神の悪戯

文字数 1,747文字

    私は、意識がない状態で浮遊感を味わう。気持ちが悪い。ジェットコースターに目隠しされて乗せられているような感じだ。頭が痛い。脳裏にこびりついているのは、友人が目の前で死ぬ瞬間。

    私は、人殺しかもしれない。私が、あの場でしゃがみこんだのがいけない。しゃがみこまなければ友人は死ななくてすんだのかもしれない。これは、私に対する神からの罰で、私はここで死ぬ。落ちた先が何処かも分からぬまま。

    

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


    何分、何時間落ちたか分からない頃、誰かの声が聞こえてきた。

汝にやり直しのチャンスを与えよう
    その声が私の頭の中に聞こえ、私は怠い身体を動かすため、目をゆっくり開いた。

    落ちていない。身体が宙に浮いた状態で私は、その場に止まっていた。

私は、友人を殺してしまいました。私を救済する神様なんて馬鹿げていると思います……
汝は我によって選ばれたのじゃよ
本当にあなたは、神様なんですか?    この災害は何だったんですか?
如何にも……我は、神様じゃ。この災害は、そろそろ神の力によって起こりうる災害……その名も『南海トラフ大地震』だったのじゃよ
神は、人間たちを苦しめて楽しいのですか?
楽しくはない。これは、人間たちに与えるべき試練だったのじゃよ。神は、その為に存在しているのじゃ
    神の言葉は、どこか正しい所もあった。私は、閉じていた目を開き、瞬きをする。目の前には、キリストの十字架の入った帽子を被り、白い髪と眉毛・髭を持った私の祖父に容姿の似た年配の男性が立っていた。

    神と名乗る彼には、天使が持っているような白い翼が無ければ、頭の上にあるであろう輪っかも無かった。

    何処からどう見ても普通の人間と見間違う容姿の神様だった。

神様は意地悪ですね。私の友人を殺しておいて……。どうして普通にしていられるんですか?    返してくださいよ、私の友達や家族も……。みんなを返してください!!
それは、無理じゃ。死んだ人間を生き返らせるのは、神の規範に反する
じゃあ、私も殺してください!!
それも神の規範に反する。じゃから、汝を別の世界に転生させることにした
    『転生』?

    私の頭の中にたくさんの『はてな』が浮かび出ては消える。何故、私が別の世界に転生しなければならないんだ。私は、神に反論するため、口を開く。

転生なんてしたくないです!!    どうして私にそんな事持ちかけるんですか?!
汝にしか出来ないことだからじゃ
私にしか出来ないこと?    無理です。私には、音楽しか出来ませんから
だから、我は汝に頼んでいるのじゃ。きっちりとした報酬も出すつもりなのに……。ここまで話を聞かない人間は初めてじゃ……
    『報酬』?

    私は、『ご褒美』や『報酬』という言葉に目がない。私は、この話に乗るつもりは無かったのに言葉につられ、とんでもない事を口にしてしまう。

その『報酬』や『ご褒美』によってはのらなくもないですよ?
実はな、グリモワルの世界に転生してほしいのじゃ
グリモワルって童話の世界ですか?
まあ、正しい。

しかし最近だが、アリストシア公国が衰退し始めたのじゃ

で、それをどうしたら良いのですか?
汝が持つ音楽の魔法で世界を救ってほしいのじゃ。その時は、汝は世界で讃えられる音楽の魔法使いになっているだろう。更には、イケメンの王子様つきじゃ
行きます、行きます!!
    この時の発言に私は、後悔することになる。世界は甘くない。音楽の世界で生き残ってきた私だからうまくいくと過言していた。そんな私がバカらしく思う日が来るのは、もう少し後の話になりそうだ。
では、早速行ってきておくれ!!
って……きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
    いきなり神の姿は遠くなり、私は命綱なしのバンジージャンプのように暗闇に再び投げ出された。
現実の世界で幸せなハッピーエンドを迎えられなかったお姫様が、グリモワルの世界で幸運の女神になれることを祈ってるぞ!!
    神様なんていなかったんだ。私は、騙されたんだ。私は、暗闇の中で聞いた気紛れな神様の言葉に苛立ちを覚える。

    すると、段々と激しい眠気が私を襲う。もうどうでも良い、と私は思い、目を閉じた。

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登場人物紹介

支倉 詩乃

    20歳のピチピチの音大生。フルートを専攻しており、世界のコンクールで入賞するなどの快挙を見せる新星のフルート奏者。

    ある日の大学からの帰り道、神の悪戯による災害により異世界に飛ばされることになる。音楽しか出来ない詩乃は、異世界で生き残ることが出来るのか。

ギルバード・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第2王子。24歳。詩乃が異世界に飛ばされて初めて出会う男性。←(しかもベッド上で……)王様や女王様から相手にされない日々を送ってきており、内緒で魔法使いになった青年。兄のジルベルトとは仲が良いみたいで……

ジルベルト・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第1王子。27歳。自警団を設立し、国を守っている青年。魔法の素質もあり、度々魔法を使っている。やんちゃな性格のため、弟たちを困らせる事もある。

ナタリー・フォン・アリストシア

    アリストシア公国のお姫様。25歳。身体が弱いためあまり魔法を使えない。詩乃の事を大切に思い、サポートしてくれる。

詩乃の友人

神の悪戯による災害により死亡する。

神様

    詩乃を異世界に飛ばす気紛れな神。

ハチミツ

    詩乃を手助けするにゃんこ。口がとても悪い。一応、メス。

ロバート・フランツ

    22歳の戯曲家。詩乃の音楽魔法でデイドリーム・シンドロームから目覚める。後の有名な戯曲家。

マイケル・フォン・アリストシア

アリストシア公国の国王

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