第12話 舞い降りた翼…Ainz②
文字数 3,620文字
こちらに気付かずに、歓声を上げているゴブリン達。ちょうど、その後方へと跳んで来たツヴァイ。彼女はサッと剣を抜き放ち身を踊らせると、ゴブリン達の背後へと走り寄る。
そう呟いた次の瞬間、ズババババッー! と銀色の剣閃が宙を走り、彼女は一息で4匹のゴブリンを切り伏せた。
そして、行き掛けの駄賃とばかりに、春奈の周囲を取り囲む、敵の一角を崩しに掛かる。
彼女は
あっという間に、ゴブリン達を屠ったツヴァイは、
と言い、周囲を見回して
視界の右隅に土手を背にして、ホブゴブリンと対峙する女性の姿を認める。形勢は
彼女はそう呟くと、春奈に襲い掛かろうとしているホブゴブリン目掛けて、一気に駆け出した。
目の前が明滅する。景色が白と黒の交互に塗り潰されていく。そして、連続して襲ってくる痛みに、当真は悲鳴を上げていた。
その声を聞いたアインが、シュッと左手を横に振るい、直径40センチくらいの盾を出現させる。
地面を転がり、うつ伏せとなった当真の口から、掠れた声が漏れた。段々と瞼が落ちて、彼は気絶しそうになる。その時、当真の右足にアインがグイッ! と盾の下角の部分を押し付けてきた。
グリグリと盾が当たっているフトモモ部分。その箇所を起点として、新たな痛みが彼の全身を電流のように流れていく。
激痛の最中、その言葉を聞いた当真は、ハッ! とした表情でアインを見た。
彼女の言葉の意味を、瞬時に理解した当真。彼は歯を食いしばり、必死になって意識を繋ぎ止めようとする。
そう言って、アインは更にギュッと盾を押し付けた。
当真の口から絶叫が迸る。痛みにのたうち回りながら、少年は愛しい
やらないよりはマシだけど、この場合はそうじゃない。最善を尽くす、その思考を放棄してはいけない…春奈の好きな言葉に、乾坤一擲というのがある。これは、伸るか反るかの大勝負の事だ。
しかし、彼女の知る乾坤一擲とは、運頼みやその場の勢いに任せて行う物ではない。今までの人生の積み重ねが集約され、それが結果として現れる物だ。
だから、イチかバチかの賭けに出た結果、敗れるなんて事は容認し難い。彼女は、判断ミスで後悔などしたくないのだ。
私…生きたいのか? 助かりたいのか?
是か非か…これまでの自分を、そして人生の中身をここで求められるなら、奇をてらった答えなど出したくはない。
今、自身にとって必要なのは、心を揺らさない事だ。いつも通りにすれば良い、スタンスは崩さない。春奈はそう決めると、オーラとセンスにそれぞれSPを3ずつ割り振った。
パチ…
パチッパチッ
より深まった
彼女は素早く自分の状態を確認すると、最後に残ったSPの割り当て先を決める。
残りのSP1を使用して強化を終えると、春奈は右手に意識を集中させた。
強化された
バチリッ!
そして、春奈の目の前で敵が手を伸ばし、彼女の間合いに入って来た。
青く鋭い剣閃が疾り、放たれた刃が敵を直撃する。
バッ! と血が吹き出すと同時に、敵が驚きの声を上げた。ツヴァイの一撃は、ホブゴブリンの右肩を大きく切り裂き、相手に浅からぬダメージを与えていた。
広範囲に裂けてしまった右肩を押さえて、ホブゴブリンはヨロヨロとその場から後ずさる。敵に対して、完璧な奇襲を決めたツヴァイ。その口元が満足気に吊り上がる。
目からボタボタと涙を流して、当真は泣き叫んでいた。
痛みを我慢出来ずに、泣きじゃくる当真。彼の側には一人の女性が付いている。その姿はまるで、泣き止まない幼児を相手にして困っている、保母さんのようだ。
春奈の問いかけに、ツヴァイは取り合わない。現在、彼女の
悠長に会話をしている余裕は無かった。あの小僧、性欲は一端だが…まだ幼い。精神・肉体共に初期段階にあり、圧倒的に未成熟だ。
目の前の春奈と比較すれば、その差は一目瞭然となる。まさに大人と子供だ。果たしていつまで持つか…ツヴァイ自身、時間が惜しいのだった。
春奈は身体中からオーラを噴き出して、一時的に全身の痛みを消す。
聞きたいことは多々あれど、今はこの状況を何とかする事が最優先だ。春奈は質問を打ち切り、これ以上この場に留まることをやめる。