§05 美杉遥@真帆

文字数 7,658文字

 昼食後、ふたりになるのも久しぶりだったもので、カフェに寄って話し込んでいるうちに、休憩時間を大きく過ぎてしまった。真帆のフロアまで一緒に昇り、真帆が遅く戻ったことから目を逸らすためにそこで少し道草を楽しんでから、美杉はエレベーターに乗り直した。営業部はふたつ下の階になる。この日は外出が多く、フロアはいつになく静かだった。
 自席に向かう途中で部長の鳴海(なるみ)に手招きされた。近くのミーティングコーナーから椅子を引いてきて、美杉はやや勢い込んで隣に腰掛けた。午前中の件に違いない。鳴海部長にまで話を上げるとは、いったいうちの課長どもはどこまで駄目な連中なのだろう――
「吾川さんの件で両角さんから部長のところに――」
「待て、待て。仕事の話じゃない」
「あら、失礼しました。…て、仕事の話じゃない?」
「美杉さ、来週の木曜、空いてる? 橋本(はしもと)さんと会食なんだけど、御指名」
「私を? 橋本部長が? なぜに?」
「正確に言うと橋本さんじゃなくて、種村(たねむら)くんらしい」
「ああ、種村さん。ああ、はいはい。う~ん、そうかあ、あの人かあ。う~ん、あ~…」
「そんな唸るほどかい?」
「種村さんてけっこう堅いんですよねえ。なんて言うんですか、お育ちがおヨロシイという感じ? 話題を継ぐのに神経使うんですよ、正直なところ。私そういうの得意じゃないんで、こう見えても」
「知ってるよ。でも今回はそういうのじゃないから」
「はい?」
「だから、仕事の話じゃないって言ったろう?」
 しばらく凍りついたような間をおいて、察した美杉が言葉を探した。
「それって、え~と、いわゆるその、『お見合い』的な?」
「そうそう」
「あ~、種村さんが、ん~、私を?」
「うんうん」
 嬉しそうに頷く鳴海を見る美杉の瞳孔がゆっくりと開き、声をひそめた。
「桁違いの

輿

じゃないですか!」
 鳴海も美杉に合わせ、わざとらしく声を抑えて応じる。
「俺も驚いたよ。まさかの美杉だもんなあ」
「どういう驚き方ですか、それ?」
「年下だろう?」
「二つだけです」
「遠慮するかい?」
「遠慮だなんて、そんなことわたくし、ひとことも申し上げておりません」
「じゃ、仕事に戻って」
「ひとつだけ!」
「なに?」
「どんな服着て行けばいいでしょう?」
「知らないよ、そんなこと」
 人が少ないせいもあり、小さな用件を次から次へと捌いているうちに、美杉遥の午後が終わった。夕方に部長の鳴海も姿を消していた。六時を過ぎ、電話の音がすっと鳴りやんだところで美杉も片づけをはじめ、三十分後にはオフィスを出た。
 ヒートアイランドの典型のような街並みを、地下鉄の駅に向かって歩きながら、美杉は昼休みのカフェで神崎真帆から聞いた――聞かされた――彼女と双子の弟――真帆は「弟」とは絶対に呼ばない――のあいだで十年にも渡って交わされてきた、奇妙な日記の話を反芻した。彼女がそれを、いま、抑え切れない衝動に突き動かされ、せっせと消しているのだという告白を。――暮れて行く空に眼をやったとき、美杉はふと、大事なことを思い出した。
 人通りを離れ、目についたビルのエントランスの脇に立った。思いのほかうまく夕暮れのざわめきを遮断してくれる。大きなビジネスバッグからスマートフォンを取り出すと、履歴をしばらく遡った。が、見つからないのでアドレス帳に切り替えた。「あ行」には見つからず、「な行」に登録されていた。そんなに長いことご無沙汰してたかしら…と思いつつ、耳に当て、応答を待つが、なかなか出ない。諦めかけたとき、低く張りのある声が応じた。
『もうすっかり忘れられたんじゃないかと思って、代役を当たろうかと考えはじめていたところだよ』
「池内くん、今日会える?」
『もちろんさ。美杉の誘いを断ったことなんて、少なくとも僕の記憶には見当たらない』
「渋谷がいいの?」
『いや、今日は新宿のほうが近いなあ。静かに話せるところを探しておいてくれないか』
「予算はどれくらい?」
『値段はいくら張っても構わないが、高度のほうは抑えてもらわないと困るよ』
 そう言えば高所恐怖症だったわね――美杉は行き先を乃木坂駅から大江戸線の六本木駅に切り替えた。

 高層ビルの地下に小ぶりで静かそうな和食料理屋を見つけ、入り口に近く他のテーブルと離れた隅に席をとった。店のサイトを探し、リンクをメッセージに添付した。二品ほど注文して、先にビールを飲みながら待った。上品なグラスを一杯飲み干したところに、池内(いけうち)夏馬(なつめ)がやってきた。
「二ヶ月ぶりだね」
「そんなに? ごめんなさい。…池内くんもビールでいい?」
「うん。食事も適当に頼んでくれ」
 頭抜けて背の高い大きな体から、男の汗の臭いがした。
「どこにいたの?」
「高円寺だ。ちょうど訪問先から通りに出たところだったよ。美杉はいつも計ったようにタイミングがいい」
「よくわからないけど…。取り敢えず注文しちゃうわね」
 美杉が店員と話している間、池内夏馬はテーブルをはみ出すほどに長い足を組み、顎の張った大きな眼をおもしろそうに動かしながら、メニューを開く美杉の顔を眺めていた。
 美杉は緊張した。この男はいつもそうしてなにもかも見透かしたような笑みを浮かべ、そして事実なにもかも見透かしている。再会したときからそうだった。
 二年前の春のことである。オフィスの受付電話から「いけうち・なつめ」と名乗る男が美杉を呼んだ。記憶のある名前だったが、すぐに思い出すことができなかった。ロビーに出て、その長大な体躯を眼にしたとき、いっぺんに記憶が蘇った。十四年ぶりのことであり、つまり、中学を卒業して以来、すっかり忘れていたクラスメイトのひとりだった。
 いちばん近いカフェに入った。池内夏馬は初めから交渉を持ち出してきた。どうやって調べたのか、そのとき美杉が陥っていた困った状況を、彼はほぼすべて承知していた。それを解決する代わりに、〈神崎真帆〉という大学生を預かってほしいという話である。
 美杉はすぐには信じられなかった。十四年も会っていない、中学の同級生の話だ。そんなもの、信じられるわけがない。ただ、話をしているうちに、美杉は少しずつ思い出していた。「池内」という一族のこと――美杉が生まれ育った町で、その名前を知らない大人はいない。みな知らないふり、忘れたふりをしているが、書き換えることは難しい。池内夏馬は、その本家の一人息子だ。
 本当に解決してくれるのなら、考えてもいい――美杉はいつの間にかそう答えていた。そして問題はあっさりと解決された。なにをしたのか?、どうやったのか?と尋ねても、池内夏馬は教えてくれなかった。企業秘密だと言って笑うだけだった。
 美杉は約束通り神崎真帆に会いに行った。会ってみることくらいは、さすがにしないわけにはいかない。そこで、美杉は真帆に魅了されたと言っていい。地元の国立大学ではちょっと有名なゼミではあったけれど、東京の一流大学とは遥かにレベルが違う。自分が同じ大学の同じゼミを卒業しているのだから、それは身に沁みてわかっている。
 だが、神崎真帆は違った。なにもかも違った。どうしてこんな女の子がここに通っているのか、俄かには信じられないくらいに違った。どうしても欲しいと思った。だから次の訪問には広瀬を同行した。広瀬の眼も同じものを見た。それを確かめたかったのである。
「広瀬氏は元気?」
 美杉ももう一杯ビールを注文して、グラスを合わせた。
「今日、入院したわ」
「入院!?
「ああ、痔の手術よ。週末には退院ですって」
「なんだ、そういうレベルの話か」
「でもやっとよ。いくら言っても聞かなかったんだから。神崎ちゃんのお陰かもしれない」
「え、広瀬氏が真帆に?」
「逆よ。神崎ちゃんが広瀬くんに夢中なの。彼女、もしかして免疫ない感じ?」
「ないねえ。全然ない。まったくない。あいつは瑞穂しか知らない」
「瑞穂くんて弟でしょうに」
「その弟のことしか知らないんだよ、本当に」
「ねえ、それって、日記の話と関係ある?」
「…真帆が話したのか?」
「それで池内くんに電話したんだけど」
「なるほど。そういう経緯(いきさつ)ね。それじゃあ、聞かないわけにはいかないなあ」
 美杉が語るこの日の昼食後のカフェでの一件を、池内夏馬はほぼ黙って聞いた。いくつか夏馬から確認があり、美杉が記憶をたどり直し、その間にふたりともビールをハイボールに換え、夏馬がテーブルの料理をあらかた平らげた。
 美杉の話が終わったとき、初めて夏馬のやや険しい表情を見た。美杉は不安になった。余計なことをしたのかもしれない。息を呑むと、動悸がした。池内夏馬の眼差しに、柔らかくも逃れられない手で、心臓をつかまれているようだった。
「解釈をするなって言われてたわね…」
「誰に?」
「池内くんよ。あなたそう言ったでしょう?」
「そうだったかな…。まあ、構わないよ。君が新しい意味を付け加えたわけじゃない。そうだろう?」
「私の解釈で正しい、てこと?」
「美杉、君には感謝している。でもこれは『池内』の問題だ」
「口を挟むな、てわけね」
「これからも時々あいつの話を聞いてやってほしい。それがあのとき僕が君に提示した交換条件だった。君は真帆と向かい合っておしゃべりするためにここにいる。僕が求めているのはそういうことだよ。…それとも、それだけじゃあ不満かい?」
 夏馬の眼差しが和らいで、美杉はほっと息をついた。
 誰かに見られている、と感じはじめたのは、二年半ほど前の冬の終わりのことだ。それは美杉の勘違い――過剰な自意識なり妄想を伴う疾患なり――ではなかった。ポストに手を入れたものがいるとわかったのが、梅の咲いた頃である。投入口から手が届く範囲のチラシなどが、アパートの床に散らかっていた。美杉のポストに入っていたはずのチラシである。郵便物が抜き取られていることはないようだったが、見られていることは間違いなかった。
 そういうことが何回か続いたあと、今度は美杉のベランダの洗濯物を写した写真がドアの間に挟まれた。ゴールデンウイーク中のことである。路地を挟んで向かいにあるアパートの階段から写されたものと想定できた。美杉は洗濯物をベランダに干すことをやめた。
 次に届いた写真は、駅とアパートのあいだの道を歩く美杉の後ろ姿だった。タイトスカートのお尻の部分のアップである。右足を出しているときと、左足を出しているときと、立ち止まっているときの、三枚だ。それぞれ青いボールペンで、臀部の左側と、右側と、スカートの裾の部分を、丸く囲んであった。
 美杉はそれらの写真を持って警察に行った。応対に出た男性の警察官は、にやにやした表情までは見せなかったものの、写真と美杉との間に、何度も繰り返し眼差しを往来させた。なにを言われるかおよそ想像がついたので、すぐに写真を回収し、なにも言わずに席を立って警察署を出た。
 部長の鳴海に相談した。会社がコンプライアンス事案の契約をしている弁護士とも話をした。だが、誰ともわからない状態で、美杉に打つ手はなかった。休みの日も、朝起きてからも、夜帰ってからも、表を歩いている間も、常に周囲に気を配っていたけれど、どうしても相手を見つけることができなかった。にも拘わらず、週に一回は美杉の写真が――それも必ず臀部の写真が――ドアの隙間やポストに届いた。
 池内夏馬が現れたのは、まさにそうしたタイミングでのことだ。
 ――困ったことに巻き込まれているようだね
 ――どうしてそんなこと知ってるの?
 ――君が積極的に動き回ったからさ。警察にも、会社にも、弁護士にも
 ――で、それがなんだって言うのよ
 ――取引をしないか?
 ――はい?
 ――君にとって損な話じゃないと思うよ
 美杉は取引に応じた。ダメ元でも、確かに損はない。だが、それから三週間ほどが経って、もう終わったよ、と連絡があった。自作自演なんてことはないでしょうね?と美杉は言ってみた。すっかり疑り深い人間になってしまったようだね、と笑顔で返された。渋谷の地下にあるカフェで、表は梅雨空だったことを覚えている。朝から髪がうまくまとまらなくて苛々していた。池内夏馬は、どうやったのかについては教えてくれなかったが、どんな人間だったのかに関しては、そのプロファイルを詳細に語ってくれた。
 美杉と同じ通勤電車に乗っていた会社員の若い男である。美杉の姿に惹かれていて、意図的に、同じ時間の同じドアに乗り込んでいたらしい。美杉は気づいていなかったけれど、男はいつもすぐ隣や後ろに立っていた。あるとき――それが十一月の終わりのことらしいのだが――電車が緊急停車して、乗客が折り重なるように倒れた(美杉には記憶がない。満員電車で常客が折り重なるように倒れることなど日常茶飯事だ)。男は偶然――すぐそばにいたのは意図的だが――美杉を抱き支える形になった。その出来事が要するに「スイッチ」を入れた。
 声をかける勇気のない男は、美杉をストーキングしはじめた。最初はただ純粋に、彼女のそばに近づきたいという一心だったのかもしれない。しかし、アパートを特定し、部屋を特定し、美杉の生活が間近に見えてくると、手段と目的とが転倒した。そこで男は美杉を支配下に置くことができたと感じ、満足感を得た。たとえば美杉が洗濯物をベランダに干さなくなったことも、男は「支配の実現」ととらえたのである。そこからはその「支配」(と男が信じている状態)の反復であり、それを維持することが目的と化した。
 夏馬はそれを無効化したと言った。その環から美杉を外し、男がその環から出てこられないように閉じ込めた、と。夏馬の物言いから、美杉は微かに戦慄するなにかを感じた。その男は

したわけではなく、なんらかの形で

されたのではないか。男はそこで、美杉の知らないところで、いまもその反復をなぞっているのではないか。もちろん、美杉を恐怖させた男にこのような同情にも似た気持ちを抱くのは、おかしな話である。だが、そのとき夏馬の話を聞きながら、美杉はまさにそのような思いを抱えたのだった。
 首を振る代わりに手にしたグラスの氷を鳴らし、美杉が答えた。
「不満なんかないわ。ただ、神崎ちゃんはとってもいい子だから、ちょっと心配してるだけ」
「美杉のような先輩を持った真帆は幸せだ」
「そうやってまた歯の浮くような…。そもそも彼女が飯塚ゼミに入らなかったら、池内くん、私のことなんか思い出しもしなかったでしょう?」
「あれ? 初めにちゃんと話したはずだけどな。――真帆を飯塚さんに預けようと決めたのは七年前だよ。そのときから美杉遥のことはずっとウォッチしてきた。そして君は見事に我々のテストに合格したわけだ」
 夏馬がおかしそうに笑うので、美杉はちょっと嫌な顔をした。
「…七年前って、彼女が高校に入ったときよね」
「東京の中途半端な大学には行かせたくなかったんでね。それと、飯塚さんは真帆のことを産まれたときから知っている」
「どういうこと?」
「彼は日本の双生児レジストリーに情報技術者として参加してきた。真帆と瑞穂が受けた実験にも若いころ関わっている。もしかしたら小さな真帆を抱っこしたこともあったかもしれない」
「ゼミの卒業生を全員当たったのね…」
「女子だけね。それで美杉が選ばれたんだ。素晴らしいことだと思わないかね?」
「ありがとう。かの『

』のテストに合格するなんて光栄だわ。ほんと、嬉しくて涙がこぼれそうよ」
「料理を追加してもいいかな?」
「お好きにどうぞ。あなたが払うんだから」
「君は?」
「私はもう無理よ。お腹いっぱい」
 そう言いながら、美杉はバッグを手に席を立った。トイレは地下街共同で、店を出て地下通路を回った先にある。
 双生児レジストリーの話は確かに学生のとき耳にした。もう十年も前の話である。神崎姉弟のデータも登録されているわけか。二卵性のデータはおそらく一卵性との比較対照のために集められるのだろう。遺伝か環境かという議論を、飯塚教授が少し話してくれた記憶がある。が、内容は忘れてしまった。
 本当に、神崎真帆を心配する必要はないのだろうか。一族の人間がそう言うのだから、美杉が口を挟むことではないのだけれど、日常的に接しているのは自分たちでもある。とはいえ、なにをどうすればいいのか、美杉に思いつくわけでもない。それは広瀬も同じだろう。…そういえば明日の朝、広瀬はオフィスに来ない。真帆は寂しい一週間を送ることになる。
 美杉は鏡の前に立ってちょっと迷ったけれど、化粧を直すにも、どこに手を入れるべきか思いつかなかったので、手を洗うだけで出てきた。
 店に戻ったとき、池内夏馬の大きな体躯に改めて立ち止まってしまった。そう、彼は中学のときからその体の大きさで目立っていた。バスケットボールをやっていたはずだ。一度だけ同じクラスになったことがある。よく学校を休んでいた。そういえば、あれはどういう理由だったのだろう? 「病弱」という言葉からは程遠く見えたけれど…。
「ねえ、池内くんてさ、よく学校休んでたじゃない?」
 テーブルに座ると美杉はさっそく尋ねた。
「ああ、そうだね」
「あれはなんだったの?」
「家で本を読んでいただけだよ」
「はあ?」
「だって、岩波旧版の『レ・ミゼラブル』は七冊もあるんだよ? 『チボー家の人々』、『ユリシーズ』、『ジャン・クリストフ』、そしてかの名高い『失われた時を求めて』――週末だけで読み終わるわけないじゃないか」
「先生はそれ知ってたわけ?」
「理由が理由だけに、怒るに怒れないって感じだったんだろうなあ、きっと」
 他人事のように言ってから、追加注文した料理に箸をのばした。そんなことだったのか…と美杉は呆れておかしくなった。中学生のときにもっと話しておけばよかった。が、そうした機会があったとは思えない。池内夏馬は読み始めた本を読み終えるために学校を休んでしまう男の子であり、なによりあの「池内家」の嫡男であり、他方で美杉遥はこの国で普通に育った女の子が持つ価値観の中に浸っていた。彼らをつないだのは神崎真帆という名の偶然の使者だけだ。池内夏馬の従妹で、美杉遥の後輩である。

 帰宅して、一日を終わらせるための雑事を片付けてベッドに入ったとき、ふと、なにか重要な案件を忘れているときのような、落ち着かない不安感に襲われた。改めて今日一日を、広瀬の入院、神崎真帆の告白、池内夏馬との会話を思い出してみる。カレンダーに印を付けてもいいくらいの、非日常的な一日だった。
 しかし、まだなにかあったように思う。それも、対処というか、備えを求められているなにかが。――あ、種村さん…。すっかり忘れていた。仕方がない。いくらか不本意ではあるけれど、この週末、少し落ち着いた感じのスーツを誂えよう。もう三十を超えたのだし、そろそろ考えてもいい時期である。体の線も、そろそろイカレてくる頃だろうから、いい機会かもしれない…。
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