第10話 舞い降りた翼…Zwei③
文字数 2,756文字
思春期の只中にいる少年達。彼らは人生で、一番輝かしい時期を過ごしている事に、まだ気付いていない。
光陰矢の如し…と例えられるように、少年達は振り返ること無く、青春時代を風のように駆け抜けてゆく。そして、あっという間に大人になってしまう。
そんな少年達にとって、チャンスとは彼らのすぐ側で生まれ、そして気付かぬ内にパッと消えていく物だ。
何故なら、未だ彼らは子供であるからだった。例え、その機会を目の当たりにしても、それを掴める事はほぼ無い。
その純真さから来る無知により、せっかくの
だから、この気付きを得られた事は、当真にとってまさに僥倖だった。
まだ未経験の少年は、
天才は一を聞いて十を知るという。その閃きにも似た早さで、当真は瞬時に答えまで辿り着く。
当真は、現在自分を取り巻く状況を完全に理解する。そして、この状況を自身にとって、正しく利用しようと決意したのだった。
思いも新たに、当真がサブ職業 AV男優を選ぼうと、おもむろにステータス画面に右手を伸ばす。そして画面に触れようとした、その時…。
押し殺した声が当真の耳に届く。ツカツカ…と足音を響かせて、ツヴァイがこちらにやって来た。
どうやらツヴァイの方からも、当真が選ぼうとしたサブ職業 AV男優が、見えていたらしい。
彼女の右手が素早く剣の柄に伸び、そこから引き抜かれた剣がジャキッ! と当真の眼前で鳴った。それと同時に、彼の前髪がパラリと舞って地面に落ちる。
その迫力にステンッ! と尻餅をついて、ビビリ上がる当真。突き付けられた切っ先の鋭さに、彼の頭が真っ白になりかけた。
切っ先を通じて、ツヴァイの怒りが伝わってくる。彼女は、当真が生き残れるように色々と教えてくれた。
それなのに、サブ職業 AV男優を選択すれば、せっかくのアドバイスを無視する事になる。
そうした、当真の気持ちが作用したのか、彼の脳内映像から春奈先生が去ってゆく。当真の中で、春奈先生との
だがその時、唐突に彼の身体が震えて、当真の全身に稲妻が駆け巡る。そして、弱気に振れようとした気持ちを押し退けて、彼は思い出す。
その身を焦がす程に求めた
当真は自身に問い掛ける…一番大事なことは何か? 人生における自分の本気の使いどころは、今ここじゃないのか?
ここでツヴァイの圧力に負けて、当真が引き下がってしまえば、彼は自らその未来を捨てることになる。そんな事は出来ない…彼の脳裏に、一旦消されたはずの春奈先生の姿が、再び映し出された。
輝かしき未来、追い求めた願望が当真の中でハッキリと像を結ぶ。これを諦めるなんて絶対に出来ない。ここで頑張らねば、人生いつ頑張るというのだ。
そう、だから…ここは引けない、引いてはいけない。だから、少年は自分の気持ちに、正直であることを選んだ…。
当真の熱意が通じたのか? それとも、まだ子供クセに初体験を焦っている当真に、呆れてしまったのか? ツヴァイは黙ったまま静かに剣を下ろした。
「選択されたサブ職業を確認しました」
こうして、思春期特有の熱い言葉により、アインとツヴァイ二人の説得に成功した当真。彼は晴れて、サブ職業 AV男優となったのだった。
知らず知らずの内に、彼はガッツポーズを取っていた。
ジロリッ! と当真はツヴァイから睨み付けられてしまう。やはり、サブ職業にAV男優を選択した事を、彼女は怒っているみたいだ…。