第5話 異世界サバイバル…壊れゆく日常③
文字数 4,067文字
ゴブリン達を振り切り、校舎内に逃げ込んだ春奈。
彼女は、そこで武器になりそうな物を探しながら、素早く作戦を立ててゆく。
バキバキ、バリンッ!
春奈が作戦を決めるのと同時に、玄関の方から扉が破られる音がした。ゴブリン達が春奈を追って、建物内に侵入してきたのだ。
そう言って身構えた春奈の動きが、ピタリと止まる。
ホブゴブリンは、2メートルはあろうかというその巨体にお似合いの、大きな斧を担いで春奈の方へと近付いて来る。
そして彼女と目が合うと、ホブゴブリンは雄叫びを上げてみせた。
腹に響くその声を受けて、思わず春奈は顔をしかめる。更にホブゴブリンはその場に立ち止まると、頭の上で斧を振り回して彼女を威嚇し始めた。
ぶぉん、ぶぉん…!
ホブゴブリンは、他のゴブリンとは比較にならないサイズだ。身体の大きさが、まるで違う。その背丈は、春奈よりも軽く頭一つは高い。
春奈はチラリと周囲に視線を走らせた。
一瞬の逡巡の後、彼女は覚悟を決める。
という掛け声と共に、そのまま円盤投げの要領で彼女は消火器ごと、クルクルと自分の身体を回転させる。
そして、ぶん、ぶん、ぶんっ! と激しく身体を回転させながら、斧を振り回して吠え続けるホブゴブリンへ向けて、春奈は消火器を投げ付けた。
目の前に飛んできた消火器。一瞬それを呆けたように見るホブゴブリン。
そしてホブゴブリンは反射的に、飛んできた消火器を斧で打ち落とした。斧が当たり、切り裂かれた消火器の赤い表面がめくり上がる。
同時にガツンッ! と鈍い音が廊下に響くと、ブシュゥー! と床に転がった消火器から、勢い良くピンク色の粉が吹き出した。
廊下に巻き散らかされた大量の粉。それはゴブリン達の視界を奪い、その行動を制限する。
それを好機と見た春奈が身を翻して、その場から逃げようとした時。彼女にとって、僥倖とも言える出来事が起きた。
1匹のゴブリンが目を擦りながら、フラフラと春奈の方に近寄ってきたのだ。
内心でそう呟いて、彼女は足元にある残りの消火器を両手で掴んだ。それを自分の頭の上まで持ち上げると、彼女はゴブリンの頭を目掛けて、一気に消火器を振り下ろした。
ぶんっ! ガツッ! ドサリ…
消火器による一撃を頭部に受けたゴブリンは、悲鳴を上げる事もなく、その場に崩れ落ちる。
春奈は荒く息を吐きながら、動かなくなったゴブリンを見下ろしていた。消火器を持つ彼女の腕が小刻みに震えている。そして、それとは裏腹にスーッと頭の奥が冷えていく。
フラフラ…フラフラ…
そして1匹また1匹と、奴らは目を擦りながら春奈の所へ近付いてきた。
ぶんっ、ガツッ!
奴らは飽きること無く、次から次へと彼女の元にやってくる。
ぶんっ、ガツッ!
そして、春奈は手に持った消火器で、ゴブリン達を殴り殺していった。
ぶんっ、ガツッ!
何故か、律儀に1匹ずつ近寄ってくるゴブリン達。その事を頭の隅で、おかしい…と思いながらも、
ぶんっ、ガツッ!
彼女は、淡々と消火器をゴブリンの頭に振り下ろす、という作業を続けていた…。
ぶんっ、ガツッ!
その瞳は何の感情も浮かべていない。モンスター相手とはいえ、命を奪うという行為…それが、彼女の感情を冷たく閉ざしてしまったのだろうか…だから、気付かないのか…先程から、
ブブブッブゥン…
と音を立てて、ゴブリン共の死体が振動している事に…そして、霞のように消えていく死体。そこから、目に見えないマナと呼ばれる粒子がパッ! と放たれては、周囲に拡散している事に…更にはその一部を、自身が吸収している事を…まだ彼女は、気付いていなかった。
パカパッパッパッーパッパパーン!
「レベルアップしました」
「レベルアップしました」
「レベルアップしました」
「レベルアップしました」
「レベルアップしました」
突然、春奈の頭の中でメトロなファンファーレが鳴り響く。
「ステータス画面を開きます」
「職業を選択した後にスキルを取得して下さい」
彼女が指先で画面をスワイプしていくと、剣士とか格闘士とか、それから薙刀やら、杖やら、弓やら…何やら色々な物が、ズラズラッと画面一杯に出ていた。
春奈の母方の実家が、昔から続く武芸百般な道場を営んでいる。その影響もあって、春奈は子供の頃から体術やら武器術等を習っていた。
その為なのだろうか? ステータス画面に出てくる
そう言って、春奈はステータス画面に触れる。すると各
「選択された職業を確認しました」
ズラズラっと列記されたスキルの中から、ピカピカしている物を選ぶ。
アナウンスが終わると、春奈は大きく深呼吸をした。
意識が戻った時、何故か目の前に斧があった。
おそらく、消火器の煙で目をやられた、ホブゴブリンが投げたのだろう。
春奈は、顔と身体を左にズラして、ひょいっと斧を避ける。次の瞬間、シュゴッ! という音が耳を掠めて、斧はそのまま後ろへと通り過ぎていった。
ガシャーンッ…!
そして、遥か後方にある廊下の勝手口を突き破り、斧は外へと出ていってしまう。
春奈はガラリと窓を開けると、外へと飛び出した。そのまま一気に突っ走り、ホブゴブリンから距離を取る。その後、彼女は目的の一年女子寮を目指して、大きく左へ進路を変更した。
中庭を抜けて、グラウンド方向へ向かう途中、再びゴブリン達に見付かってしまう春奈。彼女は取得したスキルを使い、素早く敵を倒すと、
そう言って体育倉庫の陰に隠れて、その場をやり過ごそうとする。
しかし、彼女はすぐにゴブリン達から、発見されてしまう。
何故か隠れる度に、すぐにゴブリン達に見付かってしまう春奈は、