第11話 舞い降りた翼…Ainz①

文字数 2,410文字

「わ、わかったよ…んっ!?」

返事をした次の瞬間、当真の意識と身体は裏山に戻っていた。

「座標を特定して私を送れ」

「…えっ…?」

目の前で起きた現象に戸惑う当真。そんな彼に向かって、ツヴァイは当たり前のように告げる。

「座標を特定しろっていっても」

困った当真は、頭の中でそれらしい事を思い浮かべてみるが、

「まだか? 夢見の最中に、彼女の位置を確認しただろう?」

どうにも上手くいかない。そんな彼にツヴァイから催促が飛んできた。そして、容赦のないダメ出しを喰らう。

「…もういい、時間の掛かり過ぎだ。仕方がない。対象を強くイメージしろ、そこへ跳ぶ」

「わ、わかった」

そう言われて、当真は強く春奈先生の姿をイメージする。

(おっぱいっ! おっぱいっ!)

「まだイメージが甘い。良く思い出せ」

しかし、さらにダメ出しをされてしまう。

(うぅ、思い出しているのに…)

当真にとって、おっぱいと春奈先生は分かち難いものだ。だから、彼には他の方法など思い付かない。

「ふう、まったく…」

そんな当真を見て、ツヴァイがタメ息をついた。そして、彼女の口から衝撃の事実が告げられる。

「このままでは、間に合わなくなるぞ」

「えっ!?」

「春奈とかいったな。見たところ、まだレベルも低いし、スキルの取得も不十分だろう」

「…そんな…」

「あのホブゴブリン相手では、1分と持たずにやられてしまうな」

「!!!」

ツヴァイの言葉を聞いて、当真の心臓がバクン! と大きく脈打った。

「な、なんだってっ! や、ヤラれる? …春奈先生がっ!?」

サーッと血の気が引く音と共に、身体中に悪寒が走る。その直後、当真は一気に感情を爆発させた。

「うおおおおおぉぉぉぉぉーっ!!!」

ふんわりとしたボブの髪。クリッとした鳶色の瞳。柔らかそうな、あのクチビル…それに、あんな腐れた野郎(ホブゴブリン)が触れる?

「ふざけるなよっ! 春奈先生のおっぱいは、俺のものだー!!」

「あのすらりと伸びた手足っ、うなじにっ、ムッチリとしたフトモモっ。おしりもっ、全部俺のものだー!!」

「あんなっ、クソッタレのホブゴブリンなんかに、ヤラせるもんかっ!!!」

追い詰められ、切羽詰まった当真は、驚異的な集中力を発揮する。

「うおおおーっ!」

目の前で、欲望を剥き出しにした少年を見て、ドン引きするアインとツヴァイ。

「……」

「…煩悩は人一倍か…やれやれ」

彼女達は、結構本気で引いていたのだが…そんな2人の女性の前で、当真は更に吼えていた。

「春奈先生とヤルのはっ! この俺だぁー!!」

「………」

「だが、イメージは十分。ふむ…今度の召喚者(マスター)は、とんだマセガキだな…」
黙ったまま小首を傾げるアインの横で、ツヴァイはそう呟くと、半ば呆れた顔をしながら、指定された対象へと跳んだ。
□□□□

「ぐっ…!」

春奈は痛みを堪え、その場になんとか立ち上がる。先程の攻撃で彼女が受けたダメージは甚大だった。

(頭が、クラクラする)

フラフラと足元が揺れて覚束無い。そして全身を襲う痛みが、彼女の意識を遮断しようとする。

「うっ…」

グラグラと揺れる目の前の風景。それが、春奈の視界を右から左に滑り落ちていく。

(不味い…落ちる)

パンッ! と瞬時に自ら左頬を張り飛ばし、彼女はふらつく身体に活を入れる。

「つぅー、いったい…」

意識はハッキリしたが、平衡感覚が回復するのに、まだ時間がかかるだろう。

(参ったな…まさか、これほどの力量差があったなんて)

残してあるSPを全部使っても、多分勝てない。こういう時のために、とストックしていた分だったけど…彼女の奥の手は、この相手には通用しそうにない。


春奈の場合、あくまでSPは力を補正する為の物だ。例え今あるSPを全振りしようとも、レベルアップ時の…あの力の上昇には到底及ばない。


それに、どちらかのスキルにSPを注ぎ込んでも、全体のバランスが悪くなるだけだ。それでは、十分な実力を発揮することは出来ない。


偏りは歪みを生む。戦いにおいて、それは大きな隙となるだろう。これから先の事を考えるならば、なおさら選べない手段だ。


彼女は当初より、生き残る事を念頭に置いてSPを割り振っていた。一度のレベルアップにつき、彼女が得られるSPは5。それを汎用性を重視して、両方のスキルに2ずつ振る。


そして、残りはストックしていた。しかし、相手との力の差がハッキリとしている今の状況。ここで、SPを均等に割り振る事が、勝ちに繋がるかどうかは疑問だった。


だが、一方に全振りをしても、この不利な状況を引っくり返せるとは思えない。しかし、このまま何もしないのでは、ただ座して死を待つのみだ。

「いちか、ばちか…」

短時間だが、爆発的な力を生む肉体強化(オーラ)か? それとも…研ぎ澄まされた必殺の一撃を可能にする感覚強化(センス)か?

(どちらに賭ければ、良い?)

まず、当たらなければ意味が無い。オーラを選んだ場合、そのパワーに振り回されて時間切れ…ということにもなりかねない。

(普通に考えれば、センスなんだけど…)

(とはいえ、パワー不足だしなー。膝を付いたの、あれ絶対に演技でしょ)

近くまで、ホブゴブリンがやって来ている。

(まさか、擬傷とはね。ホブゴブリンのクセに味な真似を…思い出しても、腹の立つ!)

ぐぬぬ…と呟いて、メラメラと闘志を燃やし始める春奈。その右拳が固く、握り締められていた。

(迷う…どうしよう…)

しかし、まだどちらか決められない。

「ハハハッ、困ったなー」

渇いた笑い声を上げる春奈。すぐそこまで、ホブゴブリンが迫って来ていた。

「もう、こうなったら白馬に乗った王子様とか、期待しちゃう?」

絶体絶命のピンチに、彼女は軽く現実逃避をし始めたようだ。

「来ないかなー?」

「来ないだろうなー」

そして、そこに持ち前の明るさが加わると、春奈の思考は変な方向に転がってしまい、彼女はおかしなセリフを連発してしまう。

「でも、来るなら早く来て欲しいな…」
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