第11話 館長はどこ

文字数 913文字

 彦星くん、親戚というものを知らないで育ったようだけど、いきなりこんなの大丈夫かな?

 はじめは安田さんとがんさんだけだった来客も、「なゆうちゃんの顔見に来たでー」といつの間にか増えに増えていき……。

「おやまぁ。どちらさん?」
 毎度訊ねられるこの質問には、がんさんと安田さんがすかさず答えてくれて彦星くんは会釈するだけで済んだ。はは、助かったね。

「どこから来たのってー?」
「これ食べてみなせえ、都会ちたらこんに野菜、なかろう?」
「あほ、今どき野菜なん都会でもどこでも買えるわ」
「買えたかてちゃうわよ鮮度が全然。ねえ?」
「ほやほや。うーまいでー。腰抜かすぞ」
「そそ。美織ちゃんの料理いうたら世界一やもんなあ」

 宴はいつの間にかこんな大宴会に発展していた。もちろん彦星くんはこんな経験初めて。四方八方から繰り出される会話の嵐になんとか答えながら、勧められるままに料理を口に運んだ。まるで〈世界◯◯(ナントカ)滞在記〉だなこりゃ。知らないって? 近くのおとなに聞いてみて。

 慣れない人の温かさに感動しつつも、こんなにいろんな人と一度に話をした経験がなくて、それから朝からの大移動もあって彦星くんはすぐに疲れてしまったらしい。あらら。

《それにしてもあの落ち着いた館長の雰囲気からはこんな賑やかな環境にいるなんて全然想像できなかったなぁ》

 俺がそうつぶやくと……ようやく気がついたみたいだよ。

 館長がこの座敷にいないことに。

「食べてる? 彦星くん。これ美味しいでしょ。おかわりあるよ!」

 その時ちょうど美織さんが話しかけてくれたから彦星くんは訊ねた。

「あの……館長、どこですか?」

「ああ星くん? たぶん……玄関か、裏じゃないかな。そろそろ暗くなってきたから」

 オウ、イエス! 天体観測!

「ぼ、僕も行ってきます!」

 勢いよく立ち上がるから「うわあ」と美織さんを驚かせてしまった。けど彼女はすぐににっこり笑って「ああ彦星くん」と呼び止める。

「……これ。持ってってあげて。二人で食べてね」

 渡された茶色の紙袋、中を覗くとたい焼きが二匹入っていた。

 冷めちゃったけど、夏だしいいよね? とよくわからないことを言うとその人は少女のように可愛く笑った。参ったね。

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