第19話

文字数 1,065文字

電話をかけてきた青年は、リザと同じ高校に通っていたショウと名乗った。声は落ち着いていて、静かで丁寧な口調だった。リザに祈りを捧げたいと言って、午前10時ちょうどにやって来た。

ショウが家に入ってくると、まっすぐキャサリンを見つめた。その視線には決して押しつけがましさはなく、むしろ彼自身がどうやって悲しみを抱え、向き合えばいいのかを模索しているように見えた。物静かで、礼儀正しい青年だった。リザの友人たちのことをキャサリンはほとんど知らなかった。リザが学校でどんな人と付き合っていたのか、彼女が家で話すことは少なく、この青年も当然知らなかった。しかし、彼の姿には言葉にできない何かがあって、その場の空気を穏やかに変えていた。

彼はリビングの一角に静かに腰を下ろすと、目を閉じて祈りを捧げ始めた。その姿は驚くほど落ち着いていて、キャサリンは少しの間だけ視線を外し、彼の祈りを邪魔しないように気を使いながらも見ていた。自分が知らないリザの友人が、こうして彼女のために祈りを捧げに来ている。この光景がどこか現実感のない、不思議なものに感じられた。リザがいなくなったことが、まだどこか遠い夢のように思えてならなかったのだ。

祈りが終わると、彼はゆっくりと顔を上げ、ヨセミテ国立公園にクラスの希望者だけで行ったときのことを語り始めた。その旅行で、リザが彼を助けてくれたのだという。「本当に感謝しています」と彼ははっきりとした口調で言った。その言葉は、単なる儀礼ではなく心の底から出たものだった。キャサリンはその瞬間、リザが自分の知らない場所でも誰かにとって特別な存在であったことを初めて実感した。それは、誇らしい気持ちと同時に、どこか胸が締めつけられるような感覚だった。

帰り際「リザの部屋を、見せていただいてもいいですか?」と尋ねる彼にキャサリンは驚き、思わず彼を見つめたが、その眼差しには偽りがなく、純粋にリザとの思い出に触れたいという気持ちが伝わってきた。彼女は自然と「ええ、どうぞ」と答えていた。

ショウがリザの部屋に静かに入っていく様子を、キャサリンは少し離れたところから見守っていた。彼は慎重に、まるで壊れやすい何かを扱うかのように、部屋の中を見回していた。そこには、リザが残した物たちが静かに並んでいた。キャサリンは、自分自身もまだ完全に向き合えていないその部屋に他人が歩み寄る姿を見て、リザがいなくなった現実が一層重くのしかかってくるのを感じた。それでも、彼がリザを大切に思っていたことがはっきりと伝わり、その時間を静かに受け入れた。

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