第14話 幽霊さん、ですか?

文字数 993文字

《って、え? 俺と? なんで?》

「や……わかんないですけど、その、見えてます。最初からずっと」

 うわぁお! 会話ができちまった! なんでだ!? 標的(ターゲット)以外とは交流できないはずなのに!

「あの……その。幽霊さん……ですか?」
《や……ちが。……んん。げほごほ。えっと》

 あまりに慌てて取り乱した。参ったね。幽霊なんかと間違われてたまるかっての。

《俺はね》
「あ……びっくりした」
《うわっと! なんだよこのタイミングかよ、邪魔しないでよ彦星くんっ》

「なゆうさん……ですよね。えと、すみません、突然押しかけて。あの、よろしくお願いします」

 何事もなくなゆうちゃんにぺこりとお辞儀をする彦星くん。コイツはマジで俺が見えてないんじゃないか、とたまに思う。

「あ、うん。えと……その人は」
「へ、『その人』……?」

 う……。まずい沈黙が流れた。

《いやいや、なゆうちゃん。聞いてくれ。俺は幽霊なんかじゃなくてだな》
「風呂空いたって連絡ですかね。じゃあ遠慮なくお借りします」

「ああうん。……どうぞ」

 なゆうちゃんは不思議そうに彦星くんの背中を見送って、それからまた俺を見た。

《あ、えと、あのね》

 会話を試みようとしたものの、なゆうちゃんは困ったように微笑んで逃げるようにその場を離れてしまった。ヘイ、ガール! 待ってくれよ!

 追おうかと迷ったがこれ以上刺激するとあの日の湊斗くんのようにまた悲鳴をあげられかねん、と自粛した。

 それからなゆうちゃんとは話せていない。というかこれは。

「あ……」
「あ! わ! ごめん!」

 彦星くん、すっかり避けられちゃってるね!?

 く……。これでは俺が幽霊じゃないことも主張できないじゃないか! せっかく今回初めてちゃんと認識してくれる人と出会えたのに!

 でもまあ、なゆうちゃんの気持ちもわかるよ。突然実家に来たわけのわからない男の子が、しかも幽霊憑きだなんて。真夏にマジさむいよね。いやほんと。冗談にもならん。そりゃ避けるわ。

 その上どうやら自分にしかその姿が見えていないっぽい、と。彦星のヤローが変にとぼけたりするからだぞ。まったく。

《おーい彦星くん。さすがにそろそろ俺の存在を認めたらどーなの?》

 なゆうちゃんにも見えたわけだし。

 しかし変わらず返事はないし目線もくれない。まったく、意地っ張りくんなんだから。


 それはさておき彦星くんは天文館での新生活に期待し胸を膨らませていた。

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