第15話 胸熱の少年②

文字数 2,683文字

コツコツ、コツコツ…

足音をさせて、ツヴァイが落とし穴へとやって来た。その口元には、ニンマリとした笑みが浮かんでいる。

「この落とし穴、実に良く出来ている」

獲物が強引に落とし穴から出ようとしても、山の土は柔らかくボロボロと崩れて登りにくい。その為、巨漢のオークの体重では落とし穴を登ろうにも登れないのだ。

「グ、グォ?」

そこで、オーク達は互いに相手の肩や頭を踏み付け合いながら、なんとか落とし穴から脱出しようと、穴の中でジタバタしていた。

「グオ?」

やがて、一匹のオークが落とし穴を登り彼女の足元へ顔を覗かせる。

「グオォーッ!」

ツヴァイの姿を目にしたオークが怒号を上げた。そのままへりに手をかけて、一気に落とし穴から脱出しようとするが、

蒼穹の鋭刃(フィルマメントエッジ)

「グエッ!」

即座に放たれた鋭い一撃を顔面に受けて、オークは再び落とし穴へ落ちていった。

「フッ、他愛もない」

そう言って楽しそうにツヴァイは笑う。

「さて、次はまだかな?」

「ガァッ!」

その声に応えるように、二匹目のオークが落とし穴から顔を出した。

蒼穹の鋭刃(フィルマメントエッジ)

「グオッ!」

疾風のような一撃でオークの顔面に風穴を空け、ツヴァイは敵を落とし穴へと叩き落とす。彼女は落とし穴にゆっくり近付くと、おもむろにその中を覗き込んだ。

「最後の一匹だな」

呟いたその時、落とし穴の中からツヴァイ目掛けて棍棒が飛んでくるが、そんなものに彼女が当たる訳がない。ひょいと棍棒を躱すのと同時に、落とし穴の中へ向けて彼女は突き(カウンター)を繰り出す。

蒼穹の鋭刃(フィルマメントエッジ)

「ゲエェーッ!」

青い剣閃が瞬き、ツヴァイの方を見上げていたオークの喉が貫かれる。

「しかし、この落とし穴はずいぶんと使えるじゃあないか」

一方的にオークを屠ったツヴァイ。彼女はとてもご満悦の様子だ。その顔のニヤニヤが止まらない。

「やはりアイツのサブ職業は、罠使いにすれば良かったのだ」

そう言って、チラリと彼女は当真達が逃げた方向へ視線を走らせた。

「残り半分だな。早く来ないかな」

彼女はソワソワとして待ち切れない。

「まだかな」

そう言うと、じっとしていられなくなったのだろう。彼女は落とし穴を離れて斜面を駆け下りていった。

□□□□

「わっわっアイン、もうちょっと静かに走って…」

全身に、アインの走る振動が伝わってくる。真横に抱えられた状態の当真は、揺れまくって目が回りそうになっていた。

「よしっ良いぞ。そのままグルっと斜面を登ってこい」

そこへ、当真達を追ってきたツヴァイが遠くから声を掛けてくる。何が楽しいのか、彼女は能天気にもはしゃいでいた。

「残りのオーク共も落とし穴に落とすんだ」

(一度見られているのに…二度も同じ手が通用するはずないでしょ)
アインに揺られながら、当真は内心でそう呟いていた…その後どうなったかというと、ツヴァイの指示通りにしたら、何故か上手くいってしまったのだ。残りのオーク達は落とし穴に落ちた。もう綺麗に落ちた。

蒼穹の鋭刃(フィルマメント・エッジ)×3!」

落とし穴に落ちて、動けなくなっている三体のオーク。そこを見逃さず、素早く駆け寄ったツヴァイがトドメを刺す。

「愉快だ! わっはっはっ!」

剣を仕舞い、彼女は嬉しそうに高笑いをしていた。

(嘘だろ…)

一度、味方が落ちるのを目の前で見ているのに、また落ちるなんて…一体アイツ等は何を考えて生きているんだろう? 力は強いようだが、オークには考える力が無いらしい。

パカパッパッパッーパッパパーン!

「レベルアップしました」

「レベルアップしました」

そして、当真の頭の中にレベルアップを告げるファンファーレが鳴り響いた。

「人がそうであるように、魔物にも個体差がある。今回の奴等は、まあまあだったな」

そう言うとツヴァイは腕を組んで、

「しかし我等の位階を上げるには、まだマナとSPが足りない。まだまだ先は遠いな…」

と遠い目をする。その横でアインが、

こくり…
と小さく頷いていた。
□□□□

六体のオークを狩り終えて、沢近くの拠点に戻ってきた当真達。三人は今後の方針に付いて話し合っていた。

「全部でSP5か…今回は武器と防具に割り振るのが良いだろう」

腕組みをしたまま、ツヴァイはそう言った。種族的にゴブリンよりもオークの方が強い。そんな強力な敵が大勢たむろする裏山に拠点を置く当真にとって、戦力の強化は急務だった。

「うん、そうだね…」

当真がこの異世界で生き残れるように、彼女達は色々と考えてくれているのだ。しかし、ツヴァイの言葉を聞きながらも当真は、自分のサブ職業であるAV男優のスキルを取得したい、と思っていた…けれど、とても言い出せる雰囲気ではない。

「うーん、やはり子供だからSPの取得率が小さいのか…」

「………」

難しい顔をして話すツヴァイと、その横で黙ってうんうんと頷くアイン。その様子を見ていたら、

「AVスキルを一つ取らせて欲しい」

なんて、とても言い出せたものではない。

「SPは、私とアインに1つずつ使用して、残りはストックしておけ」

「うん、分かったよ」

言われるままに、当真は2人にSPを振り分けようとするが、

チョイ、チョイチョイチョイ…

何やらアインがアピールをしている。

「ん?」

彼女は当真へ向けて、自分の胸元を指で差し続けていた。

「アインは防御が好きだから、胸当てを強化して欲しいみたいだぞ」

ツヴァイの言葉にアインは頷いて当真を見る。

「じゃあ、胸当てを強化するよ」

SP1を胸当てへ割り振ると、フワッとした光が、胸当てから放たれて消える。

「……」

「ちなみに、私の方は剣の強化だ」

「はいはい」

同様にSP1をツヴァイの剣に割り振る。

「切れ味が上がったぞ、強度もだっ」

淡い光を放って剣が強化されると、彼女は喜んでいた。

『ぺたっ』

「まずは、必要な分のSPをストックする事だ」

『ぺたぺたっ』

「マナが溜まれば、戦闘中でも即座に位階のランクアップが出来るからな」

『ぺたぺたぺたぺた』

「ピンチの時に使えば、カッコイイ逆転劇を見せてやれる」

上機嫌で話すツヴァイ。アインはその横で、ずっと強化された胸当てを触っている。

『ぺったぺった、ぺたぺた…』

一見、アインの顔には何の感情も浮かんでいない。しかし、その表情にわずかに笑みが見える…ような気がする…たぶん嬉しいのだろう。

(う~ん…)

そんな事を考えながら、当真はジーッとアインの胸元を凝視していた。十代真っ盛りの彼は、ある重要な事実に思い当たっていたのだ。

(胸当てを付けているから、分かりにくいけど…これは、かなり大きいよな?)
「……」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色