第36話 異国船の脅威

文字数 1,751文字

 引化2年2月に、老中に再任していた水野が隠居するのと入れ替わりに、

寺社奉行の阿倍正弘が、25歳の若さで「老中」に任命されて台頭した。

阿倍をはじめとする老中たちは、

開国を望む異国船の来航などの対外問題の対応に追われていた。

 前年の7月。オランダ国王の「開国勧告書」が届き、

さらに、その2年後には、英国軍艦「マリーナ号」が浦賀に来航した。

異国船を目撃したとの情報は逐一、修就の元にも伝えられた。

 修就は、江戸にいる友人、知人、諸藩などに

伝えられた情報について詳細を問い合わせ、

常に、正確な情報を把握するよう努めた。

修就の友人でもある新潟掛勘定奉行の榊原主計頭から、

蝦夷地へ英船が渡来し松前から

「固人数」を出したとの報せや能登の黒嶋沖に異国船が

出没した件についての問い合わせがあった。

村上藩や新発田藩からは、室蘭沖に異国船が現れたとの報せが届いた。

後日。村上藩から、広間役へ蝦夷地や室蘭沖に

異国船が1艘滞船したことから、

警備のため、松平志摩守から、1番手が派遣された旨の情報が入った。

別の日にも、同様のことが、溝口主膳正の家来から報告された。

嘉永元年、4月。羽州飛鳥沖に、帆柱3本、3千石ほどの異国船が

出没して大筒を打つ音が、3発聞こえたとの庄内藩の通達が、

村上・新発田両藩から通達がなされたため、

修就は速やかに、佐渡奉行へ通知した。

それから、1か月も経たぬ間に、

鼡ヶ関沖や粟生嶋沖に異国船が出没したとの通達が、

前回と同じ方法でもたらされ、修就から、佐渡奉行へ通達された。

それから2年後の6月には、佐渡の鷲崎沖にも異国船が現れた。

洲崎御番所では、定役2名ずつ泊まり込み、

町方の中使1名も詰めるなど警戒体勢を取り対応することになった。

また、新潟町内においても、新潟の廻船問屋の手船から、

越前国の沖合で異国船を見たとの通報が奉行所にあった。

修就は、新潟近海に帆影を発見した場合の通達法を

佐渡奉行と連名により、幕府に問い合わせた。

折り返し、幕府から指示と共に、

各自が慎重に備えるようとの通達が届いた。

一方で、修就自ら、情報収集に乗り出すこともあった。

修就は、蝦夷地へ渡来した英国船の警備のため、

100人余りの人数が武装して

函館を通行したことを見聞してきた

直乗船頭蒲原郡根屋村の善兵衛から、

詳しい事情を聴き取るよう

町方定廻り差免公事方当分勤の若菜三男三郎に命じた。

情報を受けた翌日から、調査を開始して奉行所から

町方へ異刻船渡来などの非常の節に、

町方人足の動員方法などについて通達を出すと共に、

翌日には、新潟湊へ入津する船の船頭以下乗組員の内、

沖合に異国船を目撃したり、途中の港などで

異国船の渡来に関する情報を見聞きしたりした人は速やかに、

届け出る旨を町役人を通して廻船宿へ申し渡した。

 引化元年には、「沖合異国船相見候節心得」を定めた。

 修就の働きがけに対する町民の反応は良く、

それから数日後。廻船宿世話方の利右衛門から、

23日に入津した松前の甚四郎の船が、

異国の事を話していた旨の書附が提出された。

そのうち、異国船が沖合に出没するだけでなく、

船長以下乗組員が上陸する事態が発生した。

嘉永2年、異国人が、隠岐に上陸したとの通達があった。

琉球では、来航した仏蘭西船の船長以下乗組員が上陸後、

琉球の民に対して乱暴を働く事件が起きるなど

対外問題が深刻化して、一段と、物々しくなった。

引化1年、5月。新潟では、御備船として天渡船四艘が完成した。

修就は、新潟出身の者たちの中から、

水主頭取を10名と足留水主30名を新たに雇った。

河口近くにある洲崎番所には、

これまでの町方の小役人が詰めていたのを改め、

水主頭取と足留水主の各2名が詰めることになった。

新たな組織ができると、早速、これまで備え付けていた

長岡藩領時代の武器は長岡藩に返却して、

海岸に18町余の大筒打場にするための杭を打った。

新潟に異国船が来航した場合の援兵について、

阿倍伊勢守からの指示が間便で届き、

村上藩の内藤紀伊守と村松藩の堀丹波守が、

修就の要請で援兵を送ることになった。

 その後、両藩から問い合わせがある度、

修就は両藩に指示を与えた。

御台場構築について伺いを幕閣に提出し指示が出ると、

早速、「築立て」に着手して、

御台場、灯明台・武器蔵・火薬蔵が設けられた。

 
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