焦り

文字数 1,928文字

謁見?    まさか……国王様と?
そう言うことになるよ……
また嫌な予感しかしないんですけど……
みなさんの仰る通りで……
    いきなり決まった王様との謁見に私は、嫌な予感しか感じなかった。

    まさか……とは言わないが、魔法を晒せ、とか無いとは言えない。ロバートさんもそうだ。王様に会うとはいえ、私とロバートさんは、王様に謁見するに見合う服を持っていない。私は、わかる通りこの世界の人間ではない上、お金も持ち合わせていないし、ロバートさんは、庶民出身の戯曲家だし……。

父上に会う時のドレスやスーツの準備は、僕がするから……。お願いだから……今回は、僕に協力して欲しい。その後、何でもお願いは聞くから!!
    何でもお願いは聞く……。

    私とロバートさんは、良い言葉を聞いてしまったかもしれない。

    私とロバートさんは、王様との謁見を了承した。その代わり、私とロバートさんの言うことを条件で。何の願いを叶えてもらおうか。今から楽しみになってきた。

    しかし、私とロバートさんは、とある問題に引っ掛かってしまった。

父上は、もの新しい事が大好きなのでもの新しい事を披露して欲しいなぁ、と
ちょっと待て。ボクは、譜面を書くことしか出来ないんだけど……
私は、譜面に書かれた音符を忠実に奏でることしか出来ないです
戯曲は、知られているから新しい音楽の分野で……
そんな滅茶苦茶な……
    ロバートさんは、呆れ返った。新しい音楽の分野って何よ!!

    私の知っている限りだと……ジャズ?    ボサノバ?    サンバ?

    宮廷音楽とか言われて思い浮かぶものはあまりないし……。

    はっきり言ってこれって私たち、大ピンチ?!    

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
    この後、私とロバートさんは新しい分野の音楽を作るため部屋に籠った。もちろん、ギルバードさんは一緒にいるが、音楽に携わった事の無い彼の意見は頼りのないものだった。
これでもないですね……
だよね。2日しか期限がないのは、無理があるよ。事前報告、事前相談がないのは、勘弁して欲しいよ……
    私は椅子に座り、項垂れた。ロバートさんも机に突っ伏し、悶絶している。

    これは、かなりの難題だ。私が今までにやって来た音楽よりも難しく感じるのは何故だろうか……。ギルバードさんが呑気に歌っているが……。あっ……これはある意味ヒントかもしれない。

    私は、ギルバードさんが歌う旋律をフルートを構え、吹き表してみた。これが新しい音楽になるように。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
    そして、遂に完成した。ギルバードさんとロバートさんと口論を繰り返した結果、なかなか新しい曲を生み出す事に成功した。

    これなら強制送還とか……されたりしないだろう。私とギルバードさんの関係も保留にしてもらえるだろうし……。一石二鳥でしょ?    私も毎晩あのようなスリルを味わうのも精神的に堪えるし。

    その後、ロバートさんと何度か一通りの流れを確認し、ギルバードさんと話を重ね、ようやく日付が変わる頃にお開きとなった。続きは明日という事で……。

    長い時間の拘束から解かれたロバートさんは、背伸びをし、口笛を吹きながら自室に戻っていった。残されたのは、私とギルバードさん。昨夜の事があり、とても気まずい。

何か夜食持ってくるから。詩乃は、部屋でゆっくりしてて
今は、夜食の気分じゃないですし……。それに夜中に食べると太るから私は遠慮します
そっか……。もしかして、詩乃……怒ってる?    昨日の事……
そういう問題じゃありません。ギルバードさんこそ私に隠し事をしてませんか?
僕が隠し事?    それは、何かの間違いではないか?    だって、隠すような疚しい話はないし……
ギルバードさん……あなた、悪夢とか見てません?    私、何となく分かるんです。お母様と何かあったのですか?
    図星をつかれたのかギルバードさんは、表情を一瞬曇らせる。それでも、また何時もの表情に戻っていた。

    これは、怪しい。絶対何か隠しているに違いない。私にだって分かる。そこまでバカじゃないから。

な……何を……言うんだい?    僕は、母上とは仲が良いから何も問題は……
「母上……行かないで」と言っていた人間がよく言えますね。私、隠し事する人嫌いなんです
やっぱり聞かれていたのか……。情けないな……
本当の事を話してくれる気になりましたか?
分かったよ……。これ以上嫌われたくないから話すから……
    ギルバードさんは、事の発端を1つ1つ語り始める。私は、ギルバードさんの話に耳を傾けるのだった。
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登場人物紹介

支倉 詩乃

    20歳のピチピチの音大生。フルートを専攻しており、世界のコンクールで入賞するなどの快挙を見せる新星のフルート奏者。

    ある日の大学からの帰り道、神の悪戯による災害により異世界に飛ばされることになる。音楽しか出来ない詩乃は、異世界で生き残ることが出来るのか。

ギルバード・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第2王子。24歳。詩乃が異世界に飛ばされて初めて出会う男性。←(しかもベッド上で……)王様や女王様から相手にされない日々を送ってきており、内緒で魔法使いになった青年。兄のジルベルトとは仲が良いみたいで……

ジルベルト・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第1王子。27歳。自警団を設立し、国を守っている青年。魔法の素質もあり、度々魔法を使っている。やんちゃな性格のため、弟たちを困らせる事もある。

ナタリー・フォン・アリストシア

    アリストシア公国のお姫様。25歳。身体が弱いためあまり魔法を使えない。詩乃の事を大切に思い、サポートしてくれる。

詩乃の友人

神の悪戯による災害により死亡する。

神様

    詩乃を異世界に飛ばす気紛れな神。

ハチミツ

    詩乃を手助けするにゃんこ。口がとても悪い。一応、メス。

ロバート・フランツ

    22歳の戯曲家。詩乃の音楽魔法でデイドリーム・シンドロームから目覚める。後の有名な戯曲家。

マイケル・フォン・アリストシア

アリストシア公国の国王

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