真帆と瑞穂 ~ある二卵性双生児の日記~

作者 和泉綾透

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真帆と瑞穂の物語(1)

神崎真帆と神崎瑞穂は二卵性双生児として産まれ、すぐに「双生児レジストリー」に登録された。他人には「一卵性の引き立て役」と、やや自嘲気味に表現してきた。間違いではない。研究者が知りたいのは、一卵性双生児がなぜまったく異なる人生を歩むのか?に対する回答であり、二卵性双生児が極めて似通った人生を歩んだとしても、正直あまり興味・関心を抱かない。

ただし、物心つく前から研究室に通いはじめたことは、真帆の「聴覚過敏」を早い段階で発見するという僥倖をもたらした。地元の国立大学の研究室の診断というお墨付きがあったから、学校の無理解という余計な苦労をせずに済み、発達障害などという不必要なレッテルを貼られてしまうことからも免れた。

この春、郷里を離れて東京での生活をはじめるに際し、ふたりには隣り合う部屋が用意された。真帆がそのいささか特異な感覚世界の中で漂流してしまわないために、瑞穂は折につけ耳元で呼びかけてやらなければならないのだ。
――太陽の位置を見てごらん? 頬を撫でる風を感じてごらん? 時間と方角は合ってるかい?