第13話 舞い降りた翼…Ainz③

文字数 3,044文字

(深くは入ったが、ヤツの戦闘力を奪う程ではないか…)

傷口を押さえながら、こちらを睨み付けてくるホブゴブリン。それを無視するように、ツヴァイは春奈の方へ視線を走らせ呟いた。

「ほう、これは助かるな」

ここを走り去ってから、まだ10秒も経っていないというのに、春奈の姿が随分遠くなっている。


時間的な制限がある中、ツヴァイは作戦を遂行しなければならない。だが、これなら何とか対象を安全圏内へと、逃がすことが出来そうだ。

「ゴブォー!」

その時、ホブゴブリンが怒りの声を上げて、獲物(ハルナ)を追おうとする。

「行かせるか、このあほう」

「ゴウッ!?」

しかし、そこへ不敵に笑うツヴァイが立ち塞がった。

「通行止めだ」

「ゴ、ゴウゥ…」

自分に対して、微塵も恐れを見せぬ相手。その自信に溢れた態度に、ホブゴブリンは警戒心を露にして、一歩後ろに下がる。

「フンッ、浅ましいな」

ホブゴブリンに向かって、ツヴァイは吐き捨てるように言い放つ。彼女は、ヤツが春奈を狙う理由を知っていた。

「ゴブァーッ!」

遠ざかる春奈の姿を見て、焦った敵は大きく斧を振り上げる。そして、大声を上げながら、ツヴァイの間合いへと踏み込んで来た。

「お前如き小物でも」

タンタンッ! とステップを刻んでツヴァイは後退し、敵との間合いを保とうとする。だが敵は、彼女の動きになど構わず、そのまま斧を振り下ろす。

「あの女を喰らえば…」

ホブゴブリンは、その膂力をフルに使って、大地に斧を叩き付けた。

「一気にロードになれるからな?」

ドンッ!

と大きな音がして、小さく地面が震える。それと同時に、敵はツヴァイに対して雄叫びを上げた。

「ゴフォオー!」

「威嚇のつもりか?」

何事も無かったかのように、ツヴァイは小さく笑う。そして、彼女は素早く三歩後退して、ホブゴブリンとの間合いを外した。

「フッ…」

剣を肩口まで持ち上げる。そうして、先程ホブゴブリンの右肩を引き裂いた技の構えを取ると、その剣先を向かってくる敵の眉間に、ピタリと合わせた。

「ゴッオー!」

「させぬよ」

ツヴァイはそう言うと、ホブゴブリンに向けて白刃を閃かせた。剣圧により、切り裂かれた空気が鎌鼬となって、相手の顔面を襲う。


ホブゴブリンは、咄嗟に顔を逸らしたが避けきれず、真空の刃の一太刀を受けた。額が浅く裂けて、そこから血が飛び散ると、それは顔面を伝い、止めどなく流れ始める。

「ゴッ、ゴッフッ…ゴアアー!」

ホブゴブリンは、ツヴァイを危険な相手だと認識していた。しかし、やはり春奈の事を諦め切れぬのか、左手に持ち代えた斧を振り回しながら前へ出る。

(頭の足りぬヤツめ…)

元々、彼女の目的は春奈を逃す事だ。対象が逃げ切るまで、小競り合いをするのも選択肢の一つだった。

(だが、まあ良い)

それから都合十度、両者の間で剣戟の音が鳴り響いた。

「ちいっ、さすがに初期状態ではキツイな…」

ツヴァイはそう言うと、春奈が逃げた方向へと視線を走らせる。どうやら、ずいぶん遠くへ行ってくれたようだ。

「なるほど…」

もうここからでは、彼女の姿を視認する事は出来なかった。ツヴァイは春奈が逃げるのに、十分な時間を稼いだとみると、

「頃合いか、戦略的撤退だ」

と言い、彼女は身を翻してその場から走り去った。

「ゴブアァー!?」

後方から怒りの声を上げて、ホブゴブリンが追ってくる。しかし、ツヴァイは取り合わない。スピード差を生かして、さっさと逃げる。

「フッ、遅い。まるで鈍亀(どんがめ)だな」

その後、ツヴァイはホブゴブリンとの戦闘を避けながら、辺りを走り回り、

ズバッ!

「ゴペーッ」

ザシュッ!

「ゴギャー」

と周辺のゴブリン共を、根こそぎ狩って回った。雑魚(ゴブリン)狩りの途中で、彼女の耳に召喚者(トーマ)の悲鳴が聞こえて来たが、ツヴァイは気にせずに狩りを楽しんだ。そうして、いいだけ剣を振るうと、

「二十体は狩ったか、これでレベルも上がったはずだ。これより帰還する」

そう言って、彼女はシャキンと剣を仕舞う。そして、追いかけてくるホブゴブリンに向かって、

「ばーかっ!」

と言い放った。

「ゴブオッ!? ゴッガアー!!」

馬鹿にされた事が分かったのだろう。ホブゴブリンは怒号を上げながら、ツヴァイに迫って来る。

「フッ…」

その様子をせせら笑うように、彼女はヒラヒラと手を振るや、シュン! とその場から姿を消した。

□□□□

ヒュゥン…と風が地を這い、地面に人一人が入れるくらいの円を描く。そして、そこから甲冑を纏った女性が姿を現した。彼女はコツコツ、コツコツ…と足音を鳴らしながら、こちらに近付いてくる。

「戻った…彼女は無事だ」

当真の所に戻ったツヴァイ。彼女は報告を済ませると、

「スキルに、デイリークエストがあるはずだ。それを取れ」

と言って、スキルの説明をし始める。

「このスキルがあれば、デイリークエストを受注することが出来る」

「……」

「そしてクエスト達成時には、糧食(レーション)(3食分)が支給される」

「……」

「我等には必要ないが、お前は食事を摂らねば、死んでしまうからな」

「……」

説明を続けるツヴァイ。しかし、当真からの返事は返ってこなかった。どうやら、彼は精魂尽き果てているようだ。


見れば、うつ伏せに倒れてピクリともしない。そして、その横では無表情のアインが、じっと佇んでいた。

「ふむ、だいぶ消耗したようだな」

消耗の原因は、彼のシークレットスキル。これは、ステータスに記載されない類いの物だ。ツヴァイを送り込む為に使用したこの力が、当真の体力を著しく削っていた。

「………」

地に伏したまま動けない当真。彼はグッタリとして、呻き声も出せない状態だった。

「先程使用したのは、召喚士の持つ特殊スキルだ。名を水鏡という」

そんな当真を見ながら、ツヴァイは説明を続けていく。

「これから、召喚士としての実力を上げていけば、この程度の事はその内に苦ではなくなる」

「…ありが、とう…」

ツヴァイは春奈先生を助けてくれた。当真は動けなくなりながらも、なんとか彼女に礼を言い、素直にその指示に従った。

「選択されたスキルを確認しました」

○○○○

榛名春奈(はるな はるな)

私立水上学園中等部専任教諭

生年月日

平成8年8月17日生れ

年齢22才

身長173センチメートル

体重49キログラム


スリーサイズ


バスト


95センチメートル


ウエスト


58センチメートル


ヒップ


88センチメートル


備考

Gカップ

ブラジャー記載数値

(G70)


LEVEL-7


メイン職業 武術家


肉体系強化スキル オーラ

感覚系強化スキル シックスセンス


※担当する生徒達の安否確認の為、一年生女子寮へ向かい全力疾走中…

○○○○

水森当真(みずもりとうま)

私立水上学園中等部1年生

生年月日

平成18年1月23日生れ

年齢12才 (対象との時間的隔たり 10年)


身長146センチメートル

(対象との垂直方向への隔たり 27センチメートル)


体重36キログラム

(対象との質量的隔たり 13キログラム)


男体(少年)三位寸法


胸囲


55センチメートル

(対象との物体差 マイナス40センチメートル)


胴囲


50センチメートル

(対象との物体差 マイナス8センチメートル)


腰囲


55センチメートル

(対象との物体差 マイナス33センチメートル)


備考

1年7組所属

ファースト討伐者


LEVEL-16


○メイン職業 召喚士

△サブ職業 AV男優


単体スキル デイリークエスト


※ジョブスキル・水鏡(リフレクション)の使用により、術者の体力が大幅に低下しています…気絶睡眠による回復法が選択されました…

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