迫る黒

文字数 1,681文字

    私は、最初にロバートさんに出会った噴水広場のベンチに腰を下ろした。

    ロバートさんは、私の前に立ち、私がフルートの準備をしているのを見つめている。

フルートって初めて見るんだよね。3つのパーツに分けられているのか……。それを作った人って凄い人なんだろうなぁ……
そんな事ないですよ。フルートは、私の世界では宮廷音楽時代に出来た楽器なんですよ。だいたい300年程前ですかね?
300年程前って凄いなぁ。この世界には、音楽の概念がないからなぁ。このボクが音楽を広めようと思って
ロバートさんは、向上心があって凄いんですね。私、ロバートさんの作った戯曲吹いてみたいです
じゃあ、吹いてくれるかな?    ボクの作った戯曲を……
    そう言ってロバートさんは、私に譜面を手渡してきた。未発表の曲だよね?    大丈夫なのかな?
これって世間に発表してますよね?
今日が初めての発表だよ?    野外で公開した方が良いでしょ?
まあ、そうですけど……。分かりました。この曲を吹きますね。どうなっても知りませんからね!!
じゃあ、お願いするね
    この気ままな戯曲家であるロバートさんは、私のフルートに目を向けてくる。

    仕方がない。ここは、この戯曲を吹いて納得してもらおう。私の実力がどれぐらい本当のものかを……。魔法が使えなくても音楽さえ出来れば良いじゃないか。

    私は、譜面を一目確認する。

戯曲「僕らの革命」

何かすごく難しそうな連符が並んでますね……

そこはボクの愛嬌ってことで
    私は、譜面を一通り確認するとロバートさんに返却した。
譜面、見なくても大丈夫なのか?
大丈夫です。頭の中に叩き込みましたから。早速吹きますね
    私は、フルートの吹き口に唇を当て、息を吹き込んだ。

    2日3日吹いていなかったのもあるのだろう。何時もより指が重く感じる。目の前には、笑顔で聴いてくれているロバートさんがいる。連符が続いているけど音楽がこんなに楽しい、と思ったのは久しぶりかもしれない。

    その時だった。

    ロバートさんが辺りを警戒し始めた。私は、それに気がついたがロバートさんの為にフルートを吹き続けた。

    その時だった。私のフルートの音色ではない音色が聴こえてきた。それに気がついた私は、フルートの演奏を中断してしまった。
何……この音色……。とても暗い……。ねぇ、ロバートさん……。さっきより顔色が悪いような気がするんですけど大丈夫ですか?
……
ロバートさん?    大丈夫ですか?
何かすごく身体が怠くて眠い……。何でだろう……。ボクはいったい何のために戯曲を作ってるんだ?
    ロバートさんがいきなり私に泣き言を吐いたのだ。さっきまでの意気込みはどうしたのだろうか?

    目の色もおかしい。ヘーデル色に染まり、光はない。目も虚ろで虚無を見ているかのようだった。

ロバートさん、いったいどうしてしまったんですか?!    みんなを楽しませるような戯曲を作るんじゃなかったんですか?!
……っう……苦し……い……。もう……分から……な 
    ロバートさんの身体が傾く。私は、フルートを持ったままロバートさんを支える。しかし、力が及ばずそのまま私も地面に倒れこんだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
    私はまず、ピンクゴールドのフルートを確認する。無傷だ。

    しかし、良かったなんて言えない。

    だって……

ロバートさん?    ロバートさん!!    しっかりしてください!!    起きてください!!
……
    私の声は届かない。広場には次々と人々が集まってくるのが分かる。
やっぱり夢を持つから「デイドリーム・シンドローム」に陥るんだ
あぁ、アイツあのままだと死ぬだろうな
    私の目の前が真っ暗になる。死ぬってどういうこと?   

    私は、ロバートさんの名前を呼び続けるが、起きる気配がなかった。今度は逆に私まで視界がぐらりと揺れた。

    視界がいきなり真っ暗になり、目の前が暗転する。私の見ていた世界は黒に塗りつぶされた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

支倉 詩乃

    20歳のピチピチの音大生。フルートを専攻しており、世界のコンクールで入賞するなどの快挙を見せる新星のフルート奏者。

    ある日の大学からの帰り道、神の悪戯による災害により異世界に飛ばされることになる。音楽しか出来ない詩乃は、異世界で生き残ることが出来るのか。

ギルバード・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第2王子。24歳。詩乃が異世界に飛ばされて初めて出会う男性。←(しかもベッド上で……)王様や女王様から相手にされない日々を送ってきており、内緒で魔法使いになった青年。兄のジルベルトとは仲が良いみたいで……

ジルベルト・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第1王子。27歳。自警団を設立し、国を守っている青年。魔法の素質もあり、度々魔法を使っている。やんちゃな性格のため、弟たちを困らせる事もある。

ナタリー・フォン・アリストシア

    アリストシア公国のお姫様。25歳。身体が弱いためあまり魔法を使えない。詩乃の事を大切に思い、サポートしてくれる。

詩乃の友人

神の悪戯による災害により死亡する。

神様

    詩乃を異世界に飛ばす気紛れな神。

ハチミツ

    詩乃を手助けするにゃんこ。口がとても悪い。一応、メス。

ロバート・フランツ

    22歳の戯曲家。詩乃の音楽魔法でデイドリーム・シンドロームから目覚める。後の有名な戯曲家。

マイケル・フォン・アリストシア

アリストシア公国の国王

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色