有名戯曲家との出会い

文字数 1,467文字

    アリストシア城の町に面したテラスで私は、フルートを吹いている。吹いている曲は、高校時代の吹奏楽コンクールで吹いた『ヘンデルとグレーテル序曲』だ。深い深い森の中で、ヘンデルとグレーテルは、お菓子の家を見つける。ヘンデルとグレーテルは、その家のお菓子を食べていると魔女が現れ、ヘンデルを人質にとってしまう。最後には、グレーテルの機転を効かせた行動で魔女に打ち勝つストーリー。

    それを考えて私は、1つ1つ音符を奏でていく。最後の音が弾けた瞬間、周囲は静かに静まり返った。キラキラとした魔法は出てこない。

はぁ~……。やっぱり魔法って難しいわ……
そんな事ないよ。詩乃の音楽は、綺麗で僕は好きだよ
ありがとうございます、ギルバードさん。今日は、疲れました……
じゃあ、ここまでにしようか。まだ夕食まで時間があるから一度町に行ってみるといいよ
そうですね。そうさせていただきますね。ギルバードさんも一緒に行きませんか?
ごめんね。僕は、まだ公務が残っているから片付けないと……
そうだったのですね。今日は、1人で行ってきます
気をつけてね。あっ、そういえば……ちょっと紙が無くなりそうだから買ってきてもらおうかな?
分かりました。どこに買いにいけば良いのか教えて下さい
「ワルツ」という文具店に行ってきてほしいんだ。店主には連絡はしてあるからお金と交換かな?    お金も今渡すからね
    ギルバードさんは、私の掌に小銭入れを乗せた。ずっしりと重たさを感じる。紙ってこんなにこの世界では高いのか?!
あの紙って幾らぐらいですか?
この世界では紙は高級品で貴族や王族にしか買えないんだ。だいたいこれぐらいかな?
た……高すぎる!!
だから気をつけていってきてね
    こんな事があって私は、ギルバードさんに頼まれた紙をアリストシア城の城下町にやって来た。

    アリストシア城下町は、栄えているのは分かるが、一部闇も見えてくる。人々は、私を嫌な物を見る視線で見つめてくる。

    物珍しいのか?

    私は、人々が集まる噴水広場のベンチに腰をかけ、ギルバードさんに書いてもらった地図を見つめた。

こんな地図じゃ分からないわ……
    そう、私は極度の方向音痴なのだ。歌を歌うとか楽器を奏でる音痴は無いものの、地図だけに関しては全くダメなのだ。「ワルツ」という文具店を探し始めて一時間近く経つが見つからず、私は途方に暮れた。
ちょっと気分転換にフルート吹こう……と
    楽器ケースからフルートを取り出し、私は、フルートに息を吹き込む。選んだ曲は、「民衆の歌」

    意気揚々と私がフルートを奏でると、花に止まっていた蝶が舞い上がり、花の香りは先程より香りが増す。

    しかし、魔法が発動することは無かった。それでも良い、と私は思った。

    その時、1人の青年が私に拍手を送っているのが分かる。

ブラボー!!    素晴らしい!!    このような戯曲を聞いたのは初めてだ!!
あ……ありがとう……ございます
なかなか良い感じの戯曲が聞けて良かったよ!!    ボクは何て幸せ者なんだ!!
あっ……あの……。お願いがあるんですけど!!
    私は、勇気を出して名も知らない青年に道案内をお願いしてみた。
迷子?    どこに行く予定だったの?
「ワルツ」という文具店なんですけど……
じゃあ、ボクが案内しようか?
えっ、良いんですか!?
ボクは、「ワルツ」で楽譜を買う予定だったんだ。だから案内してあげるよ
じゃあ、お願いします
    私は、その青年に連れられ、噴水広場を離れた。
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登場人物紹介

支倉 詩乃

    20歳のピチピチの音大生。フルートを専攻しており、世界のコンクールで入賞するなどの快挙を見せる新星のフルート奏者。

    ある日の大学からの帰り道、神の悪戯による災害により異世界に飛ばされることになる。音楽しか出来ない詩乃は、異世界で生き残ることが出来るのか。

ギルバード・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第2王子。24歳。詩乃が異世界に飛ばされて初めて出会う男性。←(しかもベッド上で……)王様や女王様から相手にされない日々を送ってきており、内緒で魔法使いになった青年。兄のジルベルトとは仲が良いみたいで……

ジルベルト・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第1王子。27歳。自警団を設立し、国を守っている青年。魔法の素質もあり、度々魔法を使っている。やんちゃな性格のため、弟たちを困らせる事もある。

ナタリー・フォン・アリストシア

    アリストシア公国のお姫様。25歳。身体が弱いためあまり魔法を使えない。詩乃の事を大切に思い、サポートしてくれる。

詩乃の友人

神の悪戯による災害により死亡する。

神様

    詩乃を異世界に飛ばす気紛れな神。

ハチミツ

    詩乃を手助けするにゃんこ。口がとても悪い。一応、メス。

ロバート・フランツ

    22歳の戯曲家。詩乃の音楽魔法でデイドリーム・シンドロームから目覚める。後の有名な戯曲家。

マイケル・フォン・アリストシア

アリストシア公国の国王

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