アフタヌーンティー・タイム

文字数 2,368文字

    私は、二人の顔を見ることが出来ず、俯いたまま目の前に置かれたティーカップを見つめている。ティーカップの中には、黄金色に輝く紅茶が注がれており、湯気が上がっている。

    私は、先程の二人の行為が脳裏に焼きついており、なかなか剥がれてくれない。それもそうでしょう……。私の生着替えシーンをガン見されたのだから。

そろそろ機嫌直して欲しいなぁ……。ボクたち、わざとじゃないんだけど……
僕だってわざとじゃないさ。返事がなかったから……。まだ寝ていると思ってしまって……
    謝ってくる二人に反省はあるのだろうか。私は、そこを疑ってしまう。

    私は、俯いていていいのだろうか。顔をあげると、迷える子羊のような表情を浮かべている男子二人がいた。

    何かもう怒る気が失せた。私には、そこまで貞操観念がなかったっけ?    私は、逆に困ってしまった。

もう良いわよ……私も悪かったから
許してくれるの?!
優しいんだね。詩乃は、ボクと出会った時からそうだったね
元々、私は優しくなんかないですよ
そうなの?    僕はそうだとは思わないんだけどなぁ
とりあえず、今はアフタヌーンティー・タイムなんですよね?    私に何か話があるんですよね?
    私は、ティーカップに注がれていた黄金色の紅茶を口に含んだ。

    美味しい……。私の世界の紅茶より美味しいかもしれない。

ロバートと詩乃に魔法を伝授しよう、と思ってこのティータイムを企画したんだ。だから、今から僕の言う話を聞いて欲しい。これは、二人にしか頼めない話なんだ
ボクと詩乃にしかできない?    どういうことなんですか?
もしかして……ナタリー王女様の事ですよね?
そうだよ……。これは、経験者にしか出来ない事なんだ。経験したロバートと詩乃になら出来ると思って……。ロバートは、「デイドリーム・シンドローム」になってみてどうだった?
    ロバートさんは、苦虫を噛み締めたような表情を浮かべ、昨日自分の身に起きた事を思い返し、決心をしたのか、昨日の事を話し始めた。
はっきり言ってしまえば苦しかったです。まるで悪夢を見せられているようでした
私もです。また誰かを失ってしまうのではないか、という恐怖を味わいました
悪夢って……どんな感じだったか覚えてる?
何か言いづらいんだけど、ボクの足を掴んで暗い闇に引き摺りこもうとしたんです……。誰だか分からないですが……。これ以上にない暗い闇でした
私もロバートさんが見えない闇に引き込まれていくのを見ました。その時、たまたまフルートに手が触れたので、ロバートさんが作曲した戯曲を吹きました……。それと同時に見えない闇も消え去っていたので……。私には、よく分からないのですが……
    ロバートさんと私の話をギルバードさんは、一言一句聞き逃さず聞いてくれた。
……ということは、詩乃は一応魔法が使えたって事になるね
あれが魔法なんですか?    身体がとても熱くなったんですが……
そうだよ。暖かい魔法を使うと身体がとても温かくなるんだ。冷たい魔法を使うと身体が冷たくなる……。それが魔法界の原理なんだ。ロバートの楽譜にも魔法が使われている事が分かったんだ
えっ?    ボクは、魔法使えないよ?
まぁ、芸術家の魔法は作品の中でしか生きてこないから分からないね。詩乃とロバートが結託したら、面白いことが起きそうだし
じゃあ、ボクも魔法使いなんだ。何か嬉しいなぁ
まだうかれないほうがいいよ。僕たちは、まだ助けないといけない人たちがたくさんいるんだ。詩乃もロバートも自分の命だけを守るだけじゃ一人前の魔法使いじゃないよ
じゃあ、ギルバードさん。私たちはどうしたらみんなを助けられるんですか?
    私の一言に周りの空気が凍りついた。今の発言は、私が悪かった。うかれているのは私も一緒だ。こんな暗闇に包まれた未来のない世界に私は、絶望を感じてしまう。

    しかし、その空気を打ち破ったのは、ロバートさんだった。

暗い話は止めよう。ボクたちは、自分達に出来ることをやるべきだと思う
そうだね。暗い話をしていても問題は解決しないしね
    私は、ティーカップに入っていた紅茶をいつの間にか飲み干していた。

    まだまだ飲みたい。目の前にあるスコーンも食べたい。

ギルバードさん、紅茶のおかわりありますか?
まだまだたくさんあるからみんな飲んで飲んで
    ギルバードさんが、私のティーカップに黄金色の紅茶を淹れてくれる。湯気はあがっていなかったが、冷めても紅茶の甘味が際立って、スコーンとの味わいを良くしてくれる。
これからも魔法使いとして音楽を極めますね
ボクも詩乃の為、みんなの為に心のこもった作曲をするよ
はい!!    世界を救うのは、僕たちにかかっているんだ。だから、頑張っていこう!!
    私は、この日から魔法を極めるために奮闘することになる。

    それと同時にとんでもない事が進んでいるとは知らずに……

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
    その日の夜、事件が起きてしまった。
あれ?    何故ギルバードさんが私の部屋にいるんですか?
ちょっと困ったことになったんだ……
困ったことって何ですか?
それが父上に新しい妃を紹介するって言われたんだ
わぁ……おめでとうございます
僕はそれが嫌なんだ!!    だから、頼む!!    僕の妃を演じてくれないか?
はぁ?    何故、そうなるんですか?
    いきなりすぎる!!

    私が、ギルバードさんの妃を演じる?

    何がどうやったらそうなるんだぁ!!

だから、お願いだ。僕と一緒に過ごしてくれないか?
    異世界に飛ばされた瞬間からいきなり男性に迫ってこられるのは何かのお約束何でしょうか?

    今夜から、私は眠れなさそうだ。

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登場人物紹介

支倉 詩乃

    20歳のピチピチの音大生。フルートを専攻しており、世界のコンクールで入賞するなどの快挙を見せる新星のフルート奏者。

    ある日の大学からの帰り道、神の悪戯による災害により異世界に飛ばされることになる。音楽しか出来ない詩乃は、異世界で生き残ることが出来るのか。

ギルバード・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第2王子。24歳。詩乃が異世界に飛ばされて初めて出会う男性。←(しかもベッド上で……)王様や女王様から相手にされない日々を送ってきており、内緒で魔法使いになった青年。兄のジルベルトとは仲が良いみたいで……

ジルベルト・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第1王子。27歳。自警団を設立し、国を守っている青年。魔法の素質もあり、度々魔法を使っている。やんちゃな性格のため、弟たちを困らせる事もある。

ナタリー・フォン・アリストシア

    アリストシア公国のお姫様。25歳。身体が弱いためあまり魔法を使えない。詩乃の事を大切に思い、サポートしてくれる。

詩乃の友人

神の悪戯による災害により死亡する。

神様

    詩乃を異世界に飛ばす気紛れな神。

ハチミツ

    詩乃を手助けするにゃんこ。口がとても悪い。一応、メス。

ロバート・フランツ

    22歳の戯曲家。詩乃の音楽魔法でデイドリーム・シンドロームから目覚める。後の有名な戯曲家。

マイケル・フォン・アリストシア

アリストシア公国の国王

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