第15話 オーバーアップ
文字数 5,129文字
「フェレン!?フェレン!?」
呼びかけるが返事がない。ありえない、嘘そんな考えがグルグルと頭を駆け巡る。だが、そんな時間はない。靄のかかった人型はフェレンにまた何かをやろうとしていた。
そうはさせないとエルナはマジックドールを4体に増やした。ルナ、サタン、マーズ、ガイアを出しフェレンを守るように囲んだ。
だが、そんなことは関係なしに靄の人型はマジックドールをものともせず吹っ飛ばした。だが、エルナは吹っ飛ばされたマジックドールを無視してフェレンを連れて距離を取った。
「ぐっ!」
「フェレン!?」
呻き声を上げたフェレンに視線を向けるエルナ。それもそうだ、今フェレンが受けた傷は右肩から左腹部にかけて深いものだった。血がダラダラと滝のように流れている。その血は止まることを知らず服に染み込む。痛みに耐えながらゆっくりとフェレンは起き上がる。
「痛ってぇ。ぐっ!くそ、ホントの化け物じゃねぇか」
「ダメ!無理しないで!」
起き上がるフェレンに対してエルナは無理しないでとフェレンのことを心配する。当然だ。今までまともに攻撃を受けていなかったフェレンだが。目の前であんなのを食らったのだ。
心配しない方がおかしいのである。だが、フェレンは心配するな、と声をかけ収納魔法から1番効果がある薬を取った。
「とりあえず、大丈夫さ。ただ、あれはマジでやばいぞ。倒せるかな?」
「その、大丈夫なの?傷」
「さっきも言ったが大丈夫だ。まぁ、とは言ってもあまり良くないな。今俺の体は麻痺している。持ってもあと数分くらいか。だが俺は倒す。倒してここを出る」
「うん!わかった。何か出来ることは?」
「そうだな。とりあえず援護を頼む。もちろん自分の判断でな」
そう言ってフェレンは紅黒牙を引きずりながら靄のかかった何かに接近する。火花が時々散るがそんなことは無視して超加速と超集中を使い攻撃を仕掛けた。
スゥ
だが、その攻撃は当たることはなくまるで通らないかのように透き通ってしまった。そのことに驚いたフェレンだがすかさず体制を立て直し今度は拘束した。
だが、その拘束も意味をなさず真っ直ぐ伸び透き通っただけだった。何も出来ずフェレンはそのまま突っ立っていた。
もはや攻撃の手段はなく、またあまりにも強すぎる敵に絶望していた。そして靄の人型は標的をフェレンに向けた。フェレンは距離を取ろうとするも恐怖と体の麻痺で動かず硬直している。
敵はどんどん近づいてきてとうとうフェレンの前に来た。だが、まだ動けず代わりにフェレンはその鋭い視線で靄の人型を睨め付けている。絶対に負けない。恐怖に屈しない。そんな覚悟の目だった。
靄の人型は腕の部分を上に上げそして静かに振り下ろした。
キーン
また、ありえない音とともにフェレンが吹っ飛んだ。それと一緒には血も飛び散りドサッと重苦しい音とフェレンが持っていた紅黒牙が折れた音にエルナは唖然としていた。
エルナはすぐに正気に戻りくっ!と心配する気持ちを我慢する。そして回収していたマジックドール達を靄の人型に突撃させながら魔法を放った。
魔法は簡単な物で撃つ。今エルナがやろうとしている事はフェレンを回復させる事だ。今フェレンは倒れており出血も酷い。
なのでまず、マジックドールで簡単なのを撃たせて標的をマジックドールに変える。そうすることでフェレンを回復させる時間を稼ぐ。
非常に馬鹿なやり方だとエルナ自身わかっている。だが、フェレンは自分を救ってくれたのだ。贄にさせそうな自分を見捨てずに。その出来事に救われた。居場所も与えてくれた彼に少しでも恩を返せるようにと。
「待っててね。今助けるから」
そう決意したエルナはマジックドールで陽動を図りながらフェレンの方に向かって走った。魔法はさっきも言ったように簡単なものだ。フレイム、ハリケーン、ウォーターを駆使して使った。
三つの魔法はそのまま靄の人型に向かっていった。靄の人型はそのまま突っ立っており何も動かなかった。避ける気は無いのだろうか?だが、エルナは一度その考えを放棄しフェレンに向かった。
そしてその魔法は靄の人型に当たった。当たったのだ魔法が。どうやらあの靄の人型は物理は効かないが魔法は効くらしい。そのときの衝撃波がエルナを襲うが気にせずフェレンに向かう。それからエルナはどんどん攻撃させるようマジックドールに魔力を送りまた攻撃する。
激しい轟音と衝撃波の中エルナは収納魔法で薬を取り出しフェレンに飲ませる。だが、以前受けた攻撃とさっき受けた攻撃で全身が麻痺しており呼吸もうまくできず荒くなっていく。しかも気管に入ったようでむせて吐き出してしまった。
回復しないことでエルナに焦りが出てきておりこれしかない、と覚悟を決め薬を自分の口に含んだ。そしてむせているフェレンに無理やり口付けし飲ませた。
麻痺は取れ呼吸も落ち着いてきたが肝心な傷の回復が遅い。さっき飲んだときはすぐに傷を塞いでくれたのに、何かに阻害されてように遅々としている。
「うそっ!?」
疑問とパニックで一度我を失うが回復魔法をかける。だが、魔法でも治りが遅く回復をかけ続けた。
エルナが回復魔法をかけているのに治らない。その理由としては、フェレンは今『呪い』がかかっているせいである。呪いは1種の状態異常でありどんなに回復魔法を掛けても治らない。治すには特殊な魔法をかけなければならない。
何もないひらけた場所、障害物はなく靄の人型は真っ直ぐこちらにくる。エルナは覚悟を決めたようにフェレンの手をとって呟いた。
「大好きだよ、フェレン」
ぎゅっと手を握りやさしく微笑んだ。覚悟を決めたエルナはその場を立ちマジックドール集めた。真っ直ぐこちらにやってくる。4体のマジックドールに魔法、属性エンチャントをかけさらに魔力を上げる。立ち向かう準備は完了しエルナは向かってくる靄の人型に魔法を放つ。
「ライトニングサン、ダークネビュラ」
エルナは複合魔法を使いながら靄の人型に向かった。マーズとルナ、ガイアとサタンを使い足止めをする。ライトニングサン、2体のマジックドールて行う複合魔法。
初級魔法フレイムのような球を靄の人型に向けて射出した。オレンジ色の球は敵真っ直ぐ向かってそして爆発し爆ぜた。
爆発し爆ぜた球は靄の人型を消すように炎が付着しオレンジ色の閃光でこの部屋が明るく照らされた。靄の人型は炎で燃え続け、ダークネビュラが追い討ちをかける。
黒い刃が無数に囲い竜巻のように巻き上げた。効いているか分からないが靄の人型は風の勢いで高く吹っ飛んだ。それが数秒続きドタッと靄の人型は地面に強打した。
だが、靄の人型は萌えながらも何事もなかったかのように平然と立ちまたゆっくりとフェレンのほうに歩く。
そんな不気味な雰囲気を纏った靄の人型に少し気圧されるがめげずに攻撃を続けた。初級や中級を撃ち続け更には覚えたての上級や最上級を撃ち始めた。
もう出し惜しみはしない。やらなければフェレンが自分が死ぬ。そんなことで終わらせたくないし終わりたくない。
そんな思いがエルナに力を増幅させる。だが、それでも平然としている。まるで自分には魔法と効かないぞ、というように。
そして激しい攻撃をし続けた結果今度はフェレンではなくエルナにターゲットが移った。こちらに近づく。やってくる。
だが、そんなで屈しない。最上級魔法をマジックドールで撃ち続けるがやはり効かず、さらには靄の人型が右腕を上げた。
何もするつもりか警戒しているとスッとエルナに近づき腕を振り下ろした。
またキーンと音が鳴る。
「ぐっ!うぅっ」
それと同時にエルナの左肩が掠った。血が少し出ただけで少し痛いと思うほどだ。だが、次の瞬間強烈な吐き気と痺れに襲われた。
これはさっきフェレンが受けた攻撃と同じだった。左腕が動かずもやは使い物にならなかった。くそっと心の中で悪態を吐きながら後ろで距離を取りまたマジックドールで攻撃を仕掛けた。
だが、靄の人型もさすがにこれ以上やられたくないのか攻撃を仕掛けるマジックドールに向けて防御をしながらカウンターを取る。
エルナはその行動に唖然とし何一つ言葉を発さなかった。マジックドールは斬られドテッと床に落ちた。そして靄の人型は高速移動する。
またエルナの前に姿を現し腕を下ろす。やられる前に距離を取る。だが、それも通じず今度は右足が負傷する。
その痛いと麻痺、めまいと吐き気に動けず膝を着いた。疲れが一気に出てきて息を着く。そして靄の人型が近づくにつれエルナの心はボロボロになっていた。
攻撃しても効かずただ目の前の敵を殺す為に生きる魔獣。先程の憎しみはなくただやることだけやる、邪魔な敵を殺す。
そんなんだからだろうか。心もなく容赦なく攻撃してくる敵にエルナの心は折れた。フェレンも倒れて頼みのマジックドールは呆気なく斬られた。
既に戦う気力は残されておらず立つことも諦めていた。ゆっくりと近づく靄の人型に恐怖しながらエルナは覚悟を決める。
そして靄の人型は鎮座しているエルナを見下ろすようにまた右腕を上げた。今度は確実に殺すように真っ二つにするつもりだろう。
エルナはフェレンを見てそして謝る。先に逝くことに対しての謝罪と約束を守ることができなかったことに対して。
「ごめんなさい、フェレン。そしてさよなら」
目には涙を浮かべ笑顔で。もう悔いはない目を閉じる。そして靄の人型は右腕を振り下ろすその瞬間・・・・・・。
ひとつの声と持ち上げられる浮遊感に襲われた。
「よっと、あぶな。・・・・・・エルナ大丈夫か?」
「ん、フェ、フェレン!う・・・そ!」
目を開けるとそこには倒れていたフェレンが自分を持ち上げていたのだ。流石の事でエルナは1度混乱する。だが、傷が目に入るとフェレンを心配する。
「だめ!動いちゃ」
「アホか。今動かないでお前を守れるかよ」
「でも!」
やはり傷が酷いので心配する。だが、フェレンの目にはまだ戦う意思がありエルナを座らせフェレンは靄の人型に向き直り呟いた。
「ステータス解放オーバーアップ」
エルナが1人で立ち向かっているなかフェレンはその様子を見ていた。マジックドールで魔法を使い全力で戦って痛めつけられている姿を。そして武器を失いただ終わるのを待っているのを。
フェレンは手を握り締めた。全力で戦っているアイツに。だがどうだ全力でやらなかったから今エルナがやられそうになっている。自分のせいで。それに大好きと言ってくれたエルナに初めて俺は救われた気がした。
なら、俺のやることは決まっている。エルナが俺を大好きと言ってくれるように俺もエルナに全てを預けよう。もう出し惜しみは無しだ。全力でやつを潰す。そして証明する俺の力やつよりも強いと。
フェレンは動かなかった体を動かし無理やり超加速を使った。エルナを間一髪で助け抱き上げる。体を動かす度にだめ!と言うが知ったこっちゃない。エルナを助けるため力を解放しよう。
「ステータス解放オーバーアップ」
その瞬間フェレンの周りに激しい風が巻き上がる。風圧が激しく近づくことが出来ないほどだった。そしてフェレンはいつしか折れた紅黒牙を握っている。
フェレンは超加速を使い靄の人型の間合いに入り斬りつけるように振るった。だが、やはり結果は予想通り透き通ってしまう。しかもリーチが短く少ししか刃が届いていない。
だが、それでもフェレンは不敵に笑みを作りならばと紅黒牙が赤く光る。刀身が短いのなら・・・・・・。
「伸ばせばいい。俺の想像で」
折れていた紅黒牙から透明の赤い刃が伸びた。それを見ていたエルナは唖然とし逆にフェレンはそのまま振り下ろした剣を縦に振り上げた。
そして振り上げた剣で靄の人型の右腕が切れサァ〜と砂のように消えた。その攻撃にエルナはもう何も思わずただ勝って欲しいと願うばかりでいた。
靄の人型は腕が切れたことに驚きながら少し後ずさりをする。その行動によってフェレンはさらには2回程斬りつける。
もう片方の腕と片足を無くした靄の人型。これで攻撃する術は無くなりフェレンはトドメを指すために右腕を空高く上げ唯一、一つだけ使える魔法を発動させる。
「剣流蒼花(けんりゅうそうか) 一流(いちりゅう) 百創百花(ひゃくそうひゃっか)」
その瞬間一瞬で十字に切れた靄の人型の体は地面に着いてピカッと光を爆ぜた。フェレンは1度目を守るように瞑る。数秒、収まったと思い目を開けると靄の人型はいつの間にか姿を消していた。そんな中ひとつの音が響く。
カランカランと鳴る金属音とあるものが目が入る。それは妖刀だった。靄の人型になる前に使っていた剣だった。
その剣を見たフェレンはようやく倒したのだと実感しそのまま床にドンッと座るのだった。
呼びかけるが返事がない。ありえない、嘘そんな考えがグルグルと頭を駆け巡る。だが、そんな時間はない。靄のかかった人型はフェレンにまた何かをやろうとしていた。
そうはさせないとエルナはマジックドールを4体に増やした。ルナ、サタン、マーズ、ガイアを出しフェレンを守るように囲んだ。
だが、そんなことは関係なしに靄の人型はマジックドールをものともせず吹っ飛ばした。だが、エルナは吹っ飛ばされたマジックドールを無視してフェレンを連れて距離を取った。
「ぐっ!」
「フェレン!?」
呻き声を上げたフェレンに視線を向けるエルナ。それもそうだ、今フェレンが受けた傷は右肩から左腹部にかけて深いものだった。血がダラダラと滝のように流れている。その血は止まることを知らず服に染み込む。痛みに耐えながらゆっくりとフェレンは起き上がる。
「痛ってぇ。ぐっ!くそ、ホントの化け物じゃねぇか」
「ダメ!無理しないで!」
起き上がるフェレンに対してエルナは無理しないでとフェレンのことを心配する。当然だ。今までまともに攻撃を受けていなかったフェレンだが。目の前であんなのを食らったのだ。
心配しない方がおかしいのである。だが、フェレンは心配するな、と声をかけ収納魔法から1番効果がある薬を取った。
「とりあえず、大丈夫さ。ただ、あれはマジでやばいぞ。倒せるかな?」
「その、大丈夫なの?傷」
「さっきも言ったが大丈夫だ。まぁ、とは言ってもあまり良くないな。今俺の体は麻痺している。持ってもあと数分くらいか。だが俺は倒す。倒してここを出る」
「うん!わかった。何か出来ることは?」
「そうだな。とりあえず援護を頼む。もちろん自分の判断でな」
そう言ってフェレンは紅黒牙を引きずりながら靄のかかった何かに接近する。火花が時々散るがそんなことは無視して超加速と超集中を使い攻撃を仕掛けた。
スゥ
だが、その攻撃は当たることはなくまるで通らないかのように透き通ってしまった。そのことに驚いたフェレンだがすかさず体制を立て直し今度は拘束した。
だが、その拘束も意味をなさず真っ直ぐ伸び透き通っただけだった。何も出来ずフェレンはそのまま突っ立っていた。
もはや攻撃の手段はなく、またあまりにも強すぎる敵に絶望していた。そして靄の人型は標的をフェレンに向けた。フェレンは距離を取ろうとするも恐怖と体の麻痺で動かず硬直している。
敵はどんどん近づいてきてとうとうフェレンの前に来た。だが、まだ動けず代わりにフェレンはその鋭い視線で靄の人型を睨め付けている。絶対に負けない。恐怖に屈しない。そんな覚悟の目だった。
靄の人型は腕の部分を上に上げそして静かに振り下ろした。
キーン
また、ありえない音とともにフェレンが吹っ飛んだ。それと一緒には血も飛び散りドサッと重苦しい音とフェレンが持っていた紅黒牙が折れた音にエルナは唖然としていた。
エルナはすぐに正気に戻りくっ!と心配する気持ちを我慢する。そして回収していたマジックドール達を靄の人型に突撃させながら魔法を放った。
魔法は簡単な物で撃つ。今エルナがやろうとしている事はフェレンを回復させる事だ。今フェレンは倒れており出血も酷い。
なのでまず、マジックドールで簡単なのを撃たせて標的をマジックドールに変える。そうすることでフェレンを回復させる時間を稼ぐ。
非常に馬鹿なやり方だとエルナ自身わかっている。だが、フェレンは自分を救ってくれたのだ。贄にさせそうな自分を見捨てずに。その出来事に救われた。居場所も与えてくれた彼に少しでも恩を返せるようにと。
「待っててね。今助けるから」
そう決意したエルナはマジックドールで陽動を図りながらフェレンの方に向かって走った。魔法はさっきも言ったように簡単なものだ。フレイム、ハリケーン、ウォーターを駆使して使った。
三つの魔法はそのまま靄の人型に向かっていった。靄の人型はそのまま突っ立っており何も動かなかった。避ける気は無いのだろうか?だが、エルナは一度その考えを放棄しフェレンに向かった。
そしてその魔法は靄の人型に当たった。当たったのだ魔法が。どうやらあの靄の人型は物理は効かないが魔法は効くらしい。そのときの衝撃波がエルナを襲うが気にせずフェレンに向かう。それからエルナはどんどん攻撃させるようマジックドールに魔力を送りまた攻撃する。
激しい轟音と衝撃波の中エルナは収納魔法で薬を取り出しフェレンに飲ませる。だが、以前受けた攻撃とさっき受けた攻撃で全身が麻痺しており呼吸もうまくできず荒くなっていく。しかも気管に入ったようでむせて吐き出してしまった。
回復しないことでエルナに焦りが出てきておりこれしかない、と覚悟を決め薬を自分の口に含んだ。そしてむせているフェレンに無理やり口付けし飲ませた。
麻痺は取れ呼吸も落ち着いてきたが肝心な傷の回復が遅い。さっき飲んだときはすぐに傷を塞いでくれたのに、何かに阻害されてように遅々としている。
「うそっ!?」
疑問とパニックで一度我を失うが回復魔法をかける。だが、魔法でも治りが遅く回復をかけ続けた。
エルナが回復魔法をかけているのに治らない。その理由としては、フェレンは今『呪い』がかかっているせいである。呪いは1種の状態異常でありどんなに回復魔法を掛けても治らない。治すには特殊な魔法をかけなければならない。
何もないひらけた場所、障害物はなく靄の人型は真っ直ぐこちらにくる。エルナは覚悟を決めたようにフェレンの手をとって呟いた。
「大好きだよ、フェレン」
ぎゅっと手を握りやさしく微笑んだ。覚悟を決めたエルナはその場を立ちマジックドール集めた。真っ直ぐこちらにやってくる。4体のマジックドールに魔法、属性エンチャントをかけさらに魔力を上げる。立ち向かう準備は完了しエルナは向かってくる靄の人型に魔法を放つ。
「ライトニングサン、ダークネビュラ」
エルナは複合魔法を使いながら靄の人型に向かった。マーズとルナ、ガイアとサタンを使い足止めをする。ライトニングサン、2体のマジックドールて行う複合魔法。
初級魔法フレイムのような球を靄の人型に向けて射出した。オレンジ色の球は敵真っ直ぐ向かってそして爆発し爆ぜた。
爆発し爆ぜた球は靄の人型を消すように炎が付着しオレンジ色の閃光でこの部屋が明るく照らされた。靄の人型は炎で燃え続け、ダークネビュラが追い討ちをかける。
黒い刃が無数に囲い竜巻のように巻き上げた。効いているか分からないが靄の人型は風の勢いで高く吹っ飛んだ。それが数秒続きドタッと靄の人型は地面に強打した。
だが、靄の人型は萌えながらも何事もなかったかのように平然と立ちまたゆっくりとフェレンのほうに歩く。
そんな不気味な雰囲気を纏った靄の人型に少し気圧されるがめげずに攻撃を続けた。初級や中級を撃ち続け更には覚えたての上級や最上級を撃ち始めた。
もう出し惜しみはしない。やらなければフェレンが自分が死ぬ。そんなことで終わらせたくないし終わりたくない。
そんな思いがエルナに力を増幅させる。だが、それでも平然としている。まるで自分には魔法と効かないぞ、というように。
そして激しい攻撃をし続けた結果今度はフェレンではなくエルナにターゲットが移った。こちらに近づく。やってくる。
だが、そんなで屈しない。最上級魔法をマジックドールで撃ち続けるがやはり効かず、さらには靄の人型が右腕を上げた。
何もするつもりか警戒しているとスッとエルナに近づき腕を振り下ろした。
またキーンと音が鳴る。
「ぐっ!うぅっ」
それと同時にエルナの左肩が掠った。血が少し出ただけで少し痛いと思うほどだ。だが、次の瞬間強烈な吐き気と痺れに襲われた。
これはさっきフェレンが受けた攻撃と同じだった。左腕が動かずもやは使い物にならなかった。くそっと心の中で悪態を吐きながら後ろで距離を取りまたマジックドールで攻撃を仕掛けた。
だが、靄の人型もさすがにこれ以上やられたくないのか攻撃を仕掛けるマジックドールに向けて防御をしながらカウンターを取る。
エルナはその行動に唖然とし何一つ言葉を発さなかった。マジックドールは斬られドテッと床に落ちた。そして靄の人型は高速移動する。
またエルナの前に姿を現し腕を下ろす。やられる前に距離を取る。だが、それも通じず今度は右足が負傷する。
その痛いと麻痺、めまいと吐き気に動けず膝を着いた。疲れが一気に出てきて息を着く。そして靄の人型が近づくにつれエルナの心はボロボロになっていた。
攻撃しても効かずただ目の前の敵を殺す為に生きる魔獣。先程の憎しみはなくただやることだけやる、邪魔な敵を殺す。
そんなんだからだろうか。心もなく容赦なく攻撃してくる敵にエルナの心は折れた。フェレンも倒れて頼みのマジックドールは呆気なく斬られた。
既に戦う気力は残されておらず立つことも諦めていた。ゆっくりと近づく靄の人型に恐怖しながらエルナは覚悟を決める。
そして靄の人型は鎮座しているエルナを見下ろすようにまた右腕を上げた。今度は確実に殺すように真っ二つにするつもりだろう。
エルナはフェレンを見てそして謝る。先に逝くことに対しての謝罪と約束を守ることができなかったことに対して。
「ごめんなさい、フェレン。そしてさよなら」
目には涙を浮かべ笑顔で。もう悔いはない目を閉じる。そして靄の人型は右腕を振り下ろすその瞬間・・・・・・。
ひとつの声と持ち上げられる浮遊感に襲われた。
「よっと、あぶな。・・・・・・エルナ大丈夫か?」
「ん、フェ、フェレン!う・・・そ!」
目を開けるとそこには倒れていたフェレンが自分を持ち上げていたのだ。流石の事でエルナは1度混乱する。だが、傷が目に入るとフェレンを心配する。
「だめ!動いちゃ」
「アホか。今動かないでお前を守れるかよ」
「でも!」
やはり傷が酷いので心配する。だが、フェレンの目にはまだ戦う意思がありエルナを座らせフェレンは靄の人型に向き直り呟いた。
「ステータス解放オーバーアップ」
エルナが1人で立ち向かっているなかフェレンはその様子を見ていた。マジックドールで魔法を使い全力で戦って痛めつけられている姿を。そして武器を失いただ終わるのを待っているのを。
フェレンは手を握り締めた。全力で戦っているアイツに。だがどうだ全力でやらなかったから今エルナがやられそうになっている。自分のせいで。それに大好きと言ってくれたエルナに初めて俺は救われた気がした。
なら、俺のやることは決まっている。エルナが俺を大好きと言ってくれるように俺もエルナに全てを預けよう。もう出し惜しみは無しだ。全力でやつを潰す。そして証明する俺の力やつよりも強いと。
フェレンは動かなかった体を動かし無理やり超加速を使った。エルナを間一髪で助け抱き上げる。体を動かす度にだめ!と言うが知ったこっちゃない。エルナを助けるため力を解放しよう。
「ステータス解放オーバーアップ」
その瞬間フェレンの周りに激しい風が巻き上がる。風圧が激しく近づくことが出来ないほどだった。そしてフェレンはいつしか折れた紅黒牙を握っている。
フェレンは超加速を使い靄の人型の間合いに入り斬りつけるように振るった。だが、やはり結果は予想通り透き通ってしまう。しかもリーチが短く少ししか刃が届いていない。
だが、それでもフェレンは不敵に笑みを作りならばと紅黒牙が赤く光る。刀身が短いのなら・・・・・・。
「伸ばせばいい。俺の想像で」
折れていた紅黒牙から透明の赤い刃が伸びた。それを見ていたエルナは唖然とし逆にフェレンはそのまま振り下ろした剣を縦に振り上げた。
そして振り上げた剣で靄の人型の右腕が切れサァ〜と砂のように消えた。その攻撃にエルナはもう何も思わずただ勝って欲しいと願うばかりでいた。
靄の人型は腕が切れたことに驚きながら少し後ずさりをする。その行動によってフェレンはさらには2回程斬りつける。
もう片方の腕と片足を無くした靄の人型。これで攻撃する術は無くなりフェレンはトドメを指すために右腕を空高く上げ唯一、一つだけ使える魔法を発動させる。
「剣流蒼花(けんりゅうそうか) 一流(いちりゅう) 百創百花(ひゃくそうひゃっか)」
その瞬間一瞬で十字に切れた靄の人型の体は地面に着いてピカッと光を爆ぜた。フェレンは1度目を守るように瞑る。数秒、収まったと思い目を開けると靄の人型はいつの間にか姿を消していた。そんな中ひとつの音が響く。
カランカランと鳴る金属音とあるものが目が入る。それは妖刀だった。靄の人型になる前に使っていた剣だった。
その剣を見たフェレンはようやく倒したのだと実感しそのまま床にドンッと座るのだった。