第12話   番人

文字数 5,013文字

20階層

番人部屋でありベテラン冒険者でも難しいと言われている。ちなみにその番人とは羽を生やした何からしい。らしいというはよく見たがどう表現したらいいかわからないということだ。

さらにその部屋の前にはよくベテラン冒険者が番人を倒すために野宿し備えているという。しかも、その数は50くらい。そしてそれは今回も同じである。

フェレン達はこの20階層までノンストップ、休憩無しでここまでやってきた。たった1時間で。だが、その分
死ぬ思いを沢山した。

即死級のトラップをびっくり箱にギュウギュウに詰めた感じでほとんど生きている心地がしなかったというのがフェレン達の本音。

ただ、ようやく番人の部屋に来たことに少し喜んでいた。番人の部屋の前で疲れた体を休める。その番人の部屋の前には休んでいたであろうテントや空の缶が放ったらかしに置いてあった。

どうやら、番人に挑んだらしい。面倒なことにならなければいいが・・・、とそんなことを思うフェレンは1度大きな扉を見る。

幾何学模様にその模様を囲むように古代の文字がビッシリと並んでいる。そんなことはどうでもいいや、と思いつつ立ち扉に近づく。エルナも近づきまじまじと扉を見ていた。

見蕩れてるという訳でなく待っているようだ。1度フェレンを見て少し微笑んだ。準備は出来ていると目で伝える。それを理解したフェレンはエルナの頭を撫でてこう言った。

「行くか」

そう言って見た目重そうな扉をゆっくりと開ける。



フェレン達が20階層の番人の扉を開ける数十分前

そこでは20階層の番人を倒すための準備をしていた。その中に剣を立て仁王立ちしている金髪の若い男性がいた。

その男の名前はケイド。ランク★8でありパーティーをまとめるリーダーでもある。そのケイドは今20階層の番人を倒すため同じランク★8のパーティーを50人集めて討伐部隊を結成させた。

ランク★8相当な実力者もおり今回こそは勝てると誰もが思っていた。だが、実際そうだ。ここの階層に来るまで彼らは傷をほとんど受けずやってきたのだ。

今度こそ勝てるそう慢心になっても仕方がない。そろそろだな、とタイミングを見計らいケイドはテント越しでも聞こえるように声をかける。

「みんな!そろそろだ。準備が出来たら来て欲しい!」

そう言うとテントからゾロゾロと冒険者が出てきた。中年の人も入れば若い人もおり複数いる。ケイドの方に集まった。足音が止まりケイドのパーティーの1人がケイドに声をかける。

「準備完了しました」
「よし」

1度ケイドは深呼吸をし大きな声で言った。

「みんな!よく聞いてくれ!今俺の後ろには番人の扉がある!そう20階層の番人だ!俺たちはここまで来たんだ!今度こそこの番人を倒し歴代最強の冒険者を越えよう!」
「「「うおぉおおおおおおおおおおおおお!」」」

ケイドの気持ちを汲み取ったのかみんなは武器を上げ声を乗せた。その姿にケイドは頷き剣を取り鞘に納め番人の扉を開けた。

勢いのあった雰囲気は無くなり緊迫した雰囲気に包まれた。ギギギッと重苦しい音がここ一体の空間に響いた。

ゾロゾロと恐る恐る部屋に入る。部屋は直径50メートル高さ30メートル程の円柱形だ。あまり明るくはなく暖色のランプだけが辺りを照らす。そして冒険者はその広さに圧倒されたのか誰も喋らなかった。

こんな緊迫した雰囲気に包まれながらもケイドは声を上げ士気をあげた。

「あと、数秒で魔獣の陣が出現する!総員戦闘に備え直ちにフォーメーションAを実行せよ!」

そう言ったあと他の冒険者達は直ぐに東西南北と別れて移動を始めた。敵を取り囲むようにして。武器を構えいつでも戦闘できるように準備をする。

そうしてケイドが言っていたフォーメーションAが完成した。それと同時に2メートル程の黄色い魔法陣が冒険者が取り囲んでいる真ん中に現れた。

「来るぞ!」

ケイドの掛け声と同時にその黄色い魔法陣からゆっくりと這い上がってきた。魔法陣から出てきたのは無駄のない白い鎧と兜を被って体長4メートルの人型魔獣。手には弓、背中には刀身が1メートルある大剣を背負って出てきた。

「「「「「「「っ・・・・・・・・・」」」」」」」

その姿に冒険者全員の動きが固まった。今まで感じたことのない威圧、その気配に気圧されていた。誰もが、勝てるのか?と思いながらもずっとその鎧の魔獣を見ている。

すると、その鎧の魔獣は何も無いところからポッと光の矢を出して気で出来た弓を引き始めた。ギチギチと苦しい音がする中ケイドはハッ!と正気に戻り固まっていた体を動かして指揮を出した。

「総員、直ちに攻撃を開始せよ!攻撃は各方面から、回復はやられたら適切な判断で頼む!攻撃隊は準備し直ぐに攻撃あの魔獣に弓を撃たせるな!」

指揮を聞いているうちに冒険者も正気を取り戻し、各々の役割を果たすために行動を始めた。

ケイドは指揮を出しつつ鎧の魔獣に攻撃を仕掛ける。だが、近寄らせず鎧の魔獣はすかさず弓で矢を3本射抜く。1本は避け残りの2本は剣で斬っていく。

その様子を見た他の冒険者は勝てるのでは?と思い始め自信のなかった気持ちは根性で入れ直し攻撃を仕掛ける。

後衛の魔法使いは弱点であろう闇属性の魔法をふんだんにぶっぱなす。その攻撃に鎧の魔獣は微かに怯んだ。その様子を見てケイドは士気を上げ鎧の魔獣に向かい剣を縦に振るった。

「はぁあああ!」

しかし、その攻撃は当然鎧によって弾かる。ケイドは1度後ろにバッグステップし鎧に当てた所を見た。そして驚愕する。鎧には傷跡がついておらず未だ健全、そしてケイドが放った攻撃だがあれは本気の攻撃だった。

だが、そんな程度で諦めない。斬り続けていればいつかは倒せる。そんなことを頭に思い浮かべながら1度周りを見る。

冒険者達が取ったフォーメーションA、鎧の魔獣を取り囲むようにして攻撃している為か鎧の魔獣は錯乱状態だった。

ええぃ!とがむしゃらにやるように鎧の魔獣は真上に矢を放つ。その行動に一瞬戸惑うもやられないように後衛の防御魔法と回復魔法によって回避した。

そんな中ずっと動かないで矢を放っていた鎧の魔獣がついに動いた。そのことにみんなは驚きながらも直ぐ正気に戻る。鎧の魔獣は上にジャンプし4方向に向けて連射した。

3箇所は上手く対処できたが1箇所だけは予想外だったのか上手く対処出来ずにモロにくらってしまった。その攻撃が上手くいったことに鎧の魔獣は地面に着地し追撃を仕掛ける。

だが、そんなことはさせないとケイドはやられた1箇所の方に行き指揮を確実に行った。

「この程度で慌てるな。後衛は直ぐに怪我人を下がらせ治療にあたれ。他の人は残りの3箇所に移動し支援する形でやってもらいたい」

早速行動を起こす後衛、他の人はケイドに合わせて残りの3箇所に移動した。

ケイドは攻撃を仕掛けるもやはり効かず跳ね返される。闇魔法でやるにしても決定的な攻撃力がないので戦闘は拮抗していた。

そんな中ケイドは少し焦っていた。

このままではどの道やられる今はどうにかして耐えているがまだ10分しか経っていない。もし、あの大剣が使われたら・・・・・・。

と、この拮抗した戦闘に切羽詰まる焦りにより状況判断も曖昧になり始めた。

鎧の魔獣は疲れを見せるどころかまだ“弓”しか使っていない。それを見るとまだまだ鎧の魔獣は戦える余裕があるということ。この程度では崩れないと。無言で語っているようにも見える。

「くっ!」

何も勝利の道筋が見つからず焦りが顔に出始め汗もだらだらと滝のように流れた。しばらくの間指示が出ずずっと待っていた他の冒険者は行動を起こした。


「っ!?」
「おい!リーダー指示をくれ!今俺達の後衛が大型の魔法を撃つんだ!その為には時間が必要なんだ!頼むからみんなで足止めするよう指示を!」
「・・・・・・わかった。前衛は後衛の時間稼ぎ。タンクは魔獣を挑発し注意を逸らせ!後衛は詠唱に集中しろ」

そう指示すると同時にケイドは魔獣に突っ込む。

反撃だ。

そんな中後衛は詠唱を始める。ここは行かせるか!というようにタンクは前衛の前に出てはスキル挑発を使った。

それに反応するかのように魔獣はタンクに目を向け弓で矢を放った。盾を構え守りの体制に入る。その間ケイド達攻撃前衛は魔獣に近づく。

魔獣は前衛が近づいてくることに気づき直ぐに狙いを変えるため1度中断し空高くジャンプし弓引く。だが、ケイド達もそうはさせまいと高くジャンプした。

またも魔獣は撃つのを中断し向かってくる前衛に前足と後ろ足の蹴りを入れる。前衛はそれをモロにくらい下に落ちていった。

それでも尚立ち向かってくる前衛、ケイド達に対応出来ずに攻撃をくらった。クルクルと下に落ちながら舞う。地面にドンッと叩き付けられた感覚に陥りながらガヂャガヂャと音を立てながら立つ。

だが、そんなもんで彼らの反撃は終わらない。

空中でケイドは後衛の魔法使いに一言叫びなら言った。

「今だ!」

「闇の精霊よ我に答え、今ここに力を持って飲み込み、全てを引きずり閉じ込めよ!暗黒重海(あんこくじゅうかい)!」

その瞬間大きな紫の魔法陣が出てくると同時に黒い渦が地面の表面に現れた。すると、魔獣はズルズルと引き込まれるように黒い渦の中心に近づいていく。

このままいけ!と言うようにその場で冒険者は立ち止まり心からの懇願だった。ズルズルと引き込まれていく魔獣だが、当然抵抗しゆっくりと歩く。

だが、重力の方が強いのか少しづつ中心に近づいていく。足が黒い渦に嵌り魔獣は抜け出せなくなった。抜こうとするが足はその黒い渦に捕まり動けなくなっている。

あともう一押し!そう思いながら魔力を集中的に込めるが・・・・・・。

「あっ!」

・・・・・・そこまでだった。

後衛の子が魔力を切らしてしまい魔法はそこで終わってしまった。黒い渦は止まりやがて地面に染み込んでいくかのように消えていった。その様子を見て、くっ!と後衛の子は膝を着き苦しい声を上げる。

その姿を見て仲間は後衛の子に近づき大丈夫かと肩を貸す。仲間がいてくれて少し安心したがケイドは魔獣に目を向ける。

驚愕した。

魔獣は重力の壁が無くなるとゆっくりと前を向いた。そして手に持っていた弓をポイッと捨てた。カランカランと音が鳴る中魔獣は背中に装備してある黒い大剣に手をかけた。

引き抜かれる剣に一同は驚愕、今まで本気じゃなかったのかよ!と悲鳴と同時に思っていた。だが、今本気ということは魔獣はそれ以上に強いということ。

大剣を手に持ち盾構えた魔獣。まさにそれは歴戦の戦いを何度も生き抜いてきた猛者にも見えた。そんなプレッシャーを放ちながら魔獣は1度大剣を縦にブォンと降った。

たった一振だが、その一振の衝撃波はみんなに伝わっておりこれが本気だと思い知る。

そして彼らは思い知るこれが本当の門番なのだと。

そこからはただの蹂躙だった。魔獣は剣を構えた瞬間姿が消えた。高速移動というやつだ。今まで使ってこなかったので使ったことにびっくりしていた。そして姿を現したのは1つのパーティー部隊。

気づいた時には既に遅く魔獣の大剣によって振り払われておりパーティー部隊の多くの人が吹き飛んだ。そして魔獣の下には滴る血。大剣に大量の血を浴びておりそれを見た魔獣は剣を振り滴る血を振り払った。

一瞬の出来事によりリーダーのケイドさえ言葉を失いただただ突っ立ていた。誰も言葉を発さずまるでそうなる運命かのように吹き飛んではやられていく。

それから気づけばケイドを含め数人しか立っていなかった。もはや、体は自由に動かすことも出来ず視線だけは魔獣に向かう。

その魔獣もケイドが見ていたことに気づいたのか体をケイドに向けて1歩また1歩と近づいていく。その様子にケイドは何も感じず、ただ生きたいと本能が懇願するだけ。

何もできぬまま朽ち果てると最後の覚悟を決め魔獣の攻撃を受けようと体をダランとさせた。魔獣は持っている大剣を振り上げる。ケイドの首を刈り取るためにその大剣は振るわれた。

だが、その大剣は彼の首を飛ばさなかった。否飛ばせなかったと言った方がしっくり来るというもの。

何が起こったのか前を見ると自分の前に空色で六角形の板が彼を守った。

何かあったのかと後ろにある扉を見る。そしてケイドは驚愕する。そこにはなんと少年少女の冒険者2人が自分を守ってくれたのだから。

そんなケイドの感動の中1人の少年が一言呟く。

「なんだこれ、めんどくせぇ」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み