第8話 舞い降りた翼…Zwei①

文字数 2,494文字

「はっ!?」

驚きと共に吐き出した自身の呼気。それが部屋の壁に当たり、跳ね返って自分の耳に届いた。

「あっあれ?」

気が付くと当真は一人、真っ白な部屋の中にいた。

「ここは…一体?」

部屋には家具等を含め、一切何も置かれていない。部屋の広さは大体、四畳半くらいで床や壁や天井、その全てが白くボンヤリと光っている。

(妙に明るい部屋だよな…)

最初、当真はのん気にもそんな事を考えていた。彼は、そのままボーッと天井を見上げて、知らない天井だ…というあの台詞を口に出そうか、出しまいか、と迷っている。

(…あっ!?)

しかし、不意にビクッ! と身体が震えて、大事なことを思い出す。

「ああっ! い、行かないとっ! 春奈先生を助けないとっ!」

当真は慌てて立ち上り、部屋中をウロウロし始めた。彼は焦って出口を探すが、何処にも扉らしき物が見当たらない。

彼は切羽詰まって、部屋の中を右往左往してしまう。そんな当真に、

「…キャンキャンと煩いヤツ」

と突然、後ろから声が掛けられた。その人物は更に続けて当真に話し掛ける。

「さっさとステータス画面を開け、説明を始めるぞ」

「え?…ステータス?」

そう当真が言うのと同時に、

「ステータス画面を開きます」

という声が彼の頭の中に響いた。ヴォン…という起動音がして、当真の目の前に青色の画面が浮かび上がる。

「これは…何?」

その画面の一番上には、水森当真と書かれていた。名前の下にはレベル15。そして、SP0と書かれている。

「これって、ゲームの…?」

「知識の注入を開始します」

「えっ? ちょ…待て」

妙な単語を耳にして、当真は抗議の声を上げる。しかし、聞き入れては貰えなかった。

「終了しました」

システムの声が響き、彼に対する知識の注入が完了する。

「…あぁ。なる、ほど…ね」

そして、当真の口から納得したような声が漏れた。

「これにてレベルアップを終了します」

「どーも…ふぅー」

アナウンスに礼を言うと、彼は大きく息を吐き出す。当真はさっきの知識注入で、このレベルアップのシステムの事や、自分が置かれている状況。そして、現在学園で起きている、大まかな事態を把握することが出来た。


ここが日本ではない事や、自分達が学園ごと異世界へ転移してしまった事。ここには、ゴブリンやオークといった魔物達がいて、人と敵対している事など。


綺麗事は一旦置いておく。今は生きる為に戦わなければいけない。その事を当真は理解し納得していた。

「お前は自分が弱い事を知っている」

コツコツ…先程の声と共に、後ろから足音が近付いてくる。

「だから、無意識の内に選んだのだろう。召喚士という職業を…」

コツコツ…その気配は、一旦当真を通り過ぎると、その場でピタリと立ち止まった。

「そして、ヴァルキュリアである私達をな」

ギュッ…ジャリッ! と床を踏み締めて足音の主は振り返ると、

「お前は良い選択をした」

そう言って、彼女は当真の前へと姿を現した。
□□□□

「き、君は?」

当真はポカンとして、目の前の女性を見つめていた。

(すごい美人だ…)

吸い込まれそうな青い瞳…透き通るような白い肌…そして、背中まで伸ばされた綺麗な青い髪…彼女はスラリとした、モデルみたいな体形をしている。背は当真より、頭一つ半は高いだろう。


北欧の妖精…そんな言葉が、彼の頭の中に浮かんだ。現実離れした美しさを持つ女性が自分の目の前にいる。しかし、彼女はもう一つだけ、現実離れした要素を持っていた。


それは第一作の発売から、すでに20年以上の時が経過している作品だ。しかし、未だ一部にコアなファンを持つことで知られる、某有名ゲーム。


『ヴァルキリー○ファイル』


彼女はそれに出てくる、主人公のような格好(よろい)をして、当真の前に立っていたのだ。

(こす、ぷれ?…レ、レイヤー?)

ポカーンとした当真の口が、ずっと開いたままになって塞がらない。

「なんだ? その間抜け面は? 我等を召喚したのは、お前だろう」

フリーズしてしまった当真を見て、彼女は呆れた風な表情を浮かべている。

「あっ…! そうなんだ」

間抜けと言われて、何となく納得してしまう当真。そう言えば確か、システムから注入された知識の中に、少しだけこの手の話があったはずだ。

「では、説明を始めるぞ」

「う、うん」

当間はレベルアップ時に、召喚士をメイン職業に選択していた。つまり、彼女は自分の従者(サーヴァント)になるのだ。

「お前が倒したオークは3体、その中にオークヒーローがいた。急激にレベルアップしたのはその為だ」

「うん」

彼女の言葉に、当真はコクンと素直に頷いて見せる。

「倒したモンスターが粒子となり、世界に還る時…討伐者は、その一部を力として受け取る。討伐者が複数いれば、力は等分される」

話し続ける彼女に視線を固定しつつ、当真は別の事を考えていた。

(見れば見る程に美人だな…)

「ここは夢見の部屋。ファースト討伐者に対する特典だ。夢見の効果で、冷静に現在の状況を確認出来たはずだ」

(これが僕のサーヴァントになるのか)

「ちゃんと聞いているのか? レベルアップ時の説明では、カバーし切れない分を説明しているんだぞ」

ニヤ付いている当真を見て、彼女が声を掛けてくる。しかし、相手が話している時に別の事を考えていれば、当然話の内容は頭に入ってこない。

「優越感に浸るのも、私を見て頬を緩ませるのも、目的を達してからにしろ」

(げっ!?)

図星を指されて、彼はクリビツギョウテン状態となる。

「ちょ、ちょっと待って、ちゃんと聞くから!」

焦りまくる当真。思春期の少年は、秘密にしているはずの心の内を指摘されると、動揺を隠せなくなるのだ。その様子を見て、やれやれ…と言った感じで彼女は口を開いた。

「急いでいるのだろう? だから駆け足で説明をしている」

「あっそうだ! 春奈先生を助けにいかないとっ! 」

彼女の言葉に、当真は思い出したように大声を上げる。

「落ち着け。夢見の最中は、時間的に現実と若干のズレがある。夢見を解いて、目を覚ましてから私を送り込んでも、十分に間に合う。説明を続けるぞ」

「う、うん…」
しゅんとして大人しくなる当真に、女性は再び説明をし始めた。
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