第4話 異世界サバイバル…壊れゆく日常②
文字数 2,977文字
地震発生直後。学園内にいた教員達は、すぐさま行動を開始した。
しかし、5分程走ったところで、春奈達は奇妙な集団を発見する。
その集団は全員が現実から、かけ離れた格好をしていた。
その場で立ち止まり茫然とする春奈。
と大声でゴブリン達を一喝する。
この騒ぎにかこつけて、生徒達がふざけてイタズラをしている…そう、思ったのだろう。男性教員は大した警戒心も持たず、更に一歩前へ出た。それを見た春奈は思わず、
ゴブリン達が不穏な気配を放っている。しかし、彼はその事に気付いていない。
そう春奈が声を掛けると、
そう問い質しながら、男性教員はズンズンと歩を進めた。そのまま、集団の目と鼻の先まで距離を詰める。そして、先頭にいるゴブリンの前にしゃがみ込むと、目線を合わせて、厳しく注意をし始める。
その瞬間、ゴブリン達は一斉に男性教員へ襲い掛かった。
その声に構わず、ゴブリン達は男性教員に群がり、突き倒す。
一匹のゴブリンが、彼の上に馬乗りになり、
と叫んで、手に持ったナイフを振り下ろした。
胸の上を走った痛みに、一瞬彼は身体を強張らせた。そして、ゴブリンの集団は男性教員の手足にも張り付き、全身を押さえ付けている。
刺されたショックと相まって、彼は身動きが取れずにいた。そこに、ゴブリン達からの容赦のない攻撃が加えられる。
ザクッ! ザクッ!
頭、肩、腹、腰、そして手足。
ザクッ、ザクッ、ザクッ…
ゴブリン達はところ構わず、ナイフを突き刺してゆく。
ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ…
だが、ナイフに付いた刃はせいぜい3~4センチくらい。小振りにも満たない、その程度の刃だ。それを振り回すように扱うゴブリン達。しかし、そのやり方では、あまり深くは刺さらない。
元々、小柄で非力なゴブリンでは、ナイフを持っても大した威力を出せないし、相手にとって、致命的なダメージにはならないのだ。
体育教師として、鍛えられた肉体を持つ男性教員。彼の筋肉に阻まれ、ナイフは体の内部まで届かなかった。
怒りを露にして、ゴブリン達を振り解こうと彼は腕に力を込めた。その時…
ダンッ! と足音を鳴らして、一匹のゴブリンがその場でジャンプする。飛び上がりながら、ナイフを持った右手を大きく振り被り、ゴブリンは男性教員の真上へ躍り出た。そこから落下の勢いを利用して、ゴブリンは右手に持ったナイフを叩き付ける。
ドスッ! …ズブリ…!
自重が乗り、威力を増したナイフが肋骨を通り抜け、男性教員の急所に滑り込む。
ゴブリンの攻撃をマトモに受けた男性教員。彼は断末魔の悲鳴を上げると、そのまま動かなくなった。
その様子を見ていたゴブリン達。奴らは、味方の活躍に興奮して喝采を上げる。そして、俺も俺もという感じで、男性教員の身体に群がり、ナイフを突き立てた。
ザクッ、ザクッ
その後も、興奮したゴブリン達は彼に対して、ナイフや棍棒を振るい続けた。
ザクッ、ザクッ、ザクッ…
こうして、男性教員はゴブリン達に殺されてしまう。身長190センチ。厳つく、筋骨隆々という言葉が相応しい人物だった。同じ体育を受け持つ先輩として、春奈は尊敬していたのだ。
だが、ゴブリンとの戦いにおいて、彼は全く抵抗出来ずにやられてしまう。彼女の見ている前で、簡単にそして、あっけなく死んでしまった。
『ザク、ザク、ザク、ザク、ザク、ザク』
という嫌な音が、彼女の耳に張り付いて離れない。
瞬時にそう判断すると、
と春奈は、踵を返してその場から逃げ出した。もちろん、目の前の出来事にショックを受けていない訳ではない。ただ、幼少より祖父から受けていた教育が、彼女の判断基準の大半を占めていた。
その為…彼女の場合、緊急時における考え方が、一般のソレとは異なっている。その事が春奈に、恐怖や悲しみといった余分な感情を抑え込ませていた。
『自己の安全を最優先する』
それが祖父の教えだ。春奈は、自身が生き延びる方向へと、思考を向けたのだ。
走り出した春奈に気付いたゴブリン達が声を上げて、彼女を追いかけてくる。追っ手は10から20、そして30と次第にその数を増やしてゆく。