第8話

文字数 1,041文字

席に案内され、キャンドルの揺れるテーブルのソファに腰を下ろすと、二人の女の子が元気に駆け寄ってきた。彼女たちはキラキラした目で僕たちを見つめ、楽しげに笑いながら水割りを作り始めた。まるでその場の雰囲気を盛り上げるために存在しているかのように、彼女たちの明るい振る舞いが場の空気を一層楽しくしていた。僕はその雰囲気に乗せられ、調子に乗って話し続けてしまったが、ふと気づけば40分が過ぎていた。

その刹那、鮮やかな赤いドレスを身にまとった女性が新たな章の幕開けを告げるかのように、ゆっくりと歩いてきた。店内の空気は彼女の登場とともに一層華やかになり、その場の感覚を引き立てていた。彼女がさっと僕たちの席に座ると、心臓が鼓動を強めるのを感じ、平静を装おうと必死になりながらも、心の奥では不安定な感情がうごめいていた。

彼女がいると、周りの空気が静まり返り、時間がゆっくりと流れるような感覚に包まれた。彼女の姿は現実感を失わせるほどの美しさで、まるで夢の中から抜け出してきたような存在だった。彼女の一挙手一投足が、この現実を別の次元へと導いているかのようだった。僕はその瞬間、彼女が実在する人物なのか、それとも僕の心が生み出した幻影なのか、わからなくなっていた。彼女が僕のグラスにそっと水割りを注ぐその手の動きさえ、まるで夢の中の出来事のようにぼんやりと感じた。僕は息を潜めて彼女の動作を見つめていたが、それが現実なのか夢なのか、その境界線がどんどん曖昧になっていくのを感じた。

彼女は波の音のような静かな動作で僕のグラスに新しい水割りを注いでくれた。僕はその間、彼女をじろじろと見ないようにしながらも、心の中で彼女を値踏みしていた。こんな場違いな場所に、どうしてこんな美しい女性がいるのだろう、と僕は心の中で思っていた。

不思議なことに、その時、もし自分がこの女性のような姿になれたら、どんな気分だろうかと考えていた。そして、その中に隠れた欲望が潜んでいることに気づいた。僕の心の奥底には、理性を揺さぶるような欲望が潜んでいて、その思考の中で自分自身が徐々に後退していくのを感じた。僕は自分自身に対して満足していなかった。女に生まれていればどんなによかったかと考えることがあった。

彼女の存在そのものが、僕を現実から切り離し、ただ彼女だけが確かなものとしてそこにあるような感覚に囚われていた。

しばらくして、ボーイがやってきて、ショウの耳元で何かを囁いた。ショウは僕に尋ねた。

「どうする?延長する?」






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