二人の王子様

文字数 1,741文字

大丈夫か?    今、助けてやるからな!!    俺の後ろに隠れていろよ!!
    声をかけた主も、またまたイケメンだった。何かと昨日押し倒してきた人に容姿が似ているような気がする。

    しかし、今はそれどころではない。

あの生物は何なのですか?!
この国に住み着く悪い奴らの使い魔だ!!    あれは、「ガーゴイル」という名の魔物だ
魔……物?
    私の頭の中が容量オーバーで爆発寸前だ。これ以上の情報をまとめてインストールするのは難しそうだ。逆にアンインストールしたら死ぬ運命しか見えない。
大丈夫だよ。後は、俺に任せて
でも……あなたの事、何も知らないのに……
俺は、ジルベルト・フォン・アリストシアだ。一応、この国「アリストシア公国」の第1王子だ。一応、自警団の隊長に当たるかな?    そんな事はどうでも良いか。とりあえず、「ガーゴイル」を退けないと……
あっ……王子様?    あの神様が言っていた事は本当の事?
とにかく、君はどこかに隠れて!!    君がこの世界の人間でないことぐらい最初から気がついている!!
どうして気がついたのですか?
魔力を感じない。そんなところだよ!!
魔法?    魔力?    
    「ガーゴイル」と呼ばれた魔物は、私たちに長い爪で攻撃をしかけようとしてきた。それに咄嗟に気がついた私は、その人を横に突き飛ばした。

    それと同時に私の腕に激しい熱と痛みが走る。

ッ……うぅっ……
くそッ!!    『森羅万象を告げるもの……汝にその力を与えよ!!    エタノール・グリーン!!』
    ガーゴイルを無数の蔦が覆う。ガーゴイルの姿はいつの間にか蔦に包まれ、見えなくなり、最後には蔦の圧力によって粉砕された。
君!!    しっかりしろ!!
もう……ダメです……。私には……異世界で生き残れる力なんて……
    私は、最後まで言葉を紡ぐことが出来ず、急に世界が暗闇に包まれる。イケメンの王子様が存在していることをこの時、初めて知ることが出来た。これだけが、唯一の救いであろう。

    一応、これで分かった。あの痛みは本物。私が、この世界で生きていく事になったことを思い知らされた瞬間でもあった。

    いきなりの出落ち。私は、読者のみんなに謝らないといけない。こんな雑魚キャラで申し訳ない、と。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
    温かい光が私を包み込む。

    あれだけの痛みと傷をくらっておいて、私は生きていた。

    私が気がついた時には、朝いたベッドの上で緑のローブを肩に羽織ったイケメンの男性がソファーに座り、分厚い本を読んでいるのが目に入った。

    はっきり言って傷の痛みは全く無かった。

あっ、気がつきましたか?    けっこう長い間眠っていられたので……
あっ……あなたは、昨夜の!!
その事は口外禁止ですよ。昨日の事は申し訳ないと思っています。それにまだ無理しない方が良いと思いますよ? 
あなたは、いったい何者なんですか?    得物って何のことですか?
最近、このアリストシア公国では王族を狙った不可解な事件が起きているのです。だから、僕はあなたを疑った。それにあんな行為に及ぶなんて僕は王子失格ですね……。情けないです……
もしかしてあなたも王子様なのですか?
そうですよ。僕は、ギルバード・フォン・アリストシア。この国の第2王子です。僕は、一応魔法使いやってます
魔法使い、何か凄いです。私なんて魔法すら使えませんから
じゃあ、僕が教えようか……魔法について
良いのですか?    私には、魔法の素質がない、ってジルベルトさんに言われたんですけど……
ジルベルト兄さんも簡単な魔法しか使えないから気にしないで
    ギルバードさんは、さらりと今、自分の兄であるジルベルトさんをディスったかもしれない。こんなに笑顔でディスる姿は、私の友人の環ちゃんに似ているような気がする。私は、笑顔を浮かべてギルバードさんの提案に乗ることにした。

    昨日の事は、これでチャラには出来ないけど多分、私の第2の人生が幕をあける瞬間だったのかもしれない。

    ギルバードさんの簡素な魔法に私は、飛びっきりの笑顔を見せ、魔法の素質を探し当てる事を誓ったのだった。

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登場人物紹介

支倉 詩乃

    20歳のピチピチの音大生。フルートを専攻しており、世界のコンクールで入賞するなどの快挙を見せる新星のフルート奏者。

    ある日の大学からの帰り道、神の悪戯による災害により異世界に飛ばされることになる。音楽しか出来ない詩乃は、異世界で生き残ることが出来るのか。

ギルバード・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第2王子。24歳。詩乃が異世界に飛ばされて初めて出会う男性。←(しかもベッド上で……)王様や女王様から相手にされない日々を送ってきており、内緒で魔法使いになった青年。兄のジルベルトとは仲が良いみたいで……

ジルベルト・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第1王子。27歳。自警団を設立し、国を守っている青年。魔法の素質もあり、度々魔法を使っている。やんちゃな性格のため、弟たちを困らせる事もある。

ナタリー・フォン・アリストシア

    アリストシア公国のお姫様。25歳。身体が弱いためあまり魔法を使えない。詩乃の事を大切に思い、サポートしてくれる。

詩乃の友人

神の悪戯による災害により死亡する。

神様

    詩乃を異世界に飛ばす気紛れな神。

ハチミツ

    詩乃を手助けするにゃんこ。口がとても悪い。一応、メス。

ロバート・フランツ

    22歳の戯曲家。詩乃の音楽魔法でデイドリーム・シンドロームから目覚める。後の有名な戯曲家。

マイケル・フォン・アリストシア

アリストシア公国の国王

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