白昼夢に落ちたお姫様

文字数 1,733文字

    翌日、私は魔法を取得するため、ギルバードさんの指導を受けながら、アリストシア城の中庭で練習をしていた。アリストシア城の中庭は、綺麗な赤やピンクの薔薇が咲き誇り、とても良い香りがしている。

    しかし、私の手には枝が握られており、何も発動しない状態が続いていた。

大丈夫だよ。みんな、魔法を取得する前はそんな感じだから。心配する必要ないよ
魔法って難しい……。私には、音楽しかなかったから……
音楽かぁ。この国では、まだ発達していないから魔法として使えるか分からないけど、試してみる価値はあるかも……
このアリストシア公国には、音楽って無いんですか?
まだ音楽って概念が無いんだよ……
    ギルバードさんの「音楽の概念がない」と言う言葉に私は、ある決意が芽生える。
ギルバードさん……お願いがあるんですけど……
何か思いついたのかな?
私、この世界に音楽を広げます!!   音楽の概念を作ります!!    私には、「フルート」があるから!!
じゃあ、僕から1つお願いがあるんだ。これは、あなたにしか出来ないことだけど……。引き受けてくれるかな?
「あなた」じゃなくて私の事も名前で呼んで下さい。私は、支倉詩乃と言います。詩乃、って呼んで下さい
ごめんね。じゃあ、詩乃。改めてお願いがあります。
ギルバードさんのお願いって何ですか?
僕の姉さんの事を助けて欲しいんです
    私は、この時気がついた。この世界は、私の世界にあった音楽の概念が無くて、魔法や呪いの概念があることに……。
    アリストシア城の中は、思った以上に広かった。中庭を囲むかのように建つ広い本館と裏手に建つ別館があった。私は、その別館に住まわせてもらっていることを昨日知った。

    本館の階段を登り、私はギルバードさんに案内され、1つの扉の前に立ち止まった。

ここが姉さんの部屋です
ギルバードさん、あなたのお姉さんの名前を教えてほしいです
ナタリー姉さんは、身体が弱い方でほとんどお部屋で過ごされているのです
ナタリーさんは、今は話せたりするの?
今は、無理かな?    原因不明の病で眠り続けているんだ……。僕の魔法でも姉さんを助けることが出来ない……。最近、流行りの病だと医者は言っていたんだけど……
最近流行りの病?
デイドリーム・シンドローム……、と医者は言っていたんだけど……。何かの刺激があれば意識が戻るみたいだけど、僕には分からないんです。だから、詩乃にお願いしようかと思ったんです
    ギルバードさんが部屋の扉を薄く開けると、凄く良い香りのアロマのにおいがした。その部屋の薄いカーテンがかかったベッドの先には、誰かが眠っているのが分かる。

    見られたのはそこまでで、ギルバードさんは部屋の扉を閉めた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
    私は、再びギルバードさんに手を引かれ、最初にいた中庭に戻ってきていた。薔薇の香りが辺りに漂い、風に吹かれきらきらが広がっていく。
この薔薇も魔法で咲いているのですか?
あぁ……この薔薇は、『マジカル・ローズ』という薔薇の品種なんです。王家や貴族にしか買えない高級品種ですよ
そっか……。だから、あの日あなたから薔薇の香りがしたんだ
嫌でしたか?
あのいきなりの行為には驚きましたが、においは好きです
男性にそういうこと言わない方が良いですよ?    男はみんな狼ですから。本気になっちゃう人もいるんですから
    えっ、どういうこと?

    私は、自分の言ったことを訂正する為にあたふたする。

えっ、ダメなんですか?    あ……あの……私は決して、ギルバードさんの事、好きとまでは言ってないですよ?!
そんな事、知ってますよ。僕たち、まだ出会ったばかりだし、お互いのことよく知らないし……
そうですよね。お互いを知らないから誤解も生まれるんです。私は、音楽の力にも魔法があると思うんです。だから、私の音楽でこの世界の人を助けたいんです
そうだね。僕が弱気になってちゃ何も始まらない……。だから、僕も頑張らなきゃ!!
    この日から私の長い戦いが始まる。私は、この長い戦いがどれだけ凄まじいものなのかこの時理解していなかった。

    世界は、長い長い夢を見始める事になる。

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登場人物紹介

支倉 詩乃

    20歳のピチピチの音大生。フルートを専攻しており、世界のコンクールで入賞するなどの快挙を見せる新星のフルート奏者。

    ある日の大学からの帰り道、神の悪戯による災害により異世界に飛ばされることになる。音楽しか出来ない詩乃は、異世界で生き残ることが出来るのか。

ギルバード・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第2王子。24歳。詩乃が異世界に飛ばされて初めて出会う男性。←(しかもベッド上で……)王様や女王様から相手にされない日々を送ってきており、内緒で魔法使いになった青年。兄のジルベルトとは仲が良いみたいで……

ジルベルト・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第1王子。27歳。自警団を設立し、国を守っている青年。魔法の素質もあり、度々魔法を使っている。やんちゃな性格のため、弟たちを困らせる事もある。

ナタリー・フォン・アリストシア

    アリストシア公国のお姫様。25歳。身体が弱いためあまり魔法を使えない。詩乃の事を大切に思い、サポートしてくれる。

詩乃の友人

神の悪戯による災害により死亡する。

神様

    詩乃を異世界に飛ばす気紛れな神。

ハチミツ

    詩乃を手助けするにゃんこ。口がとても悪い。一応、メス。

ロバート・フランツ

    22歳の戯曲家。詩乃の音楽魔法でデイドリーム・シンドロームから目覚める。後の有名な戯曲家。

マイケル・フォン・アリストシア

アリストシア公国の国王

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