第22話 紗代の境遇
文字数 1,007文字
一人のマンションに帰ると、楽しい時期もあった芽久美との新婚生活が思い出され、虚しさと寂しさでやり切れず、何度か一人で泣いたこともあった。だが、そんな自分が情けなく、悔しくて、一人でも、うんと楽しい生活を送ってやろうと思った。
それで、芽久美がやらなかった料理を極めようと思い立ち、いろいろな料理用具を購入したり、週末には、料理の味を覚えるために、食べ歩きをしたりしたのだ。
あれから数ヶ月、一人で作って一人で食べる虚しさには、あえて目をつぶり、そういう生活を続けていたのだが、真名人が同居することになり、ようやく料理が役に立つことになった。すっかり痩せてしまった真名人に、栄養のあるものを食べさせてやりたい。
真名人は、「フォレストガール」を読み進める。
やがて、紗代の身の上と、「フォレストガール」というタイトルの意味がわかって来る。
本来は高校生である紗代は、森の中に建つ洋館に、母と二人で暮らしている。原因不明の病気で学校に通えなくなったためだ。
紗代の境遇が、自分のそれと重なり、真名人は、さらに物語に引き込まれる。
普段は、いたって元気な紗代は、あるときから、ときどき予兆なく、意識を失って倒れるようになる。病院で検査をしても、原因はわからない。
医師は、精神的なストレスのせいだとも考えられるので、薬を服用しながら、症状が改善するまで静かな場所で療養するようにと勧める。家族で話し合った結果、母が、今は亡き両親から受け継いだ、森の奥にある洋館に移り住むことになったのだ。
父と弟の啓希は東京の家にいるのだが、中学を卒業したばかりの啓希は春休みに入り、その間、洋館で過ごすためにやって来る。
◆
「お姉ちゃん」
部屋の外で、啓希の声がした。
紗代は鏡に向かって言う。
「ごめん、真代。行くね」
「うん」
鏡面が波立ったかと思うと、にっこり笑う真代の姿が消え、後には紗代の姿が映っている。
あわててクローゼットを出ると、啓希はドアを開けて、部屋の中まで入って来ていた。
「なぁに? いつも勝手に入っちゃ駄目って言っているでしょう?」
「ごめん。呼んでも返事がなかったから」
「クローゼットの奥にいたから聞こえなかったのよ」
「そうか。お母さんが、お茶にしましょうって」
「わかった」
◆
どうやら、真代の存在は、弟の啓希には内緒らしい。
それで、芽久美がやらなかった料理を極めようと思い立ち、いろいろな料理用具を購入したり、週末には、料理の味を覚えるために、食べ歩きをしたりしたのだ。
あれから数ヶ月、一人で作って一人で食べる虚しさには、あえて目をつぶり、そういう生活を続けていたのだが、真名人が同居することになり、ようやく料理が役に立つことになった。すっかり痩せてしまった真名人に、栄養のあるものを食べさせてやりたい。
真名人は、「フォレストガール」を読み進める。
やがて、紗代の身の上と、「フォレストガール」というタイトルの意味がわかって来る。
本来は高校生である紗代は、森の中に建つ洋館に、母と二人で暮らしている。原因不明の病気で学校に通えなくなったためだ。
紗代の境遇が、自分のそれと重なり、真名人は、さらに物語に引き込まれる。
普段は、いたって元気な紗代は、あるときから、ときどき予兆なく、意識を失って倒れるようになる。病院で検査をしても、原因はわからない。
医師は、精神的なストレスのせいだとも考えられるので、薬を服用しながら、症状が改善するまで静かな場所で療養するようにと勧める。家族で話し合った結果、母が、今は亡き両親から受け継いだ、森の奥にある洋館に移り住むことになったのだ。
父と弟の啓希は東京の家にいるのだが、中学を卒業したばかりの啓希は春休みに入り、その間、洋館で過ごすためにやって来る。
◆
「お姉ちゃん」
部屋の外で、啓希の声がした。
紗代は鏡に向かって言う。
「ごめん、真代。行くね」
「うん」
鏡面が波立ったかと思うと、にっこり笑う真代の姿が消え、後には紗代の姿が映っている。
あわててクローゼットを出ると、啓希はドアを開けて、部屋の中まで入って来ていた。
「なぁに? いつも勝手に入っちゃ駄目って言っているでしょう?」
「ごめん。呼んでも返事がなかったから」
「クローゼットの奥にいたから聞こえなかったのよ」
「そうか。お母さんが、お茶にしましょうって」
「わかった」
◆
どうやら、真代の存在は、弟の啓希には内緒らしい。