「すりあげ腕立ては粘りのある筋肉を付けてくれる。それは世界最大の競技人口を誇るスポーツ、セクロスに必要な筋肉だ」
「フィジカルを鍛えておけば、将来的に不安を感じることもなくなる。デビュー戦の時に役に立つぞ」
セクロス試合では互いに裸でぶつかってゆくのだ。なれば頼れるのは己の肉体のみだ。あの時のヤツの言葉を今なら信じられる。
そして、パワーアップした自分の肉体にAVスキルを上乗せするのだ。
当真は、待っていてくれっ! 春奈先生!! と心の内でそう叫んだのだった。
悪戦苦闘しながら腕立てに取り組む当真。まだ序盤だというのに、少年はもう歯をくいしばっている。あの調子では100回など、とても出来るとは思えない。先行き不安な感じしかしない。
…人間とは現金な物だ。夢が現実味を帯び努力次第で手が届く。そうなると俄然やる気が湧いてくるのだ。
渦巻く欲望がエネルギーに変換され、当真の肉体に注がれてゆく。そして活力が溢れて体中に力が漲った。そして当真は、インターバル無しで4セット目の腕立てに突入する。
どくんっ! …新たな鼓動の高まりを感じる。気合いが疲労を吹き飛ばす。どくんっ! …新たな鼓動の高まりを感じる。どくんっ、どくんっ! …心臓から新鮮な血液が送り出されてゆく。
(鍛え上げたカラダでっ、AVスキルでっ、あのGカップのおっぱいに、ぶつかっていってやるっ!)
どくんっ、どくんっ、どくんっ! …思春期特有のエネルギーが血流に乗り、全身を駆け巡った。今までは妄想をしつつも、心のどこかであきらめていた。体育の授業中いつも見ていた…目で追っていた。
あの胸を、あのお尻を…これから成長期を迎える自分達とは余りにも違う…大人のカラダ。すでに完成されたあの肉体。大量のフェロモンに満たされた、我が儘なボディを持つ女性。少年とはかけ離れた場所にいる人。
あまりにも違うその存在。年齢は10才も離れている。身長も30センチ近く高い。きっと力も、先生の方が強いだろう…無理に抱き付いても、跳ね飛ばされるのがオチだ。
夜の精神統一では、何度も設定を変えて、模擬戦を繰り返した。無理矢理に、春奈先生を押し倒したりもした。妄想中では上手くできる。だが、実際に彼がそれをすれば、バチーン! と張り飛ばされるのがオチだろう…
だが、あの地震により世界が変わった。レベルアップ…職業・スキルの取得。ゴブリンやオークなどの魔物。命を守るために戦い、生き抜くために相手の命を奪わねばならないこの世界…世界が変わり当真の知る常識は一変した。
そして…ここから全てが変わる。社会人1年生と中学1年生…セクロス試合の成立自体が不可能と言われていた。スキルさえあれば、その事実を覆して先生と生徒という立場の差…
肉体のスペック差による圧倒的劣勢…それらの壁を撃ち破り、ハイスペックを誇る春奈先生のあの肉体を強引に、押し倒すことが出来るに違いない。
「召喚士のステータスは貧弱だ。そもそも伸ばすツリーが無い。単体でのスキル取得は出来るがな」
(メイン職業で肉体強化をして、サブ職業でテクニックを得るつもりだったのに…)
(複数のスキルツリーを育てていけば、デビュー戦を実現させる事も…そして、榛名春奈先生相手に初勝利を上げる事も夢じゃないのにっ! それが遠のいてゆく…)
「最初に言っただろう。召喚士であるお前の強さは、我等双翼の強さの事だと…だが、まあ良いだろう。生き残る為に強さを求めることは、当然だからな」
筋トレに勤しむ、当真の姿を見ていたツヴァイ。彼女は、当真がスキルを得ることに、反対しなかった。
「我等の強化を計りながら、SPを10まで貯めろ。ストックが10を超えた時点で、自身に割り振っても良い。無論、我等を強化する事が優先だがな」
そう言って、当真の願いを条件付きで認めたのだった。