平凡な日々の終わり

文字数 1,920文字

    不思議な夢を見た。

    私が、広々とした草原でフルートを吹いている。そこは、私が今住んでいる東京の大都会の町並みは一切なく、自然豊かで古めかしい建物が建ち並んでいるそんな世界。

    フルートの音色は、風に乗って何処までも響いていく。誰もいない私だけの世界。夢は夢のままであってほしい。


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    今の日常に私は飽きてしまった。

    私、支倉 詩乃は、東京のとある音楽大学に通う20歳になったばかりのピチピチの学生。でも、彼氏いない歴=年齢なのが残念な所。今は、友人と一緒に大学帰りにディナーに来ている所だ。

ここのフレンチ美味しい!!
でしょ、詩乃。あなたがこの間のフランスのコンクールで入賞したからお祝いよ
でも、奢ってもらっちゃって良いの?
今回は特別。だって、詩乃のフルート……とても綺麗なんだもん。もっと世界に羽ばたくべきよ
そうかな?    私は今のままでも満足だよ?
詩乃、彼氏とか作らないの?    あっ、詩乃の彼氏は『音楽』か
    にやついている友人に私は、少し不満げな表情を浮かべ、反論する。
私の恋人は、『音楽』や『コンクール』ではないよ。まだ、私には早いと思っているだけなの
またまたそうやって……。前付き合っていた元カレにフラれたショックが続いているだけでしょ?    詩乃、あの時のフルートの音、死んでたもん
もうあの時の話はしないで。私だって何故フラれたか分からないんだもの
それは、詩乃が「『フルート』と『元カレ』どっちが大事なんだ」と言われた時に『フルート』って全力で答えたからに決まってるでしょ!!    そこは、『元カレ』って答えていた方が正解なのに……
私から『フルート』をとったら何が取り柄になるの?    それだとただの女じゃないの?
    私の言った言葉で友人は、何も言えなくなり黙りこんでしまう。確かに私から『フルート』をとったら何になるんだろうか?

    ただの女になってしまう可能性の方が高い。私は、音楽の為に色々なモノを捨ててきた。『友達』や『家族』、友人に言われた『彼氏』もそうだ。

    あんなことやこんなことをした『彼氏』を捨てた私は、どんな心を持っているのだろうか……。

    その後も友人とディナーを楽しんだが、肝心の料理の味なんて全く分からなかった。


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やっぱりあそこのフレンチは最高だったね。環ちゃんの言うとおりだったわ。そうでしょ、詩乃
(やっぱり私には、音楽しかないのかな?    この世界にいても良いのかな?    私は、どうしてこんなにも心が汚れているの?    教えて、神様……)
詩乃?    どうしちゃったの?    そんなに落ち込んで……
何でもないよ。今日のフレンチは美味しかったよ。また行きたいなー、何てね
もう、詩乃はそうやって冗談を言うわね。世界が滅びても詩乃の味方でいるつもりだからね
私もあなたの友達でいたいわ。世界が滅びるのはまだ先の話だけど……
    その時だった。詩乃や周囲の人々のスマートフォンの緊急アラームが鳴り響く。詩乃と友人は、スマートフォンを確認するためにポケットに手を入れた時だった。

    ドカンッ、と大きな衝撃が周囲を襲い、土埃が舞い上がる。詩乃は、たまたまスマートフォンを確認することが出来た。そこには、予想すら出来なかった事がスマートフォンのディスプレイに記されていた。

緊急地震速報

日本全国で地震発生。非常に強い揺れに備えてください。
    こんなにも簡単に日常の崩壊が来るとは思ってもいなかった。私は、フルートを抱え、その場に座りこんだ。揺れは激しさを増すばかりで恐怖に負けそうになる。

    予想されていたあの南海トラフの地震?    と私は疑う。

    その時だった。バキバキ、と音を立て、何かが落ちてくる音が聞こえる。もう逃げ場はない。私は、目を閉じた。

詩乃、危ない!!
    友人の声がした直後、私に衝撃が走り、その直後、身体に痛みが走る。目の前には、銀行の巨大な看板が落ちている。友人の姿は何処にもない。激しい揺れは続いていて、私もまともに動けない。地面に這いつくばって看板の近くに移動すると見覚えのある手が変な方向に曲がっているのを発見した。

    その温もりはもう無かった。

    私の声は出ない。さっきまで一緒にディナーをしていた友人が目の前で死んだ事実が脳裏にこびりつき、離れようとしない。

   その時、私がいた地面に大きな亀裂が入り、私はそこに落ちてしまった。何処までも深く続く穴に私は悲しみを抱き、一粒の涙を流し、そのまま意識を手放した。

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登場人物紹介

支倉 詩乃

    20歳のピチピチの音大生。フルートを専攻しており、世界のコンクールで入賞するなどの快挙を見せる新星のフルート奏者。

    ある日の大学からの帰り道、神の悪戯による災害により異世界に飛ばされることになる。音楽しか出来ない詩乃は、異世界で生き残ることが出来るのか。

ギルバード・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第2王子。24歳。詩乃が異世界に飛ばされて初めて出会う男性。←(しかもベッド上で……)王様や女王様から相手にされない日々を送ってきており、内緒で魔法使いになった青年。兄のジルベルトとは仲が良いみたいで……

ジルベルト・フォン・アリストシア

    アリストシア公国の第1王子。27歳。自警団を設立し、国を守っている青年。魔法の素質もあり、度々魔法を使っている。やんちゃな性格のため、弟たちを困らせる事もある。

ナタリー・フォン・アリストシア

    アリストシア公国のお姫様。25歳。身体が弱いためあまり魔法を使えない。詩乃の事を大切に思い、サポートしてくれる。

詩乃の友人

神の悪戯による災害により死亡する。

神様

    詩乃を異世界に飛ばす気紛れな神。

ハチミツ

    詩乃を手助けするにゃんこ。口がとても悪い。一応、メス。

ロバート・フランツ

    22歳の戯曲家。詩乃の音楽魔法でデイドリーム・シンドロームから目覚める。後の有名な戯曲家。

マイケル・フォン・アリストシア

アリストシア公国の国王

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