第3話 素性を明かすが

文字数 1,526文字

 暇だし彼について少し予習をしておこう。

 ふむふむ。資料によると湊斗くんの両親は彼が小学三年の時に離婚してんだね。んでそっからが地獄の父子家庭生活のはじまりってわけ。

 彼の唯一の家族のお父っつぁん、そこの色白で細ーくてちっさキャワユイ湊斗キュン……とは似ても似つかない強面のゴリラみたいな男でね。

(おとこ)は筋肉!』をスローガンにして生きているような脳まで筋肉スペシャルマッチョマン! なんだな、これが。

 どんな理由で奥さんに逃げられたのかは置いておくとして、とにかくそんなゴリラマンがこのヒョロく可憐な湊斗くんと合うはずもなく。

 ──ヒョロっヒョロで気持ち悪りぃ。
 ──弱ぇ。女みてぇだな。

 そう。親子だからってみんながみんな仲良しこよし♡ なんてわけないもんな?

 そうやってお父っつぁんに煙たがられ続けて、見た目を侮辱され続けて、それでもこの家しか湊斗くんの帰る場所はないから。なんとか踏ん張って、頑張って今日まで耐えてきたんだよ。

 そんな中で返された百点満点のテスト。クラスでひとりきりの最高得点を叩き出したんだよな? すげーよ。俺は生まれてこの方そんなんとったことないもん。それで湊斗くんは今度こそお父っつぁんに「すげえな」と言わせられるかもしれない。言わせたい。そう思ったんだ。つまり褒められたい、っつーその一心だったんだ。

 なのに。

 ──はあ? なんだこれ? おまえね、言っとくけどこんなんとってもなんの価値もないぜ。つーか湊斗、まさかおまえカンニングとかしてねーだろーな?

 目の前でビリ、と破り捨てられた。
 ああ、これには湊斗少年、もう限界だったね。

 それであの屋上に来ていたんだ。


 ……と、この天界資料に書いてある。

 今宵、夢で星空を見てなにを思ったか。未来に希望を見出すことは、できたか?


 朝、目を覚ました彼は少しの間ぼうっとしていて、やがて観念したように

を見た。

「……どうしたら成仏してくれますか?」

 だから幽霊じゃないっつってんでしょーがっ!

 こうして俺はようやく素性を明かすことができたってわけだ。時間かかりすぎだろ、マジで。

「神……?」
《そうだよ》

「なんですかそれ」
《伝令の神だ》

「でんれい……はあ」
《うん。では改めてキミに伝令を》
「信じません」

 え。

 え? へ? なに!?

「神様とか俺、信じないんで。だからこれも全部ストレスから来る幻覚幻聴ってことにします。じゃ」

 う……ええっ!?
 うそうそ、うそでしょ!?

《ちょ……湊斗くん!?
「……」

 うあーお。

 え、なに。待て。待てよ? つまりはなに、湊斗くん、俺のことこの先も全力で無視してくれちゃうってこと? え、なに? なんで? ひどくない? え、うそでしょ?

 いやいや、だってさ。俺たち、今完全に会話したよね? 存在認めてくれてたよね? なのにここからまた無視するってこと? 信じたくないからって? いやいやいやいや!

 少しの間絶句してから、再び湊斗くんに向き直った。

《湊斗くん……?》
「……」

 やはり返事はない。なんなんだよ、思春期男子かよ。

《いや、聞こえてんでしょ?》
「……」

 うーわ。うーわ。
 さすがにメンタルやられるわ。いくら神だってさ、こんなのさすがにツラいって。マジなんなん。

《う……わかった。いいぜ? そっちがその気ならこっちもそれなりの対応をさせてもらうよ。いいか? いいんだな? 俺はこれからもずっとこうしてうるさくアンタに付きまとうよ。んでちゃんと聞いてもらえる形で『伝令』をさせてもらう。なぜってそれが俺の使命だからだ。とにかくね、俺はしっかりと伝令を果たすまでアンタのそばに存在し続けるからな!》

 こらそこ。どっちがガキか、とか言うな。聞こえてんぞ。

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