第9話   マジックドール

文字数 4,441文字

夜宿屋にて

椅子に座って何かを作業しているフェレンは手に持っている物をエルナに見せた。

「さて、出来たぞ。エルナ」
「うん、どんな感じ」

嬉しそうに寄って来るエルナにフェレンは微笑む。そして近寄ってくるエルナにある物を見せた。見せたものは人形だった。大きさは小さく両手サイズで目が少し大きい可愛い人形がエルナに渡された。その人形はメイドのような服を着ておりその服には魔法陣が刻まれている。

ちなみに他にも机に5体いてそれぞれ髪の色が違う。今エルナが持っている人形の髪は銀。机には赤、青、緑黒、金の五色である。

「これをどうするの?」
「これはな人形を魔法で動かすんだ。ちなみにこの人形には魔法陣が刻まれている。そこに魔力を通すことで人形を操ることが出来るんだ」
「あぁ」

そう言ってフェレンは手をかざして銀髪人形に魔力を込める。すると、魔法陣に一瞬虹色に光るがすぐに消えそれと同時にカタカタと人形が動き出しやがてエルナの手を離れて人形はフワッと浮いた。

すごい、エルナはそう言いながら目を輝かせて見ていた。フェレンは1度銀色人形を机に置いて停止させた。

「ちなみにこいつらにまだ名前はないが取り敢えず、マジックドールと呼称しよう。ただこの6体はお前がつけろ」
「え?私?なんで」
「なんでって、これはお前の為に作ったんだぞ。ということは既にこれはお前の物。俺がそんな勝手はできない」
「うん、わかった。それとありがとう」
「あぁ、じゃ明日早速練習な」

フェレンは素直にお礼を受け取り明日練習しようと言いベットに入った。ちなみにエルナは1度マジックドールを見た後フェレンのベットに入り一緒に寝るのだった。

翌日

2人は早速マジックドールの練習の為、1度街を出て草原にいた。

「さて、じゃあ早速やってみようと思うが人形の名前はなんだ?」
「この子はマーズ」

今地面置いて操ろうとしている赤髪の人形。名前はマーズ。ちなみに青髪はマーキュリー、緑髪はガイア、黒髪はサタン、金髪はヴィーナス、銀髪はルナ。この名前は昨日、エルナが一生懸命考えた名前である。

「そうかじゃあマーズを動かすためにまず魔力を込めろ」

そう言ってエルナは昨日使った杖と同じ様に両手に魔力を込める。フェレンと同じようにカタカタ動きやがて地面を離れた。そこからはフェレンの指示に従って動かしていた。少し練習した後フェレンはエルナを見ていた。

「よし、大体良くなってきたな。じゃあ、次は魔法を撃とう」
「魔法はどうやってやるの?」
「実はなこのマジックドールには・・・・・・」

フェレンが説明するにこのマジックドールで魔法を使う時詠唱を必要としない。

ではまず詠唱について説明しようと思う。詠唱とはこの世界の魔法を発動させるのに絶対必要なものなのである。詠唱はその魔法の内容、意味、想像を理解していなければ魔法名を言ったとしても意味が無い。逆に言えば内容と意味、想像がしっかりしていれば魔法名だけで事足りるのだ。

だが、他の冒険者は絶対に詠唱を必要と考えており詠唱が言えなければ魔法が撃てないと勘違いしているのだ。現にフェレンは全てを理解している上で『拘束』や『リフレクター』を使っている。だが、昔もフェレンは詠唱が必要だと考えていた。それだけ詠唱は必要だと伝わっている。

そしてフェレンが作ったマジックドールには使用者が使おうとしている魔法の内容と意味を瞬時に理解し使用者の負担を減らすためマジックドール自信が勝手にやるのだ。想像して魔法名を言えば簡単に魔法を扱える。まるで自我があるようだ。

その説明に納得したのかエルナは頷き、早速マーズに魔力を込め頭で何かを想像する。すると、マーズの手から小さな赤い魔法陣が出現しそれと同時に一言放った。

「火焰(フレイム)」

その言葉通り火焰が直線上に放たれた。だが、その火焰の威力はフェレンの予想を大いに上回るものだった。射程は50メートルまで飛び威力も中級だ。そしてその火焰は地面に着くと同時にボワッと一瞬にして燃え炭と化した。

この威力にもフェレンは絶句し同時にこう思い始めた。

(や、やべぇ・・・。俺、とんでもない物作っちゃったよ。め、目立たないように気をつけないとな。・・・・・・よし!大丈夫大丈夫!!)

ちなみにエルナは今まで撃ってきた魔法の中でちゃんと予想通り撃てたことによりマジックドールを気に入っていた。まぁ、フェレンの作った物ということも関係しているが。

それによりエルナはマジックドールにしっくりきたらしく今度は2体操ろうと同時操作を練習した。だが、そんな簡単にいかないのが普通である。だが、エルナは違った。1時間練習した後軽い表情で2体操っていた。

それによりフェレンは諦め、逆にエルナを応援することに決めた。そしてこれはフェレンの現実逃避である。2体の操りに上手くできたことによりエルナはよりマジックドールを大切にした。ちなみに3体の操りにも挑戦したが流石にそこまでは出来ず3体操るのであればそれなりの練習と時間が必要だろう。

フェレンはマジックドールの操るエルナを見ていた。やっぱ可愛いよな、とそんなしょうもないことを思いながらも近寄って来るエルナにフェレンは頭を撫でた。

不意なことでエルナは一瞬戸惑ったが頭を撫でられたことにより嬉しそうに抱いた。桃色空間の完成である。ちなみにこの桃色空間は数十分に渡りようやく終わった。2人は色々なことを出来たことにより満足したのか宿に戻るのだった。

宿屋にて

「レベルは上がったか?」
「うん、3に上がった」

今2人が確認しているのはエルナのステータスである。街の門に戻るまでに魔獣に遭遇した為早速練習の成果と言いエルナがマジックドールを使って倒したのだ。

────────────────────────
エルナ 女 15歳 LV3 ランク★5
種族 人族
職業 冒険者 魔術師
体力・18
筋力・19
魔力・70
俊敏・12
知力・21
耐性・16

スキル
『魔力向上』『詠唱略 少』
────────────────────────

「やっぱり、魔力の上昇が異常だな」
「何かやばかった。おかしい」
「別におかしくないなさ。逆にいいさ。むしろ助かる」
「よかった」

2人はベットに座りエルナはフェレンに寄りかかっている。フェレンはエルナの頭を撫でた。エルナの頬が蕩けている。ゆっくりと時間が流れる中でフェレン一言発した。

「そういえば、まだエルナには俺の旅の目的を言ってなかったな」
「うん」

頷くエルナにフェレンは目を見ながら何かを伝えるように一言一言呟いた。

「実は俺もエルナと同じように一時期貴族の奴隷にされたことがあるんだ」
「え?」

まさかとエルナは疑う。自分を救ってくれた人が自分と同じように奴隷だなんて。最初は信じられなかった。が自分を救ってもらい一緒にいる。だがら、フェレンの言った言葉を信じるようにエルナは聞いた。

「本当だ。掃除、料理は当たり前。それに暴力、監禁のおまけ付き。どうだ、笑えるだろ。しかも、奴隷にされる前は仮面の男に両親を殺された。」
「・・・・・・」

淡々と告げるフェレンに心が傷むのかエルナは涙を流していた。啜る声でフェレンはエルナが泣いていることに気づく。だが、それでも言った。

「殺された、はじめは信じられなかったよ。でも段々と感じた。もう帰ってこない。俺を迎えてはくれない。しかも、そんな中貴族が現れた。でも、どうでもよかった。家族もいないし痛い辛い。でもその感情はどこに行っても吐き出せない。呪ったよ。人生を世界を」
「ズズっ・・・うっ・・・・・・ううっ」
「でも、俺は変わることを決めた。母さんの約束を果たすために」
「母さんとの約束?」
「あぁ」

1度エルナはフェレンを見た。ぽつぽつと涙が流れている。フェレンはエルナの涙を拭きながら少し微笑んだ。

「約束、母さんとの約束だ。強くそれが約束だ。だから俺は2人を殺した仮面を殺して貴族も殺して世界を変える。それが俺の旅の目的だ」
「なら、私も」
「ん?」
「フェレンがくれたこの命はフェレンの為に使う。だから私も世界を変える為にフェレンの為に使う」

フェレンは黙っていた。そのエルナの思いにその覚悟を決めた目をただ浸っていた。その心が強くまた頼もしい姿にフェレンはいつの間にか涙を流していた。

涙を流していることに気づいたのは少し後エルナは微笑んでいた。ありがとうと口では言わないがフェレン はそう感じていた。


それから1週間


エルナのステータスも随分上がりマジックドールの使い方も慣れてきた頃ギルドで依頼を受けようという話になり2人は早速ギルドに入っていく。

ギルドに入るなり視線が集まる。そして視線の集まる先には当然のように美少女のエルナに向けられフェレンに嫉妬と憎悪の塊。

面倒をかけるなと思いながらカウンターに進むが案の定、3人組の男パーティーに声をかけられる。周りからの視線もビシビシと来る。

「おお!べっぴんさんがいるじゃねぇか!おい、お前さん。悪いことは言わねぇ、だからそいつと金を置いてどっか行け」
「うるせぇよ、邪魔だ。お前らがどけ」

少し威圧入りの挑発をすると3人は顔が赤くなりブシューと蒸気を放っているように見えた。そして3人は手に剣をかけ呟いた。

「もう謝っても許さんぞ、貴様は今から死ね。」

フェレンに向かって走り出す。だが、フェレンはそれが最初からわかっているように動きを構えそしてフェレンも呟いた。

「なら、お前らが死ね」
「ぐおっ!」
「ぐぴっ!」
「うべっ!」

3人は一斉に吹っ飛んだ。壁まで飛ばされ強打しバタリと倒れた。それを見ていた他の冒険者は・・・。抜け駆けすなよ!と張っていたが今ではどうぞどうぞ!と譲り合っている。

ちなみにフェレンはというと蹴り入れていた。その体に似つかないような蹴りを見せられたことによりさっきまで鬱陶しかった視線は次第に恐怖の視線に変わっていった。

フェレンはスッキリしたようにフンと鼻を鳴らし受付をしようと近づくが途中誰かに呼び止められた。

「少しいいですか?」
「あ?なんだ。俺たちに用か?・・・・・・・・・ディルテ」
「な、なんなんですかその間!?まぁ、取り敢えずこちらにキャスパー支部長がお呼びです」
「はぁ、あいつぅ?っち行くか」
「うん」

支部長からのお呼び出しとあらば仕方がない。フェレンとエルナは仕方なくディルテについて行くのだった。

見覚えのある部屋に招かれる。コンコンとディルテは扉を叩き了解を得ずに開けた。

「失礼します、キャスパー支部長。お連れしました。」
「おお!来てくれたか!助かるよ。まずは座ってくれ」

キャスパーはディルテを下がらせフェレン達2人はソファに腰をかけた。フェレンはキャスパーを見る。キャスパーはどこかソワソワしていた。

「それでなんで俺達は呼ばれたんだ?」
「そうだったね。単刀直入に言おう。君達に迷宮(ダンジョン)に入って救出して貰いたい」
「は?」

そんなことを急に言われたフェレンは呆気に取られた。
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