第9話 ゴリ押し、成功?
文字数 1,858文字
「僕も生まれは、都会 の方で」
すっかり柔らかになった館長のその表情から聞かせてもらえた話は、そんな語り出しから始まった。
「まあ僕の場合は母方の田舎がこの土地で。親戚の家があったからね。そこに下宿させてもらうことができたんだ」
幼い頃に見たこの土地の星空が忘れられなかった館長は、高校進学を機にこの土地へ移住したそうだ。
高校在学中にこの天文館の前館長と仲良くなって大学卒業後に就職、前館長の引退を機に館長の職を引き継いでもう十年以上になるんだって。
湊斗くんは目を丸くして館長の話に聞き入った。すげえ、この人ヤバい。え、これ運命じゃん。それ以外ないっしょこんなん、たぶんそう思ってるね。うん。
だけど館長は彼の希望には否定的だった。
「僕の場合は前館長が引退したこともあってここで働き続けることになったわけだけど……キミは、まあそう急いで将来決めなくてもいいんじゃないの? 進学して天体についてもっと深く学べばやりたいことももっと明確になる。わざわざこんな田舎に留まる必要はないよ」
「……」
そうだね。ザッツライト。常識的にはその通りだし、納得もできる。『ぐうの音も出ない』って言葉、こういう時に使うんだ。覚えといて。
「それにまず、ご両親はこのこと知ってるの? 悪いけど家出少年かくまうのはごめんだよ」
館長が言うと「ああそれなら大丈夫です」と湊斗少年は即座に答える。
「基本無干渉なんで。中学出たら自立するって言ってあるし、親もそれを望んでます」
実際は中学出ても未成年なんだけどねぇ。あのお父っつぁんはやたらキビしすぎんだ。育児放棄だろ、とも思うけどね。
「高校出なきゃ雇ってもらえないんなら高校行きます。この近くにありますよね? そこに行きます」
うん、湊斗少年。館長の話を聞いてすっかりその気になっちゃったわけだ。これは館長困ったね。
「い……いやいや、あそこ公立だし、県外からは受けれないよ。下宿ったって、この土地にはアパートなんてないし、そういうの受け入れてる家も……」
いやいや館長さん。お気づきでない? 湊斗くんはもうとっくに腹を決めてますよ。ほら。
「給料は要りません! ここの仕事も家のこともお手伝いするんで……その、面倒みてもらえませんか!? 館長の家でっ!」
「はあ!?」
さすがに顔に書くだけじゃ済まずその口から大きな声が発された。はは、そりゃそうだ。湊斗くん自身もかなり無茶なことを言っている自覚はあるみたいよ。そもそも約束 もなくいきなり来て、初対面で頼んでるわけなんだから。住ませてくれ、なんて。ありえないっしょ、このガキほんと。
「だって、ご自身もそうやって高校行ってたって言いましたよね!? だったら僕もそうしたいです! お願いします! ほかに頼れる人なんていないし!」
ぶは! たしかに「人に頼れ」とは言ったけどさぁ。
「ちょちょ、いや、冷静に、もっとよく考えて。なにもこんな田舎の高校じゃなくても、地元でいいでしょ、自宅から通えるところで」
「いや。ここがいいんです。ここで生活したいんですよ、満天の星空の下で! わかるでしょ!? あなたなら! ……とにかく! 夏休みの間はここにいるつもりです。泊まるとこないならこの長椅子で寝させてもらいます。夏だし! 凍死の心配もないし!」
もうヤケだね。ヤケクソ。言っとくけど天文館に住むとか出来るわけないからね?
「い、いやいや困るよ」
「いいよ! うちにおいでよ! 『彦星 』くんっ」
「え……」
おっとこれは驚いた。声に振り向いた瞬間、弾けるキラキラオーラに女神かと見紛う。けどちがうんだ。まあ限りなくそれに近い存在ではあるようだけどね。少なくとも、湊斗くんにとっては。
「み、美織 !?」
ここまでまだ冷静だった館長が声を裏返らせた。
「かわいいじゃない? なんかほんと、昔の星 くんそっくりなんだもん。星にアツくて、鬱陶しいくらいで……あっははは、いいよいいよ、うち住みなよ! 部屋も空いてるし、ちょっとボロいけど、充分暮らせるよ!」
「ちょ……なに勝手に」
「星 くんこそなに? 意地悪しないでよね? 『昔してもらって助かったことやありがたかったことは今度は誰かにしてあげなさい』って、習わなかった?」
彼女こそこの天文館で……いや、この土地で最強と謳われる女性に他ならない! って感じかな?
「……あの」
やっと口を出せる間があったとばかりに湊斗少年がそう声を発した。この方は……? と訊ねると、館長は「ああごめん」と少し照れつつ咳払いをした。
「……奥さん。うちの」
すっかり柔らかになった館長のその表情から聞かせてもらえた話は、そんな語り出しから始まった。
「まあ僕の場合は母方の田舎がこの土地で。親戚の家があったからね。そこに下宿させてもらうことができたんだ」
幼い頃に見たこの土地の星空が忘れられなかった館長は、高校進学を機にこの土地へ移住したそうだ。
高校在学中にこの天文館の前館長と仲良くなって大学卒業後に就職、前館長の引退を機に館長の職を引き継いでもう十年以上になるんだって。
湊斗くんは目を丸くして館長の話に聞き入った。すげえ、この人ヤバい。え、これ運命じゃん。それ以外ないっしょこんなん、たぶんそう思ってるね。うん。
だけど館長は彼の希望には否定的だった。
「僕の場合は前館長が引退したこともあってここで働き続けることになったわけだけど……キミは、まあそう急いで将来決めなくてもいいんじゃないの? 進学して天体についてもっと深く学べばやりたいことももっと明確になる。わざわざこんな田舎に留まる必要はないよ」
「……」
そうだね。ザッツライト。常識的にはその通りだし、納得もできる。『ぐうの音も出ない』って言葉、こういう時に使うんだ。覚えといて。
「それにまず、ご両親はこのこと知ってるの? 悪いけど家出少年かくまうのはごめんだよ」
館長が言うと「ああそれなら大丈夫です」と湊斗少年は即座に答える。
「基本無干渉なんで。中学出たら自立するって言ってあるし、親もそれを望んでます」
実際は中学出ても未成年なんだけどねぇ。あのお父っつぁんはやたらキビしすぎんだ。育児放棄だろ、とも思うけどね。
「高校出なきゃ雇ってもらえないんなら高校行きます。この近くにありますよね? そこに行きます」
うん、湊斗少年。館長の話を聞いてすっかりその気になっちゃったわけだ。これは館長困ったね。
「い……いやいや、あそこ公立だし、県外からは受けれないよ。下宿ったって、この土地にはアパートなんてないし、そういうの受け入れてる家も……」
いやいや館長さん。お気づきでない? 湊斗くんはもうとっくに腹を決めてますよ。ほら。
「給料は要りません! ここの仕事も家のこともお手伝いするんで……その、面倒みてもらえませんか!? 館長の家でっ!」
「はあ!?」
さすがに顔に書くだけじゃ済まずその口から大きな声が発された。はは、そりゃそうだ。湊斗くん自身もかなり無茶なことを言っている自覚はあるみたいよ。そもそも
「だって、ご自身もそうやって高校行ってたって言いましたよね!? だったら僕もそうしたいです! お願いします! ほかに頼れる人なんていないし!」
ぶは! たしかに「人に頼れ」とは言ったけどさぁ。
「ちょちょ、いや、冷静に、もっとよく考えて。なにもこんな田舎の高校じゃなくても、地元でいいでしょ、自宅から通えるところで」
「いや。ここがいいんです。ここで生活したいんですよ、満天の星空の下で! わかるでしょ!? あなたなら! ……とにかく! 夏休みの間はここにいるつもりです。泊まるとこないならこの長椅子で寝させてもらいます。夏だし! 凍死の心配もないし!」
もうヤケだね。ヤケクソ。言っとくけど天文館に住むとか出来るわけないからね?
「い、いやいや困るよ」
「いいよ! うちにおいでよ! 『
「え……」
おっとこれは驚いた。声に振り向いた瞬間、弾けるキラキラオーラに女神かと見紛う。けどちがうんだ。まあ限りなくそれに近い存在ではあるようだけどね。少なくとも、湊斗くんにとっては。
「み、
ここまでまだ冷静だった館長が声を裏返らせた。
「かわいいじゃない? なんかほんと、昔の
「ちょ……なに勝手に」
「
彼女こそこの天文館で……いや、この土地で最強と謳われる女性に他ならない! って感じかな?
「……あの」
やっと口を出せる間があったとばかりに湊斗少年がそう声を発した。この方は……? と訊ねると、館長は「ああごめん」と少し照れつつ咳払いをした。
「……奥さん。うちの」