第18話

文字数 1,163文字

やがて、耳をつんざくような音が遠のき、目の前はまるでこの世の地獄のようだった。階段を上がってくる足音がかすかに聞こえる。僕はバスタブから出て、タオルの上に立ち、緊張で体が硬直しながら、血に染まった死体をまたぎ越え、一歩ずつ慎重にバスルームを出た。

廊下にはリザが立ちつくしていた。彼女は片手で柱を押さえ、恐怖に満ちた目で僕を見つめている。顔は青白く、呼吸が荒い。

僕は目を細め、銃を前に突き出し、引き金に指をかけながらゆっくりと前進した。リザは青ざめた顔で僕を見つめ、震えながら後ずさりした。彼女が僕を覚えていなかったことが、僕にはひどくみじめに感じられた。

銃口は彼女の胸に向けられていた。

「お願い……」リザは息をきらせながら懇願する。

僕は自制心を保とうとして、思わずピストルを下げ、何か言おうとしたが、言葉が出なかった。唾を飲み込み、拳銃を握りなおした瞬間、階段の柱に掛かった振り子時計の鐘が沈黙を破った。リザが恐怖に身をこわばらせ、ふと振り向いた瞬間、僕は反射的に銃を上げて引き金を引いた。銃口からオレンジとブルーの閃光が上がり、目の前が一瞬真っ暗になり、乾いた音がこだまして、リザの脇腹を撃ち抜いてしまった。

リザはよろめきながら階段から落ち、僕は思わず目を閉じた。目を開けると、僕が入ってきた小窓の前で、無様な姿で力なくリザが横たわっていた。彼女の頬には涙が伝い、血まみれの顔で絶望的な声を上げながら僕を見上げていた。

「お願い、殺さないで。神様、お助けください」と、彼女は神の意志について語りながら、僕に訴えた。

どうするべきかわからなかった。しかし、僕には選択の余地はなかった。

僕は目を窓の外に転じ、心の中を覗いた。逃げられる、捕まらないという根拠のない自信――他の現実がまるで幻想のように感じられるほどの確信を抱いていた。

また、自分がリザが死ぬ前に見る最後のものであり、求めてきたものを生贄にすれば、群衆の中でも独立した存在として誇りを得られるに違いないと考えた。

僕はリザを見下ろし、彼女が神に祈りながら手にしていたものに目を向け、それを掴んでポケットにしまい込んだ。彼女の目がそれを追い、激しくむせかえり始めた。僕は数秒間リザを見下ろしながら、この瞬間を物体と同じくらいリアルに感じた。しがいのある瞬間としての感覚が広がり、銃を構え、硬くそそり勃つ肉根を握り直すように、リザの胸を狙って引き金を引くと、銃口から炎が吹き出し、反動がきた。彼女はみじろぎもせず、神の意志についてのたわごとのすべてが銃声とともに消え、リザの命の灯火が消えていく音が、確かに聞こえた気がした。そして、その瞬間、僕の内に生命の息吹が宿ったのだ。

それを世の中に証明する術はないけれど、未来永劫続くリザと僕の物語が始まったのだという感触に浸っていた。

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