第7話 異世界サバイバル…壊れゆく日常⑤

文字数 4,102文字

「レベルは7まで上がったけど、斧を相手に素手じゃキツいわね」

しかし、ここは逃げずにホブゴブリンと戦うしかない。春奈にも、それが分かっているので覚悟を決める。

「スキル発動」

彼女はスキルを使用して、全身にオーラを纏う。次にギュッ、ギュッと、足元の地面を踏み締めながら、四肢に力を入れてゆくと、春奈の身体が次第に熱くなってくる。


スキルの力により、彼女の体内が強化されていく。その効果は、身体中を走る血管にまで及んだ。無限の泉から、際限なく血を汲み上げるような感覚と共に、心臓が唸りを上げて鼓動を刻む。そして、更には血液温度が上昇し、春奈の全身の血が煮え滾った。


オーラのスキルは、主にパワーアップを目的とした肉体強化。その他、身体機能の上昇。さらに、若干の防御力増が付加されるスキルだ。これなら、直撃さえ回避すれば斧相手でもなんとかなる…と思う。


ホブゴブリンが、ズリズリと斧を引摺りながら、ゆっくりと春奈の方にやって来る。その目は、自分より弱い者を見る目付きだ。簡単に狩れる、とでも思っているのだろう。ヤツは春奈を見て、ニヤニヤと嗤っていた。

「ゴッフ、ゴフッ!」

「………」


(やっぱり、デカイわね)

間近まで迫ったホブゴブリンは、まさに見上げるような巨体だ。発達した筋肉と大きな頭部。がぱっと開いた大口。突き出た牙、太い首、太い手足。


横のサイズは、余裕で春奈の3倍はある。重量にいたっては3倍では済まない、5倍はあるだろう。パッと見に筋肉量が違いすぎる。

「ゴッフゥー」

余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で、こちらを見下ろしてくるホブゴブリン。とっくに斧の間合いに入っているだろうに、ヤツはまだ仕掛けてこない。

(ふーん、それじゃ…)

こちらを舐めきった相手に、彼女は初撃をお見舞いする事にした。

(先手必勝っ!)

春奈は一気に間合いを詰め、ホブゴブリンに向けてローキックを放つ。

「シィッ!」

機敏な動きを見せて、間合いを詰めてくる春奈を見ても、ホブゴブリンはその場に突っ立ったままでいる。そして、その左足に彼女の右足が当たり、ガツンッ! と硬質な音が鳴った。

「ゴウッ!?」

ホブゴブリンから驚きの声が上がる。春奈の蹴りを、まともに左膝で受けたホブゴブリンは、その威力にガクリとバランスを崩した。

(ちょっと、ナニコレ固いっ!)

そして春奈は、蹴り付けた箇所の余りの固さに、顔をしかめていた。

(でも、ダメージはあるみたいね)

攻撃後、彼女はすぐにホブゴブリンから離れると、そのまま間合いを取りつつ、周囲にいるゴブリン達にも気を配る。


特に後ろ…戦闘中、背後からちょっかいを掛けられたら、堪ったものではない。奴らの様子を見る限りは、今のところそんな気配は無いみたいだが…。

(とはいえ、いつ気が変わって手出ししてくるか分からない。だから目の前の事に、あまり時間は掛けていられない、素早く倒さないとっ)

春奈は、ホブゴブリンの持つ右手の斧を警戒しながら、空いている手足にも注意を払う。剣道とかでいう、遠山の目付けというやつだ。あんまり上手くないけど…。


ちなみにウチの実家の流派では、遠山ではなく延山というらしいが…何故そう言うかは、忘れちゃった。昔子供だった私に、お爺ちゃんが分かりやすいように、

「こうだよー、春奈にはわかるかなー?」

と一生懸命に説明をしてくれたのは、覚えているのだけど…。あとウチの父は婿養子だ。などと余計な事を考えながら、タンタンッ! と春奈はステップを刻み、ホブゴブリンに対して有利な位置取りをする。


それと同時に、頭を高速で回転させ攻撃を組み立てていく。そして相手から、正中線をズラすことも忘れない。自分よりデカイ相手に、真正面から打ち掛かるほど、春奈は自信家ではない。

「ゴッフー!」

ホブゴブリンが斧を振り上げると、彼女はサッと相手の左側面から、左斜めの背後へと回り込もうとする。


視界から逃げていく春奈。その姿を追いかけて敵は向きを変えると、ぶぉん! と彼女目掛けて斧を振るうが、斧を右手に持った状態では、100年振ってもこちらには届かない。

「んべぇー、っだ!」

春奈は思いっきり舌を出す。

「ゴアァーッ!」

挑発されたホブゴブリンが怒りに任せて斧を振り回した。


ぶぉん!ぶぉん!


タンタンッ! とステップを刻み、春奈は斧から一番遠い場所を確保すると、残った敵の左手足に注意しながら、一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)を繰り返して執拗に相手の左足を攻める。

「ゴフゥー!」

フェイントを使い、相手の動きを牽制しつつ、春奈はローキックをホブゴブリンの左膝に集中させた。


「シィッ!」

ドカッ、バシッ!

「ゴッ! ゴフゥ」

オーラを纏った彼女のローキックは、ホブゴブリンに対して、それなりに効果があるようだ。

「ゴウゥ…」

同じ箇所に攻撃を受け続けたことで、ダメージが蓄積していたのだろう。ホブゴブリンは思わず、チラリと意識を下に向けてしまう。

「いまっ!」

そう叫んだ春奈の右足がグンッ! と跳ね上がる。

そう叫んだ春奈の右足がグンッ! と跳ね上がる。

「せいっ!」

そして春奈は、右足からの上段回し蹴りをホブゴブリンの首筋へと叩き込んだ。ドンッ!! という鈍い音が響いて、敵の身体が地面へと崩れ落ちていく。

「ゴッフォ…」

苦痛の声を上げ、その場にうずくまるホブゴブリン。

「やった!」

それを目にした春奈は勝利を確信する。だが彼女が喜色を表した瞬間、敵の右手が素早く動き刃が閃いた。ホブゴブリンは春奈の足元を目掛けて、ビュン! と斧を投げ付けてきたのだ。

「うわぁっ! 」

彼女は、その場でジャンプして斧を避けるが、ズイッ! とそこにホブゴブリンの左腕が伸びてくる。そして、空中で避ける事も出来ない彼女は、そのままガシッ! と左足首を掴まれてしまう。

「!!」

「ゴフォー!」

声を上げて起き上がったホブゴブリン。その動作の結果、春奈は逆さでその場に宙吊りにされる。

「わゎっーちょと待って!」

あわてて、スカートを押さえる春奈。そして、けたたましい抗議の声が彼女から上がるが、ホブゴブリンはそれを無視して、左腕をぐるぐると振り回し始めた。


ブンブンブンブン! 

「きゃあぁっー!」

良いだけ腕を回し勢いを付けたところで、敵はフッと春奈の左足から手を離して彼女を放り投げた。


ドサッ! ズサァー!

「ぐぅっ!」

春奈の体は地面へと投げ出され、その勢いのまま、


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロー!


と凄い勢いで転がりながら、10メートル程地面を滑っていった。そして、周囲のゴブリン達を掻き分け、ドンッ! という大きな音と共に、グラウンドの土手にぶつかった春奈が止まる。

「ぐはっ…!」

「ゴフォー!」

地面に擦られながら、散々丸太転がりを行った挙句、まるでボロ雑巾のようになってしまった春奈。そんな彼女の姿を見て、ホブゴブリンは大声で嗤う。

「うっうう…」

「ホォー!」

ヤツは嗤いながら、満足そうに全身を震わせていた…。
□□□□

(まっ、不味いっ!)

先程から、戦いの様子をつぶさに見ていた当真。

(このままじゃ、春奈先生がっ…!)

春奈が投げ飛ばされ、負けそうになるのを見て当真は焦り出す。

「ゴッホォー!」

その時、勝利を確信したホブゴブリンが雄叫びを上げる。

「ゴブッ、ゴブゴブッ!」

その雄姿に、周囲のゴブリン達はどっと沸いていた。当真が見る限り、状況は春奈先生にとって一気に不利となっていく。

「ぐ、うぐぐっ!」

ゴブリン達はやんやの喝采を送り、大合唱をし始めた。そんな中、痛みを堪えて春奈先生は起き上がる。そして、キッ! と自分を嘲笑するホブゴブリンを睨み付けた。

(今ので、春奈先生は足を痛めたはずだ。もう戦えない…いや、逃げることも出来ない)

「ゴフォホォ~!」

ニヤニヤと、小馬鹿にした表情を浮かべながら、ホブゴブリンがゆっくりと春奈先生に近付いていく。

(んっ? …あれ?)

あの時…ホブゴブリンは春奈先生を、ぶんぶん! と頭の上で振り回していた。つまり、ヤツは先生をそのまま地面へ叩き付ける事も出来たはずだ。

(…ちょっと待てっ)

そうすれば、そこで勝負はついていた。なのに、ヤツはわざわざ手首を返した。そして滑らせるように、下手で春奈先生を投げ転がした。

(ハッ…ああっ!)

まるで、必要以上に痛め付けない為に、手加減したみたいだ。一体、どうして? 当真がそう考えた瞬間…当真はある事に思い当たった。

(こ、コイツ、まさかっ…!?)

1年生女子寮で見た光景が、当真の脳裏をよぎる。ホブゴブリンは、ただいたぶるのを楽しんでいるのではない。

(ふっふざけるなよ…!)

当真にはヤツの目的が分かった。

(この野郎っ! 春奈先生をレイプするつもりだっ!!)

その瞬間、当真の身体が怒りでブルブルと震え出した。握り締めた拳に痛みが走る。噛み締めた顎から、ギリギリと音が漏れた。

(ゆ、許さん…! そんな事はっ、絶対にさせないっ!!)

「わあぁーっ!? 春奈先生ぇーっ!!!」

当真は立ち上り絶叫した。
○○○○
榛名春奈(はるな はるな)

私立水上学園中等部専任教諭

生年月日

平成8年8月17日生れ

年齢22才

身長173センチメートル

体重49キログラム


スリーサイズ


バスト


95センチメートル


ウエスト


58センチメートル


ヒップ


88センチメートル


備考

Gカップ

ブラジャー記載数値

(G70)


職業 武術家


肉体系強化スキル オーラ

感覚系強化スキル シックスセンス


全身打撲(ダメージ)による、スキルの強制解除及び生命力の損耗。現在、身体機能(全ステータス)低下中…

○○○○

水森当真(みずもりとうま)

私立水上学園中等部1年生

生年月日

平成18年1月23日生れ

年齢12才 (対象との時間的隔たり 10年)


身長146センチメートル

(対象との垂直方向への隔たり 27センチメートル)


体重36キログラム

(対象との質量的隔たり 13キログラム)


男体(少年)三位寸法


胸囲


55センチメートル

(対象との物体差 マイナス40センチメートル)


胴囲


50センチメートル

(対象との物体差 マイナス8センチメートル)


腰囲


55センチメートル

(対象との物体差 33センチメートル)


備考

1年7組所属

ファースト討伐者

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