第1話   過去

文字数 4,712文字

目の前に広がる光景。
1度たりとも忘れたことはない。
今でも鮮明に覚えている。

あれは・・・俺が7歳の時に体験した初めての感覚、初めて生まれた思い。
そう、その初めての感覚をさせたのが人のようで人じゃなかった。
こんなことになるなんて思わなかった。
もっと楽しい時間を過ごしたかった。
この悔しい気持ちは一生忘れない。
少しこの気持ちを譲りたいくらい。
そしてこの話を聞いて欲しかった。

とある王国の中央都市

その日はいつもの日常、朝起きて、ご飯を食べて、身支度を済ませ学び舎に行く。
その家に住んでいる男の子フェレン・ディーアはそんな楽しい毎日を家族と一緒に過ごしている。
学び舎の教室に友達はそこそこいて毎日のように将来の話をしている。

「お前は将来何になりたいの?」
「うーん、僕は冒険者・・・かな」
「そういう君は?」

そんなありふれた会話を学校で話す。
いつでも話せる、いつでも会える。
それは当たり前と思っていた事。
変わらない日常・・・。

だが、この日だけは違った。教室に入るとわかった。明らかに敵意や憎悪のようなそんな視線が感じられた。
気のせいかなと思いながらも少し周りを見た。
が、直ぐにその視線はなくなり勘違いと判断して友達との会話に集中した。

だが、訪れる不幸はこれからだった。
友達と話している時、急に教室に入ってきた奴がいた。少しガタイの良い男の子だ。そしてそいつはフェレンに指を指し大声で周りにも聞こえるように言ってきた。

「なぁー、知ってるか?こいつ貴族って言われてるらしいぜ。・・・なんか俺昨日さ、たまたまそんな話が耳に入って来たんだけどそれって本当?」

急にそんなことを言われて意味がわからなかった。
貴族、話には聞いていた。
生まれた時から身分が高く一般市民より裕福な生活を持っているとか。

だが、なぜそんな貴族という言葉がフェレンに出てくるのだろうか。
そんな疑問を持ちながらもフェレンは当然否定する。

「いや、貴族じゃないけど…」

一応否定はする。
家に貴族という証拠もなければ普通に暮らす一般市民。
だが、もし何かしらの方法で貴族ということが分かればそもそもこんな庶民の所には行かずに貴族専門の学び舎に行くはずだ。
そんな余計なことをしなくてもいいはず。

そんな考えが頭の中を駆け回る。
頭から離れずずっと付きまとってくる。
1度考えるのをやめ今の状況を確認した。

貴族その言葉に教室が騒ぎ始めた。
そして段々クラスメイトが変わっていった。
行動や素振りが変わった訳では無い。
視線が変わりやがて敵意を感じられるようになった。

やはりさっきの視線は勘違いではなかった。
急いでこのことを母さんに伝えなきゃいけない。
早く学校が終わってくれ!

そんな段々と迫り来る恐怖に怯えたフェレン。
頭を抱え終わった欲しいと早く願ってばかりいた。
そんな授業がやがて終わり帰りの時間になった。

このクラスが怖かったフェレンは直ぐに支度をし、いつものように友達と帰ろうと声をかけたが返事がない。
そしてフェレンは初めて顔を上げた。
そこで驚愕する。

この教室にはフェレン以外誰もいなかったのだ。
嘘!と思いながらも辺りを探し、見つけようとした。
でも、トイレにも教室にも廊下にもいない。

「もしかして!外には!」

急いで教室に戻り窓の外を覗く。
黒い雲が一面に広がっており僕は恐る恐る下をみる。
そこにはいつも一緒に帰っているであろう友達が他の人と帰っていた姿を目撃した。

嘘だろと思いながらも教室を見る。
やはりそこには

しかいなかった。
そんなショックを受けながら1人でとぼとぼ家に帰る。

少し視線が痛く顔を下に向ける。
周りの目からはそんなに感じないがある程度はいた。
少し怖くなり走ろうとした。
だが、途中誰かに呼び止められた。

「おいっ、ちょっと待て」

振り向くとそこには友達と一緒に帰っていたはずの人達が声をかけられた。

「なに?」
「ちょっとお前に話があるんだ着いてきてくれ」

その言葉に恐怖に刈り取られ思わずその場から逃げた。
待て!と追いかけてくるが一切そちらを振り向くことはなく必死に逃げる。

ハァハァ、と息が上がり少し休んでから前を向く。
そこは行き止まりの小さな路地裏だった。
しまった!今すぐにそこから出ようと歩くがそこで見つかった。

「いたぞ!取り押さえろ!」

1人の男の子がそう指示すると雪崩のように3人が飛び込んできた。
必死に逃げようとするものの3人が乗っかており重くて動けなかった。

「よぉし、そのままにしていろよ」

すると、3人は俺を持ち上げて手出し出来ないように両腕と足を縛った。
縛り終わった後、3人を指示した男が急に殴りかかって来た。
手足は縛られており何も抵抗できず腹を入れられた。

「グフッ!」

強烈な痛みと地面に渡った衝撃で気絶しそうになった。
痛いし苦しいなんで僕がこんな目に合わなければならない。僕が何をした。
心の中で反響させながら数分続いた暴力に耐え続けた。

「ふん、今日はこれくらいで勘弁してやる。明日は楽しみにしとけよ」

そう捨て台詞を吐いて4人はその場を去っていった。
ため息をつき所々痛む場所を抑えながら家に帰った。
家に着いた。
そのことに安堵しながら玄関の扉のドアノブを捻った。

「ただいま!」

靴を脱ぎ足をついた時違和感があった。
いつもなら玄関で帰りを待っていた母さんがいない。
それに何か変な臭いがする。
そんな変化で不安に刈り取られても意を決しまっすぐ居間に向かった。
扉は開いており進む事に臭いは強くなっていく。
そろりそろりと近づき居間を覗きそして驚愕した。

「え?」

床には血まみれになって倒れている父さん。
そして、前を向くと母さんの首を掴んでいる男がいた。
その男は仮面を被り赤いマントを羽織っており手には手袋をはめている。
仮面の男はこちらを向いた。
その男の格好からか恐怖に襲われそのまま突っ立ていた。

「ん?君はこの両親の息子かな?」

その仮面の男は持っていた母さんをそのままゴトッと落としありえない速度で僕の首を掴んだ。
苦しくはなかったが振り解けず黙ってやることにしか出来なかった。

「よし、いい子だ。ところで君?この紋章を知っているかな?」

そう言ってもう片方空いている手をポケットからメモ帳を取り出し紋章を見せてきた。
その紋章は見たこともなく知らなかった。
首を横に振り知らないと伝えた。
仮面の男は顎に手を添える。

「ふむ、知らないか。ここが当たりだと思ったが私の思い込みだったようだ」
「え?」
「それじゃあね。私は子供を殺す趣味はないのでね」

そういって仮面の男はドアノブを捻り外へ出ていった。
その様子を見ていたがやがて正気に戻り倒れている母さんと父さんの方に近づいた。
始めはこの状況が理解できなかった。
だが、母さんの発した言葉により現実を知る。

「だい・・・じょう・・・ぶ。貴方にはグフッ私・・・達が・・・ついているわ」
「か、母さん?それよりこれは大丈夫なの?だって、血が!」

状況を理解しようと頑張った。
だが、そんなことより明らかに重症である母さんを先に心配した。
だが、時すでに遅し言葉を発していた母さんだがやがて喋れなくなった。
そんな母さんの重症にフェレンは泣いていた。
そんな息子を見てだろうか?
母さんは最後の力を振り絞って自分の思いと一緒に言葉に込めて放った。

「そんな・・・に・・泣かないの。貴方は・・・男の子・・・なんだから。強く・・・生きて・・・・・フェレン」

そんな中で母さんは大きな紋章が彫られていたものをフェレンは手渡された。
そして安心したかのように母さんの手はスゥと落ちて床に着いた。

「母さん?母さん?母さん!母さん!?」

返事がなく、ただ揺さぶられる。
もう返事を返してくれない。
誰もいないこの空間そして今手元にあるのは母さんから手渡された紋章。
そしてもう帰ってこないと数分かけて理解した。

この温かく楽しい時間はもうない。
傍に居てくれる人もいない。
それを理解した瞬間大粒の涙が滝のように流れた。
拭っても拭っても止まらずやがて叫んだ。
このどうしようもない気持ちを。

「うっ、ううっうあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

この日この瞬間を持ってフェレン・ディーアの人生はどん底に落ちた。


あれから数週間が経過した。


2人の遺体は埋葬されずすぐ近くの焼却炉で燃やされた。息子が知ることも無く。
僕はそんなことも知らずに貴族の人に引き取られた。
楽しく過ごそうとは思わなかったが母さんとの約束を守るために頑張ろうと思った。
早速貴族の屋敷の中で挨拶をしていた。

これからお世話になるので丁寧に言った。
だが、その家族は何も言わなかった。
おかしいな、と思いながらもずっと待っているとその家族の母親が一言だけ言った。

「あんた、今日から・・・奴隷ね」

その一言でフェレンの人生は地獄に変わった。
働け、そう母親が言うとすぐに去るがその息子だろうか?
いきなり詰め寄って来てドンと突き飛ばした。
体が小さいのでそれだけでもかなりの距離を飛ばされた。

痛いと思いながらこれから頑張ろうと決意した。
だが、やはりそう現実は甘くなかった。
毎日働かせる。
窓、床、掃き掃除、料理、洗濯、風呂に家族を1番に優先。

父親や息子に呼び出されると暴力、母親に呼ばれると監禁。
それでまた仕事が疎かになるとまた父親や息子の呼び出し。

それが毎日毎日繰り返される。
何度も繰り返すうちに僕はまず考えるのをやめ無気力になった。
ずっとこのまま奴隷なら自殺するのもアリかな。
そんな事まで考えるようになった。

痛い日々が繰り返される毎日。
ほとんどが監禁される毎日。
嫌ってほどやられてきた。
それでもまだ足りないのかな?

窓を覗く。
もう昼頃になっており外は快晴、貴族の息子とその友達が遊んでいた。
仲良くヒーローごっこでもやっているのだろうか。
3人仲良くして遊んでいる。
その1人貴族の息子が1度屋敷に入った。
そして呼ばれた。

「おい!奴隷!こっち来い!」

監禁部屋から無理やり引っ張られる。
引っ張られるがままに外へ出て行く。
そして息子がこんなことを言ってきた。

「奴隷ちょっと今ヒーローごっこやるからお前は化け物の役な俺たちはヒーローだからな!」

そういって3人は赤いマントと仮面を付けた。
その瞬間フェレンの何かが弾け精神にある変化が起きた。
あの仮面、それとマントを思い出す。

何度も何度も夢に出てきた悪魔。
そして今度は僕も殺すのか?
それにあの男は僕の母さんと父さんを殺した。
あの紋章を探す程度のことで。

どうしてこんな思いをしなければならない?
僕らが一体何をした?
あの仮面は殺すべきものだ。
貴族は憎むものだ。
そんなことよりも母さんとの約束を守らなければならない。
だが、それを思い出す度にあの記憶があの感覚が蘇る。
ならばどうすればいい?
この状況をどう打開すればいい?

研ぎ澄まされる記憶、固く崩れなくなる精神。
1度崩れバラバラになったパズルはやがてカチッカチッとハマっていく。
なくなった思い、気持ちが蘇ってくる。
そして思いはまとまっていく。

また監禁部屋に入れられる。
だが、その環境がフェレンを変える。

幸せを掴むためにどうすればいい。
これから

はどうしたい。
何をしたい?

そうして時間が経つにつれてまた思いはひとつにまとまっていく。
やがて満月の月光の光がフェレンを照らす。

今俺はどんな顔をしているのだろう?
だが、そんなことは関係ない。
俺は幸せを掴むために母さんとの約束を果たすために俺は俺は。

朝になる頃にはもう決まっていた。
何を?
それは

殺す

仮面をそして貴族を世界を1度壊して俺は世界を変える。
母さんの約束を守るため自分が幸せになるために。

そういって紋章を強く握り締め俺、フェレン・ディーアは新たに決意した。
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