第12話 天体観測!

文字数 1,025文字

 急いで玄関に向かう。靴がいっぱいで自分のものを見つけるのに手間取ったようだけど、なんとか見つけ出して履きながら戸を開ける。その途端、彦星くんは固まった。

「うわ……」

 満天の星空が目に飛び込んできて思わず声が出たんだねぇ。これがこの土地の星空。それはまさに、宇宙。感動のあまり開けた戸を閉めることも、なんなら瞬きや呼吸すら忘れてしばらく見入っていた。いや、息はしたほうがいいぞ。おーい。

「彦星くん。彦星くん」

「え。……あ、は、はい!」

 まだ呼ばれ慣れていないからか反応が遅れたのかな。……いや、星に夢中で、だな。

 声の主は館長だった。玄関の戸のすぐ横に置かれたベンチに座りながら彦星くんを見ている。

「虫、入るからそこの戸閉めといてね」

 短くそれだけ言うとその人はベンチに深く座り直して再び星を見上げた。

「あ……あの館長、これ、美織さんから」

 彦星くんは持っていたたい焼きを袋のまま手渡した。館長は慣れた感じで「ああ。はいはい」と中身を取り出して彦星くんに一匹渡してくれる。

「冷めてても意外とうまいよ。遠慮なく」
「……あ、ども」

 ついでに「よかったら」と隣の席を勧めてもらって、「あ、はい……」と腰を下ろした。相変わらずお礼がちゃんと言えないんだなぁ。ったく。

 館長はなにも話さず、ただ星を眺め続けていた。彦星くんも倣って、無言で眺めた。おかげで余計な気をつかうこともなく、かなり充実した時間が過ごせたみたいよ。へへ、よかったな。

 こぼれんばかりの、夏の星空。ちょっとご紹介しましょうかね? 都会でもよく見えるのはデネブ、ベガ、アルタイル。明るいこれらの星を結ぶとできるのが【夏の大三角】。

 このうちのベガとアルタイルがいわゆる織姫さんと彦星さんね。そう、『彦星くん』の星だ。難しい呼び名では織女星(しょくじょせい)牽牛星(けんぎゅうせい)と呼ばれております。以後お見知り置きを。

 間にあるモヤモヤしたのが天の川。ミルキーウェイだな。ちなみに七夕である7月7日だとかそういう日付けはあまり関係ない。そもそもあれは旧暦っていって現代の7月7日じゃないんでね。

 南を見るとさそり座の赤いアンタレスが輝く。このサソリがオリオンを刺し殺したってのは有名な話だよな。

 その東隣にあるのはいて座。半人半馬のケンタウロス、賢者ケイロンの星座だ。

 さてさて彦星くん。満天の星空はどうだったかな?

 いつの間にか宴会がお開きになったらしくわらわらと賑やかな声が玄関でしだして夢のような時間は終わりを迎えた。

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