第77話 ちょっとほっとするようなもの

文字数 610文字

 一瞬、何事かと緊張したが、飯田が笑って言った。
 
「そんな顔するなって。別に悪い話じゃないよ」

「はあ」

「社内報をリニューアルする話が出ているだろう。灰田くんの担当のコーナー、評判がいいから、あれは引き続きやってもらうとして、同じくらいの規模で、もうワンコーナー担当してみないか?」

 涼平の担当のコーナーとは、つまり芽久美と知り合うきっかけになった、社員を紹介するコーナーだ。
 
「読んで、ちょっとほっとするようなもので、内容は任せるから、何か考えてみてくれよ」

 つまり、「箸休め系」か。だが、自分には、そういうもののほうが合っているのだと思う。
 
「わかりました。考えてみます」


 デスクで頬杖をついて、涼平は考える。ちょっとほっとするようなもの、か。
 
 ふと、本を読んでいる真名人の姿が頭の中に浮かぶ。読書の勧めというのはどうだろう。
 
 お勧めの本を紹介するのだ。そうだ。内容は任せるというのだから、真名人に書かせるのはどうだろう。
 
 社長の孫が書くというのは、何か差し障りがあるだろうか。それならば、涼平の知り合いとでもいうことにして、ペンネームを使えばいい。
 
 真名人はずいぶん読書が好きなようだし、休学中でもあるから、ちょうどいい気晴らしになるのではないか。
 
 ポケットマネーで原稿料を払ってもいい。いや、申請すれば、ちゃんと原稿料は出るだろう。
 
 うん。いい考えだ。さっそく今日帰ったら、真名人に話してみよう。(終)
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