第9話 舞い降りた翼…Zwei②
文字数 3,443文字
「レベルが一つ上がる毎に、SPを二つ取得出来る。そしてお前の場合、レベルアップ時の恩恵はSPの取得のみだ」
「えっ? それだけ…? 強くなったりはしないの?」
「召喚士は他の職業と違って特殊でな。代わりに我等が強くなる」
どうやら、当真はレベルアップしても、あまり強くならないらしい。
彼はちょうど、異世界無双・主人公最強・俺TUEEEE! に憧れる年頃なのだ。そんな当真を放っておいて、彼女は話を進めていく。
「SPは考えて割り振らねば、後悔する事になる…いや、その前に死んでいるか」
未だにハッキリと、夢と現実の区別が付いていない当真は、驚いてその場で素っ頓狂な声を上げる。
まだ、人生が始まったばかりの12歳の少年にとって、死というのは一番遠い所にある概念だろう。きっと、自分が死ぬなんて考えた事もないはずだ。そんな彼を見て、女性は身に付けた青い甲冑をカチャリと鳴らすと、
「マナの吸収によって、基礎能力を上げた我等にSPを割り振って強化するのが、召喚士の基本戦略だ」
「自分のことは後回しだ、召喚士はステータスが貧弱だからな」
死ぬかもしれない。と聞かされた当真は、さっきとは打って変わって、真剣に彼女の話に耳を傾けていた。
「それからSPは、武器や防具の強化にも使用する。我等はレベル・装備全てが初期状態だ、急ぎ強化しろ」
あれっ…確か、SPは無かった気がする。彼女の言葉に、当真はステータス画面で見たSP0の数値を思い出して口を開いた。
「今後の話だ。我等の召喚に際して、全て使用したからな」
彼女が言うには、召喚される従者にも様々なクラスがあり、それによって召喚に必要となるSPが異なるそうだ。
つまり、30もあった当真のSPがゼロなってしまったのは、彼女固有のクラスに依るもので、ある意味しょうがない事らしい。それを聞いて当真は少し考えてみる。
初回のレベルアップで、彼のレベルは一気に15まで上がった。つまり取得したSPは30になる。SPは一度のレベルアップに付き、2しか得られない貴重な物だ。
ソウルポイント…魂の単位というくらいだから、これから先の展開に関わってくる大切な要素に違いない。
当真が持っていたSP。それを全て消費して召喚した従者。それが目の前にいる彼女だ。
つまり当真はガチャで言う、強キャラを引き当てたと言える。しかも、初回限定ガチャだ。きっと、彼女の従者としての能力はSSR以上だろう。
目の前で、ぐっと拳を握る少年を見ながら、彼女はそう告げる。
「召喚士は契約を交わした相手に、SPを割り振って強化する事で強くなる。今後は、我等の位階を上げてランクアップさせる事が、お前が生き残る為の最善策となるだろう」
「ちなみに、モンスター討伐時に受け取れる力の事をマナと言うが、これはお前と我等3人の間で等分される」
「お前がレベルアップするのに必要なのが、このマナの吸収だ。マナの吸収イコール経験値となる」
疑問の声を上げる当真には構わず、彼女は話を続けてゆく。
「つまり、召喚士はレベルが上がりにくいのだ。ただし、先程も少し話したが、我等はマナを吸収することでも強化される。まあ、そう悪い事ばかりではない」
「あと召喚士が召喚を行うのは、生涯に一度だけだ。つまり契約の変更は不可。召喚した者と、ずっと付き合っていく」
そこで当真は、手を挙げて彼女に質問をする。彼には、先程からずっと気になっている事があったのだ。
「さっきから聞いていると、今ここに3人いるように聞こえるんだけど…」
彼女は当真の疑問に、そんな事かという顔をして、当たり前のようにこう言った。
当真が驚いて振り返ると、そこにはもう1人のヴァルキュリアがいた。
自分の後ろで静かに佇む女性。その美しさに彼は固まってしまう。彼女は、銀色の髪と銀色の瞳を持ち、無表情にこちらを見つめている。
これも性なのだろう。当真は素早く前後に首を振り、瞬時に二人の女性を見比べていた。二人共、背格好はほぼ同じだ。
違うのは髪と瞳の色。そして、彼女達の全身を固める甲冑の色。一方は浅葱色、もう一方は白銀。
それから顔立ち。青色の女性は、鋭く怜悧な感じがしたが、こちらの銀色の女性は逆だ。しっかりと成人しているが、頬の辺りに僅かに幼さのようなものが残っている。
彼女は、少し顎のラインにかけて丸みを帯びていて、ちょっと可愛い感じのする顔立ちだった。分かりやすく言うと、春奈先生タイプだ。
そして、気になるプロポーション。これは、二人とも甲冑を着込んでいるので、パッと見には判断がつきにくい。だが間違いなく二人共かなりの巨乳だ。と当真は確信していた。
(いやー。強くなれないと聞いた時は、どうしようかと思ったけど。召喚士も、なかなか良いじゃないかっ! )
幻想的な美しさを持つ二人の容姿に、ウキウキとし出す当真。銀髪の女性は、そんな思春期全開な少年の様子を黙ったまま見つめている。
(こんな美人が二人も付くなら、ぜんぜんっ問題ないよっ! )
ただ、じっと無表情に…彼女は、思春期特有の少年の奇行を見続けていく。
彼女は感情の乏しい、儚げな表情のまま、そこに立っている。そんな彼女の前で、少年はぴょんぴょん! とそこら中を元気に飛び跳ねていた。
「彼女はアイン、そして私がツヴァイだ。我等は双翼、2人で一対の翼だ」
その怜悧な表情を崩さずに、彼女は自己紹介をする。銀糸の髪を持つ、寡黙なヴァルキュリアがアイン。青色の髪を持ち、良く喋るヴァルキュリアが、ツヴァイという名前らしい。
「ぼくっ、水森当真っ! よっよろっ、よろしくっ!」
美人が2人もいるせいで、当真は緊張してしまい、どもりながら不器用な自己紹介をしてしまう。まだまだ妄想とリアルとでは、大きなギャップが出てしまう年頃なのだ。
アインがわずかに顎を引き、会釈をしてくる。その一方でツヴァイは、当真からの挨拶を完全にスルーしてしまう。
「さて、レベルが15になると、サブ職業を選択する事が出来る」
当真の自己紹介には興味を示さずに、彼女は説明を続けていく。
「人によって、選択出来る職業やスキルが違う様に、サブ職業も個人個人で違ってくる。お前は本業が召喚士だから、サブ職業にはそれを補正する物を選ぶと良いだろう」
ツヴァイの言葉に当真は元気良く頷くと、ステータス画面にズラリと並ぶ、サブ職業に目を通していく。
そこには、彼に適性のあるサブ職業が表示されていた。精霊使い、罠使い、符術士、学者…そして、ふむふむと当真が見ていく中、一番最後の職業欄にソレはあった。
全身に衝撃が走り、当真の手が震え出す。今彼は、とんでもない物を発見してしまったのだ。
…AV男優…彼のステータス画面の選択欄に浮かんだ、最後のサブ職業。それは思春期の少年が追い求める青き願望に、しっかりとした形と方向性を与える物だった。
(うおぉっ…すげぇっ! これだっ! これに決めた!! )
全く予期せぬ展開で、当真の腕の中に飛び込んできた未来への可能性…それは少年にとって、まさに青天の霹靂であった。
突然、自身の元に降って湧いた奇跡。当真はその事実に、興奮を隠し切れないでいた。そして、気が付けば彼はその場で立ち上がり、バッ! と両手を天に突き上げて、大声で雄叫びを上げていたのだ。
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