第10話 舞い降りた翼…Zwei③

文字数 2,756文字

思春期の只中にいる少年達。彼らは人生で、一番輝かしい時期を過ごしている事に、まだ気付いていない。


光陰矢の如し…と例えられるように、少年達は振り返ること無く、青春時代を風のように駆け抜けてゆく。そして、あっという間に大人になってしまう。


そんな少年達にとって、チャンスとは彼らのすぐ側で生まれ、そして気付かぬ内にパッと消えていく物だ。


何故なら、未だ彼らは子供であるからだった。例え、その機会を目の当たりにしても、それを掴める事はほぼ無い。


その純真さから来る無知により、せっかくの貴重な機会(セクロス・チャンス)を逃してしまうのが彼らの常である。数年後に、あの時やれたかも? と後悔しても、もう遅いのだ。

(…あれ? 待てよ)

だから、この気付きを得られた事は、当真にとってまさに僥倖だった。

(AV男優の(スキル)を使えば…もしかして?)

まだ未経験の少年は、性の対象(セクロス)を渇望している。当真は、本能的にその行為(榛名春奈)に至る方法を、日頃から模索し続けていた。つまり、今目の前にあるチャンスを、みすみす逃す手は無いのだ。

(AV男優の持つ超絶テクニックを取得したら、セクロス戦では無敵だぞっ)

天才は一を聞いて十を知るという。その閃きにも似た早さで、当真は瞬時に答えまで辿り着く。

(やれる…やれるぞっ。これがあれば、あの春奈先生と…)

当真は、現在自分を取り巻く状況を完全に理解する。そして、この状況を自身にとって、正しく利用しようと決意したのだった。

(春奈先生のGカップに刺激(カイカン)を与えまくって、押し倒(セクロス)してやる!)
□□□□

(よおーし、やるぞぉ…待っててくれ! 春奈先生!!)

思いも新たに、当真がサブ職業 AV男優を選ぼうと、おもむろにステータス画面に右手を伸ばす。そして画面に触れようとした、その時…。

「ふざけているのか?」

押し殺した声が当真の耳に届く。ツカツカ…と足音を響かせて、ツヴァイがこちらにやって来た。

(あっ…やば…)

どうやらツヴァイの方からも、当真が選ぼうとしたサブ職業 AV男優が、見えていたらしい。


彼女の右手が素早く剣の柄に伸び、そこから引き抜かれた剣がジャキッ! と当真の眼前で鳴った。それと同時に、彼の前髪がパラリと舞って地面に落ちる。

(うわーっ!?)

その迫力にステンッ! と尻餅をついて、ビビリ上がる当真。突き付けられた切っ先の鋭さに、彼の頭が真っ白になりかけた。

(ど、どうしよう…)

切っ先を通じて、ツヴァイの怒りが伝わってくる。彼女は、当真が生き残れるように色々と教えてくれた。


それなのに、サブ職業 AV男優を選択すれば、せっかくのアドバイスを無視する事になる。


そうした、当真の気持ちが作用したのか、彼の脳内映像から春奈先生が去ってゆく。当真の中で、春奈先生との未来(セクロス)が失われようとしていた。


だがその時、唐突に彼の身体が震えて、当真の全身に稲妻が駆け巡る。そして、弱気に振れようとした気持ちを押し退けて、彼は思い出す。

(失いたくない…)

その身を焦がす程に求めた女性(ひと)。狂おしい程の情熱のぶつけ先…榛名春奈先生との肉弾戦(セクロス)。その望みが叶うなら、死んでも良いとさえ思った。


当真は自身に問い掛ける…一番大事なことは何か? 人生における自分の本気の使いどころは、今ここじゃないのか?


ここでツヴァイの圧力に負けて、当真が引き下がってしまえば、彼は自らその未来を捨てることになる。そんな事は出来ない…彼の脳裏に、一旦消されたはずの春奈先生の姿が、再び映し出された。


輝かしき未来、追い求めた願望が当真の中でハッキリと像を結ぶ。これを諦めるなんて絶対に出来ない。ここで頑張らねば、人生いつ頑張るというのだ。


そう、だから…ここは引けない、引いてはいけない。だから、少年は自分の気持ちに、正直であることを選んだ…。

「ま、待ってくれ! 僕の話を聞いてくれっ!」
□□□□

「ツヴァイッ、アインッ、僕の話を聞いてくれーっ!」

当真は尻餅をついたまま、なりふり構わずに腹の底から大声を出す。やっと見付けた春奈先生へ到る可能性を守ろうと、彼は恥も外聞もなく抵抗した。

「こっこれはとても、大事な事なんだ!」

相手に自分の願う夢(セクロス)を知られる恥ずかしさになど、構っていられなかった。

「テクニックだけじゃないっ、持久力を始めとした耐久値も上がるっ!」

サブ職業 AV男優…そこから得られるスキル…それが、思春期童貞真っ只中の当真にとって、どれほど重要かを必死に説明し訴えた。

「これがあればっ! 春奈先生と初Hした時に、恥をかかなくてすむんだっ!」

「…………………」
「…………………」

当真の熱意が通じたのか? それとも、まだ子供クセに初体験を焦っている当真に、呆れてしまったのか? ツヴァイは黙ったまま静かに剣を下ろした。

「…ふーっ…そうか、なるほど…人によって価値観は様々ということだな」

そう言って、ツヴァイは諦めたように首を横に振る。

「………」

そして何も言わないが、後ろにいるアインも納得してくれたみたいだ。当真はそれを見て、ホッと胸を撫で下ろした。

「では、さっそく…」

二人の気が変わらない内に…と彼は素早くステータス画面に右手を伸ばして、サブ職業 AV男優を選択(タッチ)する。指先が触れた途端、震えるように画面が波打ち、それと同時にピコーン…という音がして、システムが当真の選択を受理した事を告げた。

「選択されたサブ職業を確認しました」

「よしっ!」

こうして、思春期特有の熱い言葉により、アインとツヴァイ二人の説得に成功した当真。彼は晴れて、サブ職業 AV男優となったのだった。

「よっしゃあぁっー! やったぜ!」

知らず知らずの内に、彼はガッツポーズを取っていた。歓喜の絶頂(ウキウキ気分)意欲満々(テンションマックス)な当真。しかし、それとは逆に…、

「…ふーっ…」

と息を吐き出して、テンションが駄々下がりしているツヴァイ。しかし、それでも彼女は説明を続けていく。

「ふーっ…先程話したように職業には、メリット・デメリットがある」

「ふーっ…他の職業を選択した連中にも、お前と同様の制約が存在するということだ」

「ふーっ…魔法使いの職業を選んだからといって、魔法全般を扱えるわけではない」

「ふーっ…破壊系統の魔法を選んだ者は、治癒や精神系統の魔法は使用できない」

「ふーっ…その為にサブ職業で幅を広げるのだが…このバカめっ!」

ジロリッ! と当真はツヴァイから睨み付けられてしまう。やはり、サブ職業にAV男優を選択した事を、彼女は怒っているみたいだ…。

「まあ良い、これで説明を終わる。さっさと夢見を終了しろっ」

そう言うと、ツヴァイはプイッと横を向いてしまった。
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