第16話 ウォーターメロン!
文字数 1,358文字
さて。天文館は毎日開館しているわけじゃない。当然『休館日』というものが週に一度はある。
休館日は用がない限りは彦星くんは天文館へ行かない約束となっていた。「中学生の本業は勉強だからね。宿題、持ってきてるでしょ? それにたまには天体以外のものに触れることも大事だよ」館長のもっともな意見に反抗する気はまったく起きないらしい。
とはいえ友達がひとりもいないこの土地で休日なんかもらっても、正直困るんじゃ……「彦星くーーーん?」
おや。美織さんの声だね?
慌てて部屋を出て階段を降りる彦星くん。台所かと思ったら玄関からだった。
「ね、彦星くん暇でしょ? ちょっと一緒に来てくれない?」
「え、はあ」
外に出ると途端に蝉の声が大きい。ギラ、と輝く太陽の光を浴びて、庭の向日葵も大輪の花を咲かせていた。時おり吹く風は案外澄んでいて、草や土の匂いがする。
「乗って?」と案内されたのは淡いピンクの軽自動車。美織さんの車みたいだ。
「スイカを取りに来てって言われててね」
「スイカ……」
「そう。好き? スイカ」
彦星くんにとってそれはスーパーの一角に並んだものというイメージだった。当然ながらあのお父っつぁんは買わない。
「や……食べたことないです、ほとんど」
彦星くんの答えに「ええー!」と驚く美織さん。存在はわかるよね? ウォーターメロン! となぜか英語で言う。はは。外国人相手みたいだな。
「じゃあもちろん畑も見たことないよね? びっくりすると思うよ?」
そんな会話をしつつ10分ほどで目的地に着いたらしい。
彦星くん、車から降りるなり「おお」と声が出た。そこは広大なスイカ畑だったからだ。
地を這うようにして力強く伸びる太いツル。濃い色の葉を何枚も付けて、陽の光をいっぱいに浴びて大きく、逞しく育っていた。そこに転がるようにして、大きな球の実がゴロン。あちらにも、あ、こちらにも、よく見るとゴロンゴロンとたくさんだった。
見とれる彦星くんを置いて美織さんはスタスタと脇にある小屋へ進んでいた。
「ごめんくださあーい!」
「おお美織ちゃん。よう来たよう来た」
にこにこと出迎えてくれたのは優しそうなお爺さん。軽く世間話をして、彦星くんを紹介した。
「星くんの弟子なの」
「ほほお」
館長がこの場にいないとこれを否定する人はいない。まあ間違いでもないしね?
「こんにちは」と言われて「こんにちは」とぎこちなく返す。
美織さんはお礼や挨拶をとても大事にする人なんだ。さすがは女神。「挨拶大事! おはよう!」毎朝笑顔でそう言われては、思春期男子だろうと彦星くんも挨拶を返さないわけにはいかない。
そして大きなスイカを五玉ももらった。
「いいんですか、こんなに」
彦星くんが驚いた様子で訊ねると、お爺さんは「ええんじゃええんじゃ」と笑った。
「美織ちゃんにはいつも世話んなっとるしの。こん前も犬の散歩まで代わりにしてもろて」
すると美織さん「そうだよ、ゴンザブロウ、元気?」と訊ねる。
「おお。良かったら会 おてってやってくれ」
笑顔で応える美織さん。どこに犬が? と思ったらそのまま車に乗り込んだ。「え、車で行くんですか?」
「そうだよー。ここは畑で、おうちはもっと南の方だから」
なるほど。畑と家が隣接している、と思い込んでいたよね。そういうわけでもないんだ。
休館日は用がない限りは彦星くんは天文館へ行かない約束となっていた。「中学生の本業は勉強だからね。宿題、持ってきてるでしょ? それにたまには天体以外のものに触れることも大事だよ」館長のもっともな意見に反抗する気はまったく起きないらしい。
とはいえ友達がひとりもいないこの土地で休日なんかもらっても、正直困るんじゃ……「彦星くーーーん?」
おや。美織さんの声だね?
慌てて部屋を出て階段を降りる彦星くん。台所かと思ったら玄関からだった。
「ね、彦星くん暇でしょ? ちょっと一緒に来てくれない?」
「え、はあ」
外に出ると途端に蝉の声が大きい。ギラ、と輝く太陽の光を浴びて、庭の向日葵も大輪の花を咲かせていた。時おり吹く風は案外澄んでいて、草や土の匂いがする。
「乗って?」と案内されたのは淡いピンクの軽自動車。美織さんの車みたいだ。
「スイカを取りに来てって言われててね」
「スイカ……」
「そう。好き? スイカ」
彦星くんにとってそれはスーパーの一角に並んだものというイメージだった。当然ながらあのお父っつぁんは買わない。
「や……食べたことないです、ほとんど」
彦星くんの答えに「ええー!」と驚く美織さん。存在はわかるよね? ウォーターメロン! となぜか英語で言う。はは。外国人相手みたいだな。
「じゃあもちろん畑も見たことないよね? びっくりすると思うよ?」
そんな会話をしつつ10分ほどで目的地に着いたらしい。
彦星くん、車から降りるなり「おお」と声が出た。そこは広大なスイカ畑だったからだ。
地を這うようにして力強く伸びる太いツル。濃い色の葉を何枚も付けて、陽の光をいっぱいに浴びて大きく、逞しく育っていた。そこに転がるようにして、大きな球の実がゴロン。あちらにも、あ、こちらにも、よく見るとゴロンゴロンとたくさんだった。
見とれる彦星くんを置いて美織さんはスタスタと脇にある小屋へ進んでいた。
「ごめんくださあーい!」
「おお美織ちゃん。よう来たよう来た」
にこにこと出迎えてくれたのは優しそうなお爺さん。軽く世間話をして、彦星くんを紹介した。
「星くんの弟子なの」
「ほほお」
館長がこの場にいないとこれを否定する人はいない。まあ間違いでもないしね?
「こんにちは」と言われて「こんにちは」とぎこちなく返す。
美織さんはお礼や挨拶をとても大事にする人なんだ。さすがは女神。「挨拶大事! おはよう!」毎朝笑顔でそう言われては、思春期男子だろうと彦星くんも挨拶を返さないわけにはいかない。
そして大きなスイカを五玉ももらった。
「いいんですか、こんなに」
彦星くんが驚いた様子で訊ねると、お爺さんは「ええんじゃええんじゃ」と笑った。
「美織ちゃんにはいつも世話んなっとるしの。こん前も犬の散歩まで代わりにしてもろて」
すると美織さん「そうだよ、ゴンザブロウ、元気?」と訊ねる。
「おお。良かったら
笑顔で応える美織さん。どこに犬が? と思ったらそのまま車に乗り込んだ。「え、車で行くんですか?」
「そうだよー。ここは畑で、おうちはもっと南の方だから」
なるほど。畑と家が隣接している、と思い込んでいたよね。そういうわけでもないんだ。