第2話 旅立ち…さらば故郷よ…

文字数 2,827文字

「はえ? はえぇー?」
当真は思わず間抜けな声を出してしまい、手に持った竹槍をぽろりと地面に落とす。

「グエェー!」

「はわ! はわわ!」

太陽の下、落し穴から身体半分を覗かせたソイツは、当真の方に向かって大きく叫んでいた。

「こ、これは豚っ…いやっ、オークか!? 何でこんな所にモンスターが…? いやっ! ていうかっ、ここ学園の裏山だよね? ゲームでもっ、漫画でもないよねっ?」

当真は混乱してしまい、盛大にキョドっていた。

「グェッグェッー!」

「うぉっ!」

叫び声を上げるオークに驚いた当真は、飛び上がってその場から離れる。

「一体、どういう事っ?」

この化け物(オーク)、どう見ても現実(リアル)だ。

「グエェェッー!」

突然放たれたオークの咆哮が当真の耳朶を打つ。

「うっ…!」

それを聞いた彼の全身が、ガタガタと震え出した。

「はあっ、はあっ」

当真は右手で左の二の腕をギュッと掴む。

(落ち着けっ、落ち着けっ…)

そうやって、震える身体を無理矢理に押さえ付けようとしていた。

「何なんだよ、これ…」

恐怖により、当真はオークから目を離せないままだ。

「グゥッエェ~!」

「ひっ…っ…?…?」

しかしその時、当真は偶然にもある事に気が付いた。

「うん? あれ? ひょっとして…」

当真はじっとオークを観察する。

「グエエェ…」

「コイツ、動けないのか?」

目の前のオークは、悲鳴を上げて苦しんでいるように見えた。さっきから、

「グエェー、グエェー」

と喚き立てているだけで、これ以上落とし穴から出てくる様子はない。

(これは、まさか…)

オークの目や鼻から、ドロドロした液体がとめどなく流れ続けている。

(ひょっとして…俺の小便の効果かっ?)

落とし穴から身体の半分を出した一匹のオーク。ヤツはしきりに、両手で目をゴシゴシと擦っている。

(コイツ、目が見えてないみたいだぞ? おまけに、これ以上は落とし穴から出て来れないみたいだ。よぉーし、それなら…)

オークが苦しんでいる様子を、じっと観察していた当真。

(何か怖いし、それに気持ち悪いし…)

彼は竹槍を拾い上げると、そろりとヤツに近付く。

(やっても良いよね?)

ゆっくりとした動作で、当真は両手に持った竹槍を大きく振り上げた。

(ビビらせやがって…この)

そして、眼前にうずくまるオークを竹槍で滅多打ちにする。


バシバシッ!

「このっ、落ちろっ!」

しかしオークのヤツは、落とされまいと抵抗した。

「グゥー…!」

オークは、落とし穴のへりの部分に両手でしがみついて離れない。


バシバシバシッ!

「こんのっ、いい加減にしやがれっ!」

「グゥゥー…!」

バシバシッバシバシッ!

「それっ!」

「グエェー…!」

それは、とても長い戦いになった。

「えいっ、このっ!」

「グエッ、グエッ…!」

必死になって落ちまいとするオーク。それを手に持った竹槍で、ポカリと叩くだけの作業だったのだが…これは、中学1年生の当真にとっては重労働だった。

「グォ…グオオ……」

「はぁ、はぁ、はぁー」

やがて当真の息が上がり、両腕が鉛のように重くなった頃。

「……………」

ついにオークの抵抗が止んだ。その両手がズルリとへりの部分から離れる。そしてオークの身体がドサリ! と落とし穴の中へと落ちていった。

「やった!?」

当真は、恐る恐る落とし穴に近付いてその中を覗き込んだ。

「うわっ!」

落とし穴の中には、凄惨な光景が出来上がっていた。一体のオークは、頭を潰されて壁に寄り掛かっている。ドクドク…とその中身を溢しながら、壁に張り付いていた。


もう一体のオークは、頭を踏み潰されて倒れている。当真が落とし穴の底に仕込んだ岩と岩の間に、頭部が一体化するように挟まっていた。脳漿(なかみ)が飛び出て、容量の小さくなったオークの頭がとても印象的だ。

「これは…」

当真の小便によって、オーク達は目と鼻が効かなくなった。狭い落とし穴の中で、3体のオークが恐慌状態となり暴れ回った結果、同士討ちになったのだろう。

「しかし、パワーあるな」

オーク達の肉体の損傷は尋常じゃなかった。

「すげぇ、破壊力」

まず当真は、竹槍でやっつけたオークの方を見てみる。

「んっ、これは!?」

両足が骨折していた。たぶん、落とし穴の底に沢山転がっている、石のせいだろう。そして、うつ伏せになったその背中には、切り裂かれた様な大きな傷が付いていた。

「あれっ…ということは、つまり戦える状態ではなかったのか。最初から瀕死の状態だったんだ」

偶然に偶然が重なった結果。当真は、この怪物達を倒すことが出来た、という事になる。

「うーん…」

当真は落とし穴にいるオーク達と、自分の身体とを見比べる。分厚い肉に覆われたオーク。そのいかにもパワーの有りそうな肉体は、容易に破壊力の高さを想像させた。


一方の当真はガリガリの骨と皮。ちょっと膨らんでいて、肉が摘めるのはお腹くらい。だから、パワーなんて有りはしない。

(この3ヶ月近く、落とし穴を掘ったりして鍛えられた筈なんだけどなあ…結構キツかったのに、それでも筋肉は付かなかったな。背丈も、クラスの中では一番小さいままだし、なんか悲しくなってきた)

まともに戦っていたら、あっという間にミンチにされていただろう。人間が素手で、熊やライオンに勝てないのと同じ理屈だ。


本能で分かる…コレには勝てない。なのに無謀にも、竹槍ごときでオークに打ちかかった。そんな自分を反省するのとセットで、当真が再度ビビり始めたその時…


ブブブッブゥン…。

「ん?」

落とし穴から、妙な音が聞こえてくる。当真はビビりながらも、竹槍を構えて落とし穴を覗き込んだ。


ブブブッブゥン…。


穴の中で、3体のオーク達が小刻みにブルブルと震えていた。そして、その肉体が段々と霞のように消え出してゆく。

「なにが…起きているんだ?」

当真が大きく目を見開いて事態を見守る中…スウゥゥーとオーク達の肉体が完全に消失する…そして、

パカパッパッパッーパッパパーン!

「うわっ?」

突然、レトロゲームで聞くようなファンファーレが、当真の頭の中で鳴り響いた。

「レベルアップしました」

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「レベルアップしました」

「レベルアップしました」

「レベルアップしました」

と繰り返し告げる声が、頭の中で聞こえてくる。そして何やら心地の良い、フワーとした感覚が身体を包み込み…そのまま当真の視界は、真っ白に染まっていった。

○○○○




水森当真(みずもりとうま)

私立水上学園中等部1年生

生年月日 平成18年1月23日生れ

年齢12才

身長146センチメートル

体重36キログラム


胸囲 55センチメートル

胴囲 50センチメートル

腰囲 55センチメートル


備考

1年7組所属

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