第２話

僕はドナにかみつくように言った。「うるさい！今、タコスの話なんかするな！ゲロなんて言葉を使うな！」

でも、そういう気持ちになるのも無理はない。

誰だって、ゲロのタコスを想像してしまうんだから。

後ろの方では、ショウのことなどおかまいなしに、何食わぬ顔で騒いでいる女子たちの声が聞こえる。「あきらめなさい」「なにやったってブスはブスなんだから」「いつまで夢見てんのよ」

ドナは彼女らをチラリと見た。

その騒ぎから取り残された目鼻立ちの整ったリザが、「つらくて我慢できないなら、吐いてもいいよ」と言ったのを聞いて、僕の動きが止まった。

リザはめったにいないようないい女だった。彼女は本当に美しい。それも、外見だけでなく中身まで。僕はただ呆然とリザを眺めた。

白い短いソックスに、薄いブルーのワンピースを着たリザがこちらに向かってくる。すると、バスの中の雰囲気も、光の感じも、さっきとはなんとなく違って見えた。眩しくて、ちゃんと彼女を見ることができなかった。彼女は持っていたハンカチをショウに差し出してくれた。

ブロンドの髪は美しく、肌は抜けるように白くて、はつらつとしていた。僕は圧倒され、この手で触れてみたいという衝動に駆られた。

そのとき運転席から先生が声をあげた。

「ショウ！ 次の出口で降りるぞ！我慢できるか？」

ショウはリザに礼を言ってハンカチを受け取り、それを口にあてがうと、シートの背もたれに背中を預けた。そしてしばらくして、今度は背中を丸めて前かがみになり、息を呑んでハンカチを眺めていた。

なぜだかわからないが、僕はショウに対してムカっとした。しかし、彼の弱々しい姿が、なんだか見ていられなくなり、立ち上がってリザに席を譲った。彼女がショウを気遣おうとしていたからだ。

リザがショウを覗き込み、背中をさすって声をかける姿は、まるで天使が降り立ったかのようだった。彼女の手は穏やかに背中を撫で、優しい言葉がそのひとときを包み込んでいた。リザの存在は、ショウにとって唯一の支えとなっていた。

やがて、ハイウェイを降りたバスはショウを下ろすために急いで緑の公園の前で停車し、ドアが開いた。