第2話 神、悲しい

文字数 899文字

 湊斗くんの家は街角の小さな一軒家。夜も更けるというのに家に明かりはない。だれもいないらしい。湊斗くん、慣れた手つきで玄関扉を解錠して中に入るとそのまま階段、自室へGO! 明かりも点けずにベッドに突っ伏した。

《おーい。湊斗くーん》
「……」

《おーい。聞こえてんでしょ?》
「……」

《あのー。無視しないでもらえません?》
「……」

《あのー……》
「……」

 もうね、悲しい。神、悲しい。こんなに華麗に無視(スルー)されることなんか、そうそうないもん!

 それでも俺はめげない。

《あ、ならほら、これでどうだ? 見えるだろ、な! 俺のこのスーパービューティホーボディーが》

「……」

《こんな顔なんかもできるぞ。ほら》
「……」

《ほんじゃこれでどーだっ!》
「……」

《じゃこんな顔!》
《こんな顔!》
《こんな顔は!》

 ぜえ、はあ……。
 俺はなにをやらされてんだ、神なのに。

《……おい湊斗くん、なぜ無視をする?》

 その顔を近距離で覗き込みながら問うと、少年は「はぁ」とひとつため息をついて、そして、

 頭まで布団にもぐった。……っておい!

 マジで聞く耳ないじゃん! なんなん!?

《おい湊斗くん、湊斗くん? 湊斗くーーーんっ!》

 こ……これは前途多難だ。
 ま、まあいい。まだ時間はある。

 とにかくまずは夜空を見上げてもらいたいんだ。それでスッキリお悩み解決☆ とはいかないにしてもそれが湊斗くんにとって『未来』への大きな第一歩にはなる。

 ……だからさあ。

《湊斗くん、夜空を見るんだ》
《な。夜空。どうだ、ほら夜空を》
《今夜は星が綺麗だなあ! な、湊斗くん》
《湊斗くーん。オネガイシマス……》

 く。こうなれば奥の手だ。ちと強引だが致し方ない。

 ベッドで眠るふわふわの頭に、そうっとこの手をかざす。

 そうして、こんな『夢』を見せた。


 まるで降るような満天の星。
 輝き、瞬き、流れる。
 星団、星雲、そして数々の星座。
 白、青、赤、橙、紫
 吸い込まれそうな、宇宙。

 澄んだ空気。
 草の匂い。土の匂い。

 夜の虫たちの声。
 生き物の気配。

 魂が目覚める。
 そこは、一体どこなのか。


 ……さて。これで朝にどんな反応を示すか、だ。まったく世話の焼ける子だよ。

 

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