第8話 季節限定のタルト
文字数 1,055文字
古川さんが、にっこり笑いながら言った。
「承知いたしました。真名人さん、涼平さんと一緒にお散歩、ようございますね」
真名人は、こくりとうなずきながら、涼平の腰にしがみついた。
庭をぶらぶらするつもりだったのだが、外は思いのほか日差しが強く、芝生の照り返しがまぶしいほどだ。そこで涼平は、真名人の手を引いて、森に向かった。
「森の中は涼しいかな」
さわやかな空気の中、小道を歩き始めると、すぐに真名人が、何かに目を留めた。しゃがんで拾ったものを、涼平に向かってかざす。
「あぁ、松ぼっくり」
すると、真名人が言った。
「まつごっくり?」
涼平は笑う。
「松ぼっくりだよ。ほら、あの木が松。松の実のことを松ぼっくりって言うんだよ」
「まつごっくり!」
そう言って、真名人も笑った。
部屋を見てもらった後、ダイニングルームに戻ってティータイムにする。
「さあ、座って」
真名人を椅子にかけさせ、用意しておいたティーセットとケーキをテーブルに運ぶ。涼平は、箱から出したケーキを、皿に載せながら言った。
「これ、ヴィオレッタっていう店の、季節限定のタルトなんだ」
先日、社長室で食べたのと同じものだ。おいしかったので、真名人にも食べさせたいと思い、ネットで場所を調べて、今日の朝一番に並んで買って来たのだ。
「へえ。おいしそうだね」
真名人の、どこか気のないように聞こえる返事を聞いて、涼平は、突然あることに気がついてはっとした。
「あっ、もしかして、タルト生地って苦手?」
「えっ? そんなことはないけど」
ぽかんと見上げる顔が、小さい頃の真名人のそれと重なる。
「だってほら、言っていたじゃないか」
「え? なんて?」
「パイ生地が苦手だって」
真名人はまだ、ぽかんとした表情のまま、テーブルの前に立つ涼平を見上げている。
「ほら、いつだったか**市の別荘で、アップルパイの中のリンゴだけ取り出して食べて、周りのパイ生地は残していたじゃないか」
「……そんなこと、あったっけ?」
涼平は、ムキになって答える。
「あったよ!」
「ふうん、覚えてないや。それに僕、アップルパイの外側も、サクサクしていて好きだよ」
「え……」
憮然とする涼平に、真名人が、おかしそうに言った。
「だいたい、パイ生地とタルト生地は全然別物だと思うけど」
「あ、いや、それはそうだけど……」
小さい頃と今とでは、食べ物の好みが変わっていてもおかしくはないが、それにしても、涼平にとっては懐かしく微笑ましい思い出も、真名人は覚えていないのか。
「承知いたしました。真名人さん、涼平さんと一緒にお散歩、ようございますね」
真名人は、こくりとうなずきながら、涼平の腰にしがみついた。
庭をぶらぶらするつもりだったのだが、外は思いのほか日差しが強く、芝生の照り返しがまぶしいほどだ。そこで涼平は、真名人の手を引いて、森に向かった。
「森の中は涼しいかな」
さわやかな空気の中、小道を歩き始めると、すぐに真名人が、何かに目を留めた。しゃがんで拾ったものを、涼平に向かってかざす。
「あぁ、松ぼっくり」
すると、真名人が言った。
「まつごっくり?」
涼平は笑う。
「松ぼっくりだよ。ほら、あの木が松。松の実のことを松ぼっくりって言うんだよ」
「まつごっくり!」
そう言って、真名人も笑った。
部屋を見てもらった後、ダイニングルームに戻ってティータイムにする。
「さあ、座って」
真名人を椅子にかけさせ、用意しておいたティーセットとケーキをテーブルに運ぶ。涼平は、箱から出したケーキを、皿に載せながら言った。
「これ、ヴィオレッタっていう店の、季節限定のタルトなんだ」
先日、社長室で食べたのと同じものだ。おいしかったので、真名人にも食べさせたいと思い、ネットで場所を調べて、今日の朝一番に並んで買って来たのだ。
「へえ。おいしそうだね」
真名人の、どこか気のないように聞こえる返事を聞いて、涼平は、突然あることに気がついてはっとした。
「あっ、もしかして、タルト生地って苦手?」
「えっ? そんなことはないけど」
ぽかんと見上げる顔が、小さい頃の真名人のそれと重なる。
「だってほら、言っていたじゃないか」
「え? なんて?」
「パイ生地が苦手だって」
真名人はまだ、ぽかんとした表情のまま、テーブルの前に立つ涼平を見上げている。
「ほら、いつだったか**市の別荘で、アップルパイの中のリンゴだけ取り出して食べて、周りのパイ生地は残していたじゃないか」
「……そんなこと、あったっけ?」
涼平は、ムキになって答える。
「あったよ!」
「ふうん、覚えてないや。それに僕、アップルパイの外側も、サクサクしていて好きだよ」
「え……」
憮然とする涼平に、真名人が、おかしそうに言った。
「だいたい、パイ生地とタルト生地は全然別物だと思うけど」
「あ、いや、それはそうだけど……」
小さい頃と今とでは、食べ物の好みが変わっていてもおかしくはないが、それにしても、涼平にとっては懐かしく微笑ましい思い出も、真名人は覚えていないのか。