第61話 カップル

文字数 957文字

 そう思って見ていると、同じように、真名人を見て立ち止まった人物がいた。真名人と同じ年頃に見える少年で、その横には少女もいる。
 
 少年が、少女に何か言い、少女も真名人を見る。やはり知り合いなのか、二人はこちらに近づいて来た。
 
 
 じっと立ち止まったままの真名人に、少年が声をかける。
 
「灰田、久しぶり。休学したって聞いて……。元気だったのか?」

 何も答えない真名人に、涼平は話しかける。
 
「真名人、こちらは、お友達?」

 だが、真名人は押し黙ったままだ。少年がこちらを見たので、涼平は自己紹介する。
 
「僕は、真名人の叔父の涼平です」

「あっ、野崎です。灰田くんとは、高校で同じクラスで」

「そう」

 少女も、ぺこりと頭をさげながら名乗った。
 
「及川です」

 涼平は、野崎に聞く。
 
「彼女?」

 野崎が、照れたように微笑みながら言った。
 
「まあ、そんな感じです」

「へえ」

 美男美女の、なかなかお似合いのカップルだ。相変わらず、真名人が何も言わないので、野崎が、その場を取り繕うように言った。
 
「ホントに叔父さんなんですか? お若いですね」

 同意を求めるように、彼が及川を見ると、彼女も微笑みながらうなずいた。

「ははっ、真名人とは十歳違いなんだけど」

「そうなんですか? もっとお若く見えますよ」

「君、お世辞がうまいね」

「いや……」


 野崎が、気まずそうに真名人を見る。涼平も、真名人の顔を見た。
 
 真名人は、青ざめた顔で、あらぬ方向に目をやったまま動かない。久しぶりに友達に会って一言も話さないのは、やはりただ事ではない気がする。
 
 もしや、彼らとの間に何かあったのだろうか。そう思っていると、野崎が、ちらりと及川を見てから、涼平に向かって言った。
 
「それじゃ、どうも」

「あっ、どうも」

「灰田、またな」

 やはり真名人は答えない。涼平に頭を下げて、二人は人混みの中を去って行った。 
 
 
「真名人?」

 そっと肩に手を置くと、真名人が、消え入りそうな声で言った。
 
「あ……気分が悪い。もう帰りたい」

 たしかに、辛そうに眉根を寄せ、とても具合が悪そうに見える。それで、何も話せなかったのだろうか。
 
 これから食事をして、その後、景色のいいところまでドライブでもしようかと思っていたのだが、体調が悪いのでは仕方がない。
 
「わかったよ。帰ろう」
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