンク色の髪をしているので桃鬼と呼ばれている。
通称桃ちゃん。すごい力持ちだが、あんまり頭はよくない。
桃鬼なのにあんまり桃が好きじゃないことを気にしている。

勇者

人間の国が経済破綻したので、代替案として送られた勇者。

その割に、SNSを活用して魔王を追い詰めたりとデキる奴。

海王母

海王の母。氷王という名前を考えているが披露する機会がなさそうな上にこれ肩書き。封印が長かったためか、元々の性格なのか、意思疎通できない時がある。厳かな物言いだが、言ってる内容がズレているのはやはり海王の母といったところか。

翠魔

生真面目なサキュバスという、特徴を最大限相殺していく子。

真面目すぎてボケに回るタイプ。下ネタにも弱いが、海王みたく武力行使はしない。読み方は「すいま」だが睡魔とは一切関わりがない。

妖黄

エルフ。ようきと読み、本人はきーちゃんと呼んでほしいらしい。

笑顔が持ち味。頭が空っぽで、しばしばやってはいけないことを平然とやる。

お嬢様

人間。まだ名無しなのでとりあえずお嬢様という肩書に。

その肩書に恥じない名家の出身で、お上品な性格と言葉遣いの美人。

しかし、ある一点においてのみ他キャラをぶっちぎる狂気性を持つ。

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