第11話

文字数 1,056文字

キャサリン・パーマはオーク材のダイニングテーブルを拭きながら、その滑らかな木目に無意識に目を走らせていた。手に馴染む感触が、わずかながら心を落ち着けるのだ。それでも、彼女の心は安らぐことがなかった。ダイニングの窓から見える外の景色は変わらないはずなのに、どこか違う世界のように感じる。もうここには、かつての幸せな家庭の面影は残っていない。

突然、電話の音が部屋の静寂を破った。キャサリンの手が止まり、胸が一瞬で高鳴る。心臓の鼓動が耳に響くのを感じながら、彼女は布巾を手にしたまま、ゆっくりと電話に歩み寄った。慎重に受話器を取り上げると、低い声で「ハロー」と答えた。

聞き慣れない男の声が返ってきた。「こちらはパーマさんのお宅でしょうか?」

「ええ」と彼女は抑えた声で答えた。

「私は雑誌の記者で、娘さんの事件について取材している者ですが――」

その瞬間、キャサリンの体中が冷え込んだ。彼女の心の中で毒づくような声が響いた。またか。

この手の電話は、もう何度もかかってきていた。リザの名前がメディアに取り上げられるたびに、家族の心は粉々に砕け散るようだった。すでに幾度となく記者たちが電話をかけてきて、彼女の心に鋭いナイフを突き刺してきた。彼らはリザのことを知りたがっていたが、彼女の痛みや苦しみを理解しようとする者はいなかった。

キャサリンは、無言のまま受話器を置いた。そして、その場に立ち尽くし、大きなため息をつくと、ダイニングテーブルの椅子に腰を下ろした。足元が重く、体が鉛のように感じた。

あの日以来、彼女の人生はすっかり変わってしまった。リザの事件が表面化してからというもの、彼女の心から笑顔が消え去った。もう誰にも、何にも、心から笑うことはできない。彼女の幸せは、一瞬で奪われてしまったのだ。夫のスペンサーも、去年、心疾患で亡くなった。彼の死も、リザの事件とは無関係ではないと感じていた。

当時、リザの名前が新聞や雑誌にスキャンダラスに取り上げられ、彼女の裏の顔を暴くような記事が溢れていた。毎日のように二人はそれを目にして、苦しんだ。ある記事には、リザとされる女性の写真が掲載され、ロサンゼルスのナイトクラブで男たちと親密に過ごしている姿が写っていた。リザではなかったが、誰もがその女性をリザだと思い込んだ。結果として、リザが売春婦だというデタラメが広がった。それが夫を苦しめ、命を奪ったのだとキャサリンは信じていた。

また電話が鳴った。

彼女はショックで目の前が真っ暗になり、しばらく椅子に座ったまま、静かに涙を流した。
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