第1話 伝令、失敗?
文字数 1,739文字
ハイみなさん、こんにちは。
俺は伝令の神【ヘルメス】。
神話に登場する有名な神様だ。
あ、ちょい待ち。
今、神話とか興味ないわーって読むのよそうとした人。いるだろ、ほら、アンタだ、アンタ。
あのね、言っときますけど俺が神だからってこの話はその辺によくある教訓めいたおとぎ話とはちがう。この世界はファンタジーじゃなくて現実だ。泉に斧を落としても女神は出てこないし、王様の耳はロバじゃない。だからページはそのままで。
ま、たしかに俺は羽の靴でふわふわ飛んでるし?身体 はちょっと透けてて、後光がさしててだな。いかにも神らしく顔の彫りは深く髪は美しい金褐色。神の髪……なんつって。
ああ、待って待って。今のナシ。ナシだから落ち着いて話をしよう!
とにかく見てくれよ。そこ。
ほら。そこのガキんちょ。
夜の廃墟の屋上にポツンといるでしょ。
ちょうどアンタらくらいかちょい上の歳みたいだよ。
そう。ここは現代。アンタらのよく知る『日本』っつー国の、『東京』ってところだ。
時刻はまもなく夜の9時。こんな時間にガキんちょがひとりで、なーにをしてるんだか。あまりいい行いとはいえないよな?
ガキんちょは小柄で色白。ふんわりした髪、細い腕。可憐な女の子みたいだけど男だ。
真冬の冷えきった風を浴びながら、ゆーっくりと柵まで進むと、震えながらそれをなんとかして乗り越えて、と……ありゃりゃ、危ねーぞー。こりゃ結構ヤバいね。いやぁ、彼ね、ずいぶん深い悩みを抱えちゃってるのよ。かわいそうに。
そのまま真冬の闇に一歩踏み出しちまうのか?
哀れな子ヤギくんよ。
あ。そこのアンタ、今度は俺のこと「なるほど死神みたいなもんか」って思ったろ? ちげーわ全然ちげー。
いいか? 俺はね、『伝令の神』。つまりなにかを伝えに来てるんだよ。
その「なにか」とはズバリ。
アンタらの将来だ。
心当たりあるんじゃない? ある日突然、猛烈になにかに憧れたりさ、ビビビ〜って、運命感じちゃったりすること。
それ、ぜーんぶ俺の仕業ってわけ。俺がこっそり伝えてんの。キミたちの目指すべき『将来』をね。
もちろん全員にってわけじゃない。選ばれし者にだけ、それは訪れるもんなのよ。ほら、よく『神に選ばれし』とかって言うだろ? まさにそれよ。
んで今回はその『伝令』を、そこの少年にする、というのが俺の使命なのね。
ま、見ててよ。これからその瞬間をばーっちりお見せするから。
ハイ。まずはターゲットの少年の頭上に浮遊する。そんで脳に直接語りかける。そんなことできんのかって? できるんすわ、神だからね。
《下ばかり見るな》
ぶは! 口調が神っぽいって? まあその方が効くかなって。
《空を見てみなさい》
そうして少年から少し離れる。どうだ? 空。見てみろよ。こんな都会でも少しくらいは見えるでしょうに。輝くその光の粒が。
今夜は快晴なんだ。な、冬の夜空。美しいだろ? 黒い空に瞬く無数の星々。宇宙はな、デカくて広いのよ。自分がどれだけちっぽけな存在か、その悩みがどれほど小さなものか、そう思いはしないか?
《な?》
「……」
《な!》
「……」
《な! ……おーーーい》
「……う」
《……う?》
「う……わああああああああぁぁぁっ!!」
《ひぇあ、ちょ、し、しーっ!》
あまりの反応にこっちもかなり驚いた。これじゃまるで幽霊じゃねーか!
《落ち着け少年、俺は幽霊じゃない》
「ひ、ひぃ、ひ」
《俺は伝令の》
「うわああああああああぁぁぁ!」
《伝令のかみ「うわああああああああぁぁぁ」
《お、おーい、待て少年。逃げるな!? えっと名前はたしか、「二ノ宮 湊斗 」くん! おーい、湊斗くーん!》
すっかり、見えなくなっちまったね。ああ、ええとだな。これは失敗……っつーわねじゃないのよ? ま、こんなこともたまにはあるわ。
にしても参ったな。俺のプランではここですっかり打ち解けて彼にしっかり未来を伝えて朝までゆっくり天体観測しながらお悩み解決☆ てなはずだったのに。
いやぁ。人生ってのはうまくいかないもんだ。はぁ。
それでもこのまま引き下がるわけにはいかない。なぜなら俺には『伝令』というスペシャルでグレイトな使命があるからだ! 自宅でもどこでも付いていってやる。
俺は伝令の神【ヘルメス】。
神話に登場する有名な神様だ。
あ、ちょい待ち。
今、神話とか興味ないわーって読むのよそうとした人。いるだろ、ほら、アンタだ、アンタ。
あのね、言っときますけど俺が神だからってこの話はその辺によくある教訓めいたおとぎ話とはちがう。この世界はファンタジーじゃなくて現実だ。泉に斧を落としても女神は出てこないし、王様の耳はロバじゃない。だからページはそのままで。
ま、たしかに俺は羽の靴でふわふわ飛んでるし?
ああ、待って待って。今のナシ。ナシだから落ち着いて話をしよう!
とにかく見てくれよ。そこ。
ほら。そこのガキんちょ。
夜の廃墟の屋上にポツンといるでしょ。
ちょうどアンタらくらいかちょい上の歳みたいだよ。
そう。ここは現代。アンタらのよく知る『日本』っつー国の、『東京』ってところだ。
時刻はまもなく夜の9時。こんな時間にガキんちょがひとりで、なーにをしてるんだか。あまりいい行いとはいえないよな?
ガキんちょは小柄で色白。ふんわりした髪、細い腕。可憐な女の子みたいだけど男だ。
真冬の冷えきった風を浴びながら、ゆーっくりと柵まで進むと、震えながらそれをなんとかして乗り越えて、と……ありゃりゃ、危ねーぞー。こりゃ結構ヤバいね。いやぁ、彼ね、ずいぶん深い悩みを抱えちゃってるのよ。かわいそうに。
そのまま真冬の闇に一歩踏み出しちまうのか?
哀れな子ヤギくんよ。
あ。そこのアンタ、今度は俺のこと「なるほど死神みたいなもんか」って思ったろ? ちげーわ全然ちげー。
いいか? 俺はね、『伝令の神』。つまりなにかを伝えに来てるんだよ。
その「なにか」とはズバリ。
アンタらの将来だ。
心当たりあるんじゃない? ある日突然、猛烈になにかに憧れたりさ、ビビビ〜って、運命感じちゃったりすること。
それ、ぜーんぶ俺の仕業ってわけ。俺がこっそり伝えてんの。キミたちの目指すべき『将来』をね。
もちろん全員にってわけじゃない。選ばれし者にだけ、それは訪れるもんなのよ。ほら、よく『神に選ばれし』とかって言うだろ? まさにそれよ。
んで今回はその『伝令』を、そこの少年にする、というのが俺の使命なのね。
ま、見ててよ。これからその瞬間をばーっちりお見せするから。
ハイ。まずはターゲットの少年の頭上に浮遊する。そんで脳に直接語りかける。そんなことできんのかって? できるんすわ、神だからね。
《下ばかり見るな》
ぶは! 口調が神っぽいって? まあその方が効くかなって。
《空を見てみなさい》
そうして少年から少し離れる。どうだ? 空。見てみろよ。こんな都会でも少しくらいは見えるでしょうに。輝くその光の粒が。
今夜は快晴なんだ。な、冬の夜空。美しいだろ? 黒い空に瞬く無数の星々。宇宙はな、デカくて広いのよ。自分がどれだけちっぽけな存在か、その悩みがどれほど小さなものか、そう思いはしないか?
《な?》
「……」
《な!》
「……」
《な! ……おーーーい》
「……う」
《……う?》
「う……わああああああああぁぁぁっ!!」
《ひぇあ、ちょ、し、しーっ!》
あまりの反応にこっちもかなり驚いた。これじゃまるで幽霊じゃねーか!
《落ち着け少年、俺は幽霊じゃない》
「ひ、ひぃ、ひ」
《俺は伝令の》
「うわああああああああぁぁぁ!」
《伝令のかみ「うわああああああああぁぁぁ」
《お、おーい、待て少年。逃げるな!? えっと名前はたしか、「
すっかり、見えなくなっちまったね。ああ、ええとだな。これは失敗……っつーわねじゃないのよ? ま、こんなこともたまにはあるわ。
にしても参ったな。俺のプランではここですっかり打ち解けて彼にしっかり未来を伝えて朝までゆっくり天体観測しながらお悩み解決☆ てなはずだったのに。
いやぁ。人生ってのはうまくいかないもんだ。はぁ。
それでもこのまま引き下がるわけにはいかない。なぜなら俺には『伝令』というスペシャルでグレイトな使命があるからだ! 自宅でもどこでも付いていってやる。