第40話 言い訳
文字数 1,085文字
◆
ため息の原因は、真代だ。 別に、真代に何か言われたわけではない。
真代は少しも悪くない。真代に対する自分の気持ちを持て余している、と言ったほうが正確かもしれない。
紗代は、夜になって、真代と話すことを重荷に感じている。そして、そういう自分に驚いている。
真代は大切な双子の片割れなのに。真代は自由に動くことも出来ず、その存在を家族に知られることもなく、鏡の中で、じっと紗代を待っているというのに。
それをうとましく思っている自分は、なんと冷酷なのだろう……。
その夜、迷いに迷ったものの、紗代はウォークインクローゼットに入らなかった。悪いとは思いながら、どうしても足が向かなかったのだ。
真代のことは、本当にかわいそうだと思う。もしも彼女と立場が逆だったらと思うと、ぞっとする。
だが、どうしてだかわからないが、体を持って母から生まれたのは紗代のほうだったのだ。それに、そのことは自分のせいではないし、なんとかしたいと思っても、どうすることも出来ない。
今回、洋館に来るまで、自分の中に、生まれなかった双子の姉妹がいたなんて夢にも思わなかったし、当然ながら、話をしたこともなかった。
だから、鏡越しに話すことをやめても、それは元に戻るだけのことではないのか。真代の存在など、知りもしなかった頃に。
一度話すのをやめると、ますます足が遠のいた。着替えのためにクローゼットには入るものの、鏡があるのは奥の壁際で、そこまで行かなくとも用は済む。
紗代は自分に言い訳をする。真代と話さないのは冷たいようだけれど、啓希がここにいるのは三週間だけだ。
新学期が始まったら、東京に帰ってしまうのだ。それまでは、なるべく啓希と過ごしたいし、たくさん思い出も作りたい。
だが、ずっと鏡の中にひとりぼっちでいる真代に、自分たちだけが楽しんでいる話を聞かせるのは残酷ではないのか。
◆
ここまでは、予想通りの展開だ。そうなってほしくはないけれど、多分そうなってしまうだろうという。
そして、真名人の予想が正しければ、間もなく波乱の展開の幕開けとなるのではないか。
啓希が東京に帰る日が、刻々と近づいている。春休みが終わり、啓希は高校に入学するのだ。
紗代は、自分のせいで、母が啓希の入学式に出席出来ないことに申し訳なさを感じながら、それと同時に、三人で楽しく過ごす日々が終わりに近づいていることに寂しさを感じている。
再び、孤独で退屈な毎日が始まるのだ。そこで、紗代はふと、真代のことを考える。
ため息の原因は、真代だ。 別に、真代に何か言われたわけではない。
真代は少しも悪くない。真代に対する自分の気持ちを持て余している、と言ったほうが正確かもしれない。
紗代は、夜になって、真代と話すことを重荷に感じている。そして、そういう自分に驚いている。
真代は大切な双子の片割れなのに。真代は自由に動くことも出来ず、その存在を家族に知られることもなく、鏡の中で、じっと紗代を待っているというのに。
それをうとましく思っている自分は、なんと冷酷なのだろう……。
その夜、迷いに迷ったものの、紗代はウォークインクローゼットに入らなかった。悪いとは思いながら、どうしても足が向かなかったのだ。
真代のことは、本当にかわいそうだと思う。もしも彼女と立場が逆だったらと思うと、ぞっとする。
だが、どうしてだかわからないが、体を持って母から生まれたのは紗代のほうだったのだ。それに、そのことは自分のせいではないし、なんとかしたいと思っても、どうすることも出来ない。
今回、洋館に来るまで、自分の中に、生まれなかった双子の姉妹がいたなんて夢にも思わなかったし、当然ながら、話をしたこともなかった。
だから、鏡越しに話すことをやめても、それは元に戻るだけのことではないのか。真代の存在など、知りもしなかった頃に。
一度話すのをやめると、ますます足が遠のいた。着替えのためにクローゼットには入るものの、鏡があるのは奥の壁際で、そこまで行かなくとも用は済む。
紗代は自分に言い訳をする。真代と話さないのは冷たいようだけれど、啓希がここにいるのは三週間だけだ。
新学期が始まったら、東京に帰ってしまうのだ。それまでは、なるべく啓希と過ごしたいし、たくさん思い出も作りたい。
だが、ずっと鏡の中にひとりぼっちでいる真代に、自分たちだけが楽しんでいる話を聞かせるのは残酷ではないのか。
◆
ここまでは、予想通りの展開だ。そうなってほしくはないけれど、多分そうなってしまうだろうという。
そして、真名人の予想が正しければ、間もなく波乱の展開の幕開けとなるのではないか。
啓希が東京に帰る日が、刻々と近づいている。春休みが終わり、啓希は高校に入学するのだ。
紗代は、自分のせいで、母が啓希の入学式に出席出来ないことに申し訳なさを感じながら、それと同時に、三人で楽しく過ごす日々が終わりに近づいていることに寂しさを感じている。
再び、孤独で退屈な毎日が始まるのだ。そこで、紗代はふと、真代のことを考える。