第14話 イヴの贈り物

文字数 1,262文字

 家に帰ると、静香が大きなドラエモンのヌイグルミと一緒に赤札のついたカナッペに座り、テレビを観ていた。静香はわたしに気づくと、ドラエモンの頭をパンと叩いた。
「クラスのやつらにもらったんだ。お餞別だとよ。みんな泣いてやがった。いったいこのバカ騒ぎはなんなんだよ。これじゃ、学校に戻れねえじゃないか」
 静香は人気者である。とくに一部の女子には熱狂的ファンがいる。
「あたしも、ファイト、ファイトとかしつこく言われて、いきなり抱きついて、『かわいそう』とか泣き出す子までいるし。ホント凄いことになってた」
「おれ、何かの本で前に読んだことあるけど、昔の貧乏な親は、人買いに自分の子供を売っぱらったっていうぜ」
「あたしたちは、人買いに売られたんじゃないよ。未成年後見人の家に引き取られるだけでしょう」
「で、その人買いが、見世物小屋の主人に、買った子供を預けるわけだ――」
 静香は構わず続けた。
「見世物小屋の主人は、子供の手足を切断しちまうらしい。んで、見世物にして金取るんだよ」
「止めてよ」
「あのババア、いったいおれたちにどんな仕事させるつもりだろうな」
「分からない。でもあの二人組みの男の人たちよりは、ましなことさせてくれると思う」
「だといいんだけどな」
 土曜日の朝はとても冷えた。
九時ごろ起きだしたわたしたちは、納豆とお味噌汁の朝食を取った。
「さて、一応やるべえか」
 食べ終わると静香が言った。
「うん」
 わたしたちは立ち上がって、各々の部屋に向かった。
押入れの中におとうさんが昔使っていたスーツケースがあったので、とりあえずその中に、わたしたちの冬物の衣類を詰め込んだ。分厚いセーターとジャッケットを入れただけで、小さなスーツケースはぱんぱんになってしまった。
「もう少し、うまく入れようよ」
「あっ、美里見ろよ。雪だぜ」
「本当だ」
 窓の外には白い小さなものが舞っていた。わたしは唐突に、今日がクリスマスイブであることを思い出した。
「ホワイトクリスマスだね。ロマンチックだね」
「今晩食事するカップルは、みんなきっと大喜びだぜ。みんなプレゼントとか貰うんだろうな。いいなあ。おれらのプレゼントは、今晩からあの妖怪ババアと一緒に住むってことだもんなあ」
 わたしはふと、幼いころのクリスマスイブを思い出した。
 あの頃はわたしも静香もまだ、サンタクロースを信じていた。おとうさんが、わたしたち姉妹にクリスマスプレゼントは何が言いかと尋ねたので、わたしはセーラームーンのフィギアにレゴ、静香はダイキャスト・ウイングガンダムに花札が欲しいといった。
「そうか。よおくわかった。おとうさんがちゃんと、サンタクロースのおじさんにお願いしておいてあげるからな」
「おとうさん、サンタクロース知ってるの」
「ああ知ってるさ。知ってるなんてもんじゃない。親友だ」
「ねえねえ、どんな人?」
「子供好きのいい人だな。トナカイが好物なんだ」
「うわ~、トナカイ食べちゃうんだ~」
「すげ~。おれも食いてえ」
 今から思えば、わたしも静香も無邪気だった。そして父は大嘘つきだった。
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